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[プレミアリーグEAST]0-7の悔しさと、0-0の悔しさと。桐生一がプレミアの舞台で手にした勝ち点1の意味

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激しい局地戦の続いたゲームはスコアレスドローに

[4.24 プレミアリーグEAST第4節 桐生一高 0-0 市立船橋高 太田市運動公園陸上競技場]

 キャプテンが心から悔しそうに語った言葉が印象深い。「正直スコアだけ見たらだいぶ成長しているのかなと思うんですけど、この試合内容だったら絶対に勝てた試合ですし、そこで勝ち点3をゲットできないとプレミアには残れないですし、自分の中では本当に悔しい結果でした」(諏訪晃大)。

 大敗からのリスタートとなる一戦は、勝ち点3を引き寄せるに値するようなスコアレスドロー。24日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第4節、桐生一高(群馬)と市立船橋高(千葉)という高体連の強豪同士が対峙したプレミアリーグ初対決は、ホームチームが押し気味にゲームを進めながら、結果は0-0の引き分け。桐生一がプレミア初勝ち点を獲得している。

「正直、0-7で負けた試合から2,3日はずっと自分の頭の中にそのことがあって、焦りというのが9割くらいを占めていました」。桐生一のキャプテンを務めるMF諏訪晃大(3年)は、少し前の自分をそう振り返る。本来の開幕戦だった流通経済大柏高(千葉)との試合が延期となり、ホームに横浜F・マリノスユース(神奈川)を迎えて戦った第2節。桐生一は前半から失点を重ね、終わってみれば0-7という衝撃的なスコアでプレミアデビューを終える。

 翌週の柏レイソルU-18(千葉)戦も延期となったことで、2週間ぶりとなったリーグ戦のゲーム。中村裕幸監督は明確な基準を設け、メンバー選考に当たっていた。「『今週の目の色でスタメンを決める』と。『もう上手い下手云々じゃなしに、今週戦ってくれるかなというヤツを出すよ』というところで、トレーニングを見ながら選んできました」。スタートの11人も、ベンチの7人も、確固たる決意を持ってこの試合へ臨んでいた。

「市船さんも当然局面は強いので、ウチが長いボールを入れなくてもそういう拾い合いになると思っていました」と中村監督が話したように、試合開始からボールが行き来する展開に。大きなリスクを負わない流れの中で、市立船橋は前半10分にDF佐藤凛音(2年)のフィードから、最後はMF高橋悠真(3年)がフィニッシュ。ここは桐生一GK清水天斗(3年)がキャッチしたが、ファーストシュートを記録する。

 ただ、20分を過ぎると「とにかく基本的にはボールを奪いに行こうと。そこだけ1回2回引っ掛かれば勇気が出るかなと考えていました」と指揮官も言及した桐生一は、高い位置からのプレスが奏功してチャンスに直結。24分にはFW島野大和(3年)のボールカットから、MF藤島優吹(3年)のシュートは枠を越えたものの、ここからホームチームが攻勢を強めていく。

 25分にもハイプレスから諏訪と島野が相次いで相手ゴールに迫れば、36分にも諏訪が果敢なチェイスでボールを奪い、島野のシュートがゴール方向に向かうと、懸命に戻った市立船橋DF藤田大登(3年)が間一髪でクリア。さらに39分には清水のゴールキックから、諏訪が右サイドを独走。シュートは市立船橋GK田中公大(3年)のファインセーブに阻まれたが、「前で取り切ってそこからやれればなというところが理想で、守備の部分がだいぶ狙いどおりにできたのかなと。そこが前半の一番良かったところですね」と中村監督も口にした桐生一ペースで、最初の45分間は終了した。

「前回の横浜FC戦で3バックにして勝つことができたので、本人たちもそれで手応えを得ているところもあってそのままの形でやったんですけど、それが仇になって前半は後ろに重たくなってしまいましたね」と波多秀吾監督も振り返ったような前半を経て、市立船橋は後半開始からFW青垣翔(3年)を投入。エースのFW郡司璃来(2年)を右寄りに配し、反撃を期す。

 だが、後半も最初の決定的なシーンは桐生一。8分にMF岡村葵(3年)のパスを引き出した諏訪が完璧な右クロスを送ると、走り込んだ左SB江原佳汰(3年)が完璧なヘディングを放つも、軌道はわずかに枠の左へ。市立船橋も19分に好機。郡司が右サイドを運んでクロスを上げ切り、ファーで待っていた左WB北川礁(3年)のシュートはクロスバーの上へ。お互いにスコアを動かし切れない。

 桐生一で特筆すべきは守備陣の安定感。「1対1の対人で相手から目を離さないとか、集中を切らさないということは、マリノス戦のフォワードから学んだので、今回は集中できたのかなと思います」とディフェンスリーダーのDF中野力瑠(3年)も胸を張った通り、最後の局面に入る手前でチャンスの芽を摘む守備を徹底。横浜FMユース戦はベンチスタートだった右SB小泉郁歩(3年)とCB水井勇貴(3年)、ボランチのMF岩崎隼星(3年)も果敢なプレーを披露し続け、指揮官の起用にきっちり応えていく。

 35分には再び桐生一に決定機。左サイドを駆け上がった江原のクロスはファーに届き、諏訪は丁寧にトラップしたものの、中へ持ち出したタッチが大きくなってしまい、シュートは打ち切れない。37分にもカウンターから藤島が右クロスを送り、途中出場のMF小野剛史(2年)が飛び込んだが、田中が丁寧にキャッチ。1点が遠い。

 ファイナルスコアは0-0。「やっていて、『これはたぶんちゃんと勝ち点3を獲らないといけないんだろうな』と思いながら、ガッと陣容を振り切らせて1点を獲りに行くのに、ウチの後ろじゃまだ物足りないなというところがあったので、難しかったですね。もう一歩押し出させるのか、このままで獲り切れるかなと思うところで、ちょっと迷いが出ました」とは中村監督だが、前節から大きな内容の改善を見せた桐生一が、プレミアでは初となる勝ち点1を獲得する形となった。

「マリノス戦をやって、やっぱり相手とのプレスのスピードだったり、取った後の繋ぎのクオリティというところが一番差を感じたところで、あのマリノスの強度よりもっと高い強度で練習しないといけないということを1人1人意識して、練習に励んできました」と話したのは諏訪。もちろん悔し過ぎる経験だったが、桐生一の選手たちもただ手をこまねいてこの2週間を過ごしてきたわけではない。

 前回の試合は出場機会のなかった岩崎も「チーム全体でも練習から意識を変えないと、自分たちが変わらないといけないというのは一番見てて思ったことですね。言うだけなら誰でもできるので、本当に変わらないといけないなと思いました」と言及。少なくとも『変わりたい』と強く感じた想いは、間違いなくこの日のピッチに立った選手に色濃く反映されていた。

 指揮官もこの日の試合から、新たな気付きを得たようだ。「『もっと選手を信用した方がいいんだな』というふうに感じた選手はいましたし、逆に『オマエ、もっと頑張れよ』という選手もいて(笑)、個人差があるんですけど、おそらく本人たちもとにかくもかがないと勝ち点を獲れないことをこの間の試合で分からせてもらったので、今日こうやってみて手応えの部分と、そうじゃない部分を得ながら、『このゲームを勝ち点3にするにはまだ足りないよね』というところで、今後の試合に向かっていければなという形ですね」。

 何度も到来した決定機をモノにできなかった諏訪は、きっぱりと言い切っている。「もう本当に今回の試合はガチで悔しいということしか頭にないです」。

 0-7で突き付けられた悔しさと、0-0で湧き上がった悔しさと。この感情を次へと向かうエネルギーとして燃やすことができるのであれば、桐生一はまだまだ絶対に強くなる。

(取材・文 土屋雅史)

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