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[新人戦]狙うは「全部に全力で」全タイトル制覇。桐生一が共愛学園に競り勝って5年ぶりの群馬制覇!

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桐生一高は18年以来となる新人戦の群馬制覇を達成!

[2.5 群馬県新人大会決勝 桐生一高 2-0 共愛学園高 アースケア敷島サッカー・ラグビー場]

 最大のライバルを倒した次の試合だからこそ、より自分たちの力が問われることは十分に共有していた。勝って優勝と、負けて準優勝では、天と地以上の差がある。ならば、やはり前者以外の結果が許されるチームではないことも、彼らはもちろん十分に理解していた。

「ウチは“2番目”がずっと多かったので、そういうところを脱却して、優勝しないと当然次のステージが手に入っていかないですし、今日もちゃんと勝ち切ることで、『また次もウチが勝つんだよ』という集団の姿勢としてのこれからを考えると、当然今日の勝ちと負けはだいぶ違うと思うので、『ここはしっかり獲るぞ』という話はしました」(桐生一高・中村裕幸監督)。

 明確に狙って獲った、新チームの初タイトル。令和4年度群馬県高校新人大会決勝が5日に行われ、桐生一高共愛学園高が対峙。前半にMF小野剛史(2年)とDF原田琉煌(1年)のゴールで2点を先行した桐生一が、そのまま2-0で快勝を収め、2018年以来3大会ぶりとなる新人戦制覇を成し遂げている。

「最初は選手が桐一さんをリスペクトし過ぎてしまって、ちょっと弱気になって、行くところを行けなかったり、判断のないプレーをしてしまいましたね」と共愛学園の奈良章弘監督が話したように、立ち上がりからリズムを掴んだのは桐生一。右から原田、キャプテンのDF中野力瑠(2年)、DF松島颯汰(2年)が並んだ3バックで丁寧にビルドアップしながら、後ろに下りてピックアップする中盤アンカーのMF清水大嗣(2年)の展開力と、「精度の高いボールを蹴る自信がある」と言い切る中野が繰り出す、右のDF能崎大我(2年)、左のDF深澤拓夢(2年)を生かす対角のフィードで、共愛学園のラインをジワジワと押し下げていく。

 すると、先制点はやはりサイドアタックから。前半16分。中野のフィードを受け、右サイドを運んだ能崎が中に入れると、中央でこぼれたボールに小野がいち早く反応。「最初は右足でシュートを打とうと思ったんですけど、相手が来ていたので、『これはかわそう』と思ってかわしたら、シュートコースがあって、あまり左足は得意ではないんですけど、『ここはもう打つしかない』と」左足で打ち切ったシュートは、ポストを叩いてゴールへ転がり込む。昨シーズンのプレミアリーグでは全22試合に出場しながらゴールを奪えず、『今年は絶対に自分が決めてやる』という想いで試合をしてきた」というアタッカーの今大会初ゴール。桐生一が力強く先制する。

 勢いは止まらない。30分は左サイドで獲得したCK。レフティの深澤がアウトスイングで蹴り込むと、中野がニアに飛び込んだこぼれを小野が粘って残し、最後は原田がきっちりゴールにねじ込む。「ウチのGKコーチが金曜日に一生懸命やっていましたから」と中村監督も笑った狙い通りのセットプレーが、前日の前橋育英高戦に続いて2試合連続で得点に直結。2-0。点差は2点に広がった。

桐生一高の2点目を挙げたDF原田琉煌(左端)がガッツポーズ


 好調な攻撃は、守備にもポジティブに波及する。40+1分は共愛学園にチャンス。ボランチのMF堀口稜真(2年)が右に振り分け、MF松本陽生(2年)の丁寧なクロスを収めたFW鈴木心穏(2年)のシュートは、原田が身体でブロック。こぼれを拾ったFW松下晴省(2年)のフィニッシュも、松島がきっちり身体に当てて弾き出す。最初の40分間は桐生一が2点をリードして、ハーフタイムへ折り返す。

 後半も先に決定機を掴んだのは桐生一。8分。深澤が丁寧なフィードをディフェンスラインの裏に落とし、走った小野のループシュートはわずかに枠を越えるも好トライ。「2-0のあとも『まだまだ点を獲るぞ』という気持ちで、後ろも引かずにプレーできました」とは中野。後半から投入されたFW山田康太(1年)の突破に、MF佐藤柊(2年)とMF小林昂立(1年)も積極的にボールを呼び込み、次の1点を虎視眈々と狙う。

 追い掛ける共愛学園も昨年から守護神を任されているGK佐藤明珠(1年)、DF天田諒大(1年)とDF阿久津祐樹(1年)のCBコンビで構成された1年生トライアングルを中心に、時間を追うごとに守備の安定感が増すと、20分には絶好の得点機。左サイドを運んだMF萩原来波(2年)がクロスを上げ切ると、ボールは走り込んだ松本へ届くも、フリーで放ったシュートはわずかに枠の左へ。これには思わずベンチの奈良監督も天を仰ぐ。

 このピンチで、逆に桐生一の守備陣はより引き締まった。準決勝はベンチだったGK金井隆刀(2年)が最後方から声を掛け続ければ、途中投入されたMF山岡康平(2年)、DF伊豫部幸太(2年)、MF佐藤能之(1年)も自身の役割をまっとうし、前線からはFW篠原一樹(2年)がハイプレスを敢行。結果的に1試合を通じた相手のシュートは、後半に迎えた決定的なピンチの1本のみに抑え込む。

「中村先生から『ファイナル以外で育英に勝った後には、毎回敗れている』と言われていましたし、『今日勝たなければ1回戦で負けたのと同じだよ』とも言われていたので、チーム全員で優勝という目標に向かって、一丸となって戦えたのが良かったと思います」とは中野。最終的なスコアは2-0。準決勝で前橋育英、決勝で共愛学園と昨年度の選手権予選ファイナリストを相次いで撃破した桐生一が、新チームで臨む最初の大会で力強く群馬制覇を手繰り寄せた。

 周囲にしてみれば、プレミアリーグEAST最下位でプリンスリーグに降格したという事実は、桐生一の2022年のごくごく一般的な見方だろう。ただ、彼らは苦しみながら、もがきながら、それまでには得られなかったさまざまなものを体感してきた。

 昨年のチームで唯一プレミアリーグ全試合フル出場を果たした中野の言葉が印象深い。「プレミアで一番衝撃を受けたのは0-7で負けた開幕のマリノス戦で、マリノスのフォワードがプレミアの基準を教えてくれたことはポジティブに捉えられました。今年対戦するのはみんな同年代ですし、新人戦ではそこまでのレベルの選手はいないですから」。センターバックとして、プロになるようなレベルの選手と1年間肌を合わせ続けた経験は、今までとは比較にならないぐらいの高い基準を突き付けてくれたのだ。

「去年のプレミアで我々は、『前橋育英高校が11チームいる』ようなリーグを体感したわけで、ちょっと去年とテイストは違ったとしても、今年も内容も大事ですし、選手も成長してくれないと、またそういう舞台に立てるチームにならないと思いながら、どこかで『これだけできたから全部の結果は……』みたいなことも言いながら、実際にこの2,3年ぐらいはリーグに凄くこだわっていましたけど、実際にトーナメントのコンペティションの上の方には出られていなかったわけで、そういう結果の部分にこだわってやっていきながら、でも、上手くしたい、上手くなってもらいたいという狭間で悩むのもいいかなと思っているんですよね」。中村監督の言葉も率直だ。リーグの結果にこだわり、プレミアを経験したからこそ、トーナメントの結果が必要なこともよりわかったという感想は、非常に興味深い。

「チームとしてはプレミアにこの1年で戻るということを意識しつつ、インターハイと選手権では育英に勝って全国に行きたいです。去年は個の能力の高い人が多かったので、個人での1対1でも簡単に剥がせる場面もあったんですけど、今年はグループで戦う能力が凄く高いと思うので、そういう面では今年は違う形の桐一のサッカーを見せられるんじゃないかなと思っています」(中野)。

「今年はまだ選手にも去年の“貯金”がありますけど、それがあるうちに、もう1回貯金を手にしに行きたいですよね。もちろん一番は『プレミアに戻ることだぞ』と言っていますけど、そこも含めて全部やる努力がこの子たちには必要なのかなと。僕も含めて、『こっちで勝ったから、こっちはいいじゃん』ではなくて、『全部に全力で』という姿勢で、ウチのサッカー部としての総力を上げられるようにしていきたいです」(中村監督)。

 獲れるタイトルは、全部獲る。そのための第一歩となるのが、新人戦の群馬制覇。今年の桐生一は、今まで以上に、本気の集団だ。



(取材・文 土屋雅史)

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