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指揮官は大学同期の選手権日本一も大きな刺激に。県大会連続準優勝の共愛学園は「夢があるから強くなる」

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共愛学園高は初の群馬制覇まであと一歩に迫った

[2.5 群馬県新人大会決勝 桐生一高 2-0 共愛学園高 アースケア敷島サッカー・ラグビー場]

 選手権予選に続いての、県ファイナル進出。確実に伝統は積み上がりつつある。それゆえに、このタイミングは逃せない。目線が上がっている今だからこそ、これまでより先の景色へ踏み出すために、やるべきことを、丁寧に、着々と。

「今まで卒業生たちが積み上げてきてくれた“一歩先”に、ここで行かないといけないのかなと強く思っているので、その積み上げてきてくれたものを生かしたい想いはあります。今の選手も去年の選手権の決勝を見て、それを強く感じていると思うので、それをしっかりと利用していきたいです」(共愛学園高・奈良章弘監督)。

 群馬からの下克上を狙うのは、『夢があるから強くなる』を掲げるエンジの実力者。共愛学園高がその存在感を、今まで以上に高めている。

「『決勝で勝つチーム』をスローガンに今年はスタートしたんです。去年の選手権の決勝で育英と感じた差は、球際の部分だったり、強度の部分だったので、まずはそこも含めて“戦う”というところを強調してスタートして、そこにチームとして意欲的に取り組んでくれている部分があるので、その点で接戦を拾いながら、またこういうところまで来れたのかなと思います」。

 チームを率いる奈良監督は、この3か月あまりの歩みをそう語る。昨年11月の選手権予選では決勝へと進出。最後は前橋育英高に0-6と大差で敗れたものの、小さくない経験をピッチで味わったメンバーも複数残る構成の新チームで、群馬県高校新人大会に臨む。

 組み合わせの妙もあって、初戦から難敵続きの山に。まずは市立前橋高に1-0で辛勝すると、高崎経済大附高には2-0で競り勝ち、準々決勝では伊勢崎工高との激闘をPK戦でモノにする。そして、常磐高との準決勝も相手に3倍近いシュートを打たれながら、延長で10番のMF松本陽生(2年)が決勝ゴール。苦しみながらも、2大会続けて県の決勝へと勝ち上がってきた。

 対峙するのはプレミアリーグを1年戦い抜いてきた桐生一高。その舞台に立った選手を軸に据えたチーム相手に、「最初は選手が桐一さんをリスペクトし過ぎてしまって、ちょっと弱気になって、行くところを行けなかったり、判断のないプレーをしてしまいましたね」と指揮官も話したように、共愛学園はなかなか立ち上がりから自分たちの持ち味を発揮しきれない。

 前半のうちにサイドアタックとCKから2失点。時間の経過に伴い、ドイスボランチを組むMF桑子佳太(2年)とMF堀口稜真(2年)の配球から、右の松本、左のMF萩原来波(2年)の突破を生かした攻撃は披露するも、フィニッシュには繋がらず。1本のシュートも記録できないまま、最初の40分間は終了する。

 後半は守備も安定。昨年からレギュラーを務めるGK佐藤明珠(1年)、CBに入ったDF天田諒大(1年)とDF阿久津祐樹(1年)が安定感を打ち出し、右SB飯島柊音(1年)と左SB川田琉夏(2年)の攻撃参加も増加。2トップのFW鈴木心穏(2年)とFW松下晴省(2年)にもボールが届き出す。

 20分にはこの試合最大の決定機。左から萩原が上げたクロスは、ファーに走り込んだ松本に届くも、シュートはゴール左へ逸れてしまう。「2点目のコーナーのもったいない失点がなければとか、決定機を決め切れないとか、目に見えるのはちょっとした部分ですけど、そこが実際に大きな部分で、そういうところの意識だったり、注意の部分を変えていかないと、勝ち切れないなとは実感しています」と奈良監督。スコアは0-2。今回も県の頂点には、あと一歩で届かなかった。

テクニカルエリアから指示を送る共愛学園高の奈良章弘監督


「決勝で負けるのは5回目ですからね」と奈良監督が苦笑する。まだ群馬制覇を達成していない共愛学園が、県内の決勝で敗れるのは2002年の創部以来今回で5回目だが、3年前と昨年の選手権予選に加え、今回の新人戦とここ3年で3度のファイナル進出を果たしている。

「近年こういう舞台に立てるようになって、『あそこが基準だぞ』ということを言っても、選手がわかるようになってきているのが大きいと思いますね。そこまで辿り着かないと、口で言っても実際は『どこなんだ?』と。やっぱり練習試合の強度と違うので、アレを経験できているのは凄く大きいですし、選手もベクトルをあそこに向けなくてはいけないと意識してやってくれているので、良い流れでは来ていますね」(奈良監督)。群馬の中でも間違いなく立ち位置は変わりつつある。

 最近、奈良監督には大きな刺激を受ける出来事もあった。1月の選手権で全国制覇を成し遂げた岡山学芸館高の高原良明監督は、東海大時代の同期。「機会が合えば練習試合をしたり、同じフェスティバルに呼んでもらったら、そこで試合させてもらったりしていますし、コロナ禍の前はウチの九州遠征の帰りに、高原のところの新しい寮に泊めてもらって、試合をやってもらったりしていました」。大学時代からの“遊び仲間”だったこともあり、チームともども親交を深めてきた。

 そんな友人が日本一の監督に。「決勝の前日にも電話やLINEでやり取りするぐらい、しょっちゅう連絡を取っていますし、本当によく知っているヤツなので、余計刺激にはなっています。そういう仲間が日本一になるというのは嬉しい反面、悔しさはもちろんありますけど、先を越されたので、追い掛けていかないといけないなと思っています」。高原ができるなら、自分だって。追い掛けるべきものが、また1つ増えている。

「今年は凄く真面目な子が多くて、努力もできる子が多いんです。突出した選手はいないかもしれないですけど、チームで戦っていくような選手たちなので、そこを伸ばしていきたいなと思います。今日の試合で自分たちの時間をもうちょっと増やしていかないと厳しいのかなとは感じましたし、チームとしての差もあったので、1人1人の技術と状況判断を上げていきたいですね」(奈良監督)

 “6度目”の先にある群馬制覇は、間違いなくその視界に捉えつつある。この流れを止めずに、一気にそこまで辿り着けば、チームの歴史も、そして群馬県の高校サッカーの歴史も変えることができるはずだ。掲げたスローガンは『夢があるから強くなる』。着実に力を付けてきた共愛学園の夢は、もうただの夢では、決してない。



(取材・文 土屋雅史)

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