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[東京都CY U-17選手権]新指揮官の「勝負にこだわる」姿勢が滲んだ逞しき戴冠。東京Vユースは三菱養和ユースを振り切って首都制圧!

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今シーズンの”1冠目”を獲得した東京ヴェルディユース

[2.23 東京都CY U-17選手権決勝 三菱養和ユース 1-3 東京Vユース 西が丘]

 ランドに息衝く緑のDNAは、間違いなく脈々と受け継がれてきている。求められているのは、それをどう明確な形にしていくか。その大事なミッションは、このクラブを熟知する指揮官に託された。

「『勝って当たり前』という、自分たちが見てきた勝者のメンタリティみたいな部分を1個でも付け加えて、勝ち組になっていかないといけないですし、個の力をもっと上げていくことの集合というところで、誰が出ても十分やれるところはヨミウリらしさというか、ヴェルディらしさだと思うので、1人でもチームを勝たせられるような個人の力を植え付けていきたいと考えています」(東京Vユース・薮田光教監督)。

 2月の東京を制したのは、力強さを纏った緑の若武者たち。3年ぶりの開催となった東京都クラブユースサッカーU-17選手権大会。東京ヴェルディユース三菱養和SCユースが西が丘で激突した決勝は、新エースのFW白井亮丞(2年)が2ゴール1アシストと全得点に絡んでみせた東京Vユースが3-1で勝利。新チーム初タイトルの歓喜をサポーターと分かち合っている。

「立ち上がりから硬さもあったり、グラウンドにもやりづらさを感じてしまっていましたね」とキャプテンを務めるMF大久保祐希(2年)が話した東京Vユースとは対照的に、三菱養和ユースはMF前野康成(2年)とMF小林伊冴(2年)で組むドイスボランチの配球から、右のFW中村圭汰(1年)、左のMF石川慧惟(2年)のサイドハーフも推進力を生かしながら、相手陣内へ押し込んでいく。序盤は明らかに三菱養和ユースに流れはあった。

 だが、スコアはワンチャンスで動く。前半17分。「去年から亮丞とは結構一緒にやっていて、あそこに走っているのは普段の練習からわかっていたので狙っていました」という大久保の裏を狙ったダイレクトパスから、白井が単騎で抜け出すと、GKとの1対1も冷静に制してしまう。「大久保があの角度で持ったらあそこに走るということは練習からやっていたので、何回かそれでチャンスができると思っていました」と白井も口にしたように、完璧なイメージのシンクロが呼び込んだ先制点。東京Vユースが1点のアドバンテージを手にする。

 追い掛ける展開を強いられた三菱養和ユースは、それでも攻撃の手を緩めない。27分には小林、FW竹岡創(2年)とボールを繋ぎ、中村が放ったシュートは東京VユースのGK佐藤翼(1年)がファインセーブ。43分にも右サイドからキャプテンのDF杵渕充玖(2年)が入れたクロスに、ファーで竹岡が合わせたヘディングは枠の左へ外れたが、アグレッシブな姿勢が結実したのはその2分後。

 45分。左サイドで獲得したCKを中村が丁寧に蹴ると、ファーで待っていた石川が打ち込んだヘディングが、ゴールネットを揺らす。「ヴェルディとしてはボールを保持したかったんですけど、ミスが多くて、パスがズレたり浮いたりして、相手のプレッシャーも速かったですし、そこで全然前に行けなかったです」とは白井。前半は1-1で折り返す。



 後半はいきなり開始2分に東京Vユースが決定機を掴んだものの、白井のシュートは三菱養和ユースのGK町田成(2年)がファインセーブで凌ぐと、以降もペースは基本的に三菱養和ユースが握る。27分に杵渕のパスからMF小宮績己(2年)が枠に収めたシュートは佐藤がビッグセーブ。32分に途中出場のMF高木矢大和(1年)が左CKを蹴り込み、こぼれを叩いたDF大石優生(1年)のシュートも、佐藤が懸命の反応で弾き出す。

 35分にも三菱養和ユースにビッグチャンス。途中出場のMF薦田翔太(1年)が右へ振り分け、中村がカットインからフィニッシュまで持ち込むも、ここは東京Vユースの左サイドバックに入ったDF渡邊大貴(1年)が身体を投げ出してブロックする。

「最後の身体を張るところも“がむしゃら”にというか、スライディングしてとか、身体に当ててという、ヴェルディらしくないような部分には、少し変化が見られたかなと思いました」とは薮田監督。中盤アンカーに入ったMF山本丈偉(1年)も、右からDF石川遥翔(2年)、DF栗原大(2年)、DF川口和也(1年)、渡邊で組んだ4バックも、最後の局面ではやらせない決意がピッチに滲んでいた。

 その守備陣の奮闘に応えたのは、やはり9番のエース。41分。中央をMF仲山獅恩(中学3年)がドリブルで運び、右サイドからFW川村楽人(1年)がクロスを上げると、ファーサイドで待っていたのは「楽人が縦は突破してくれるなと思っていた」という白井。頭で叩いたボールがゴールネットへ到達する。緑のストライカーは圧巻のドッピエッタ。2-1。再び東京Vユースが一歩前へ出る。

 とどめは45+1分だ。自陣から蹴った栗原のFKに反応した白井は、「あれは胸トラがしたくて(笑)、やってやろうと思って」胸トラップで収めたボールを、優しくラストパス。飛び込んできた途中出場のMF千葉サニー大生(1年)のシュートがゴールを陥れて、勝負あり。「リーグ戦でも勝ち切ることは大事ですし、今年は練習でも勝つことにはこだわってやっているので、それが出たのは良かったと思います」と大久保も話した東京Vユースが、苦しい展開の90分間を逞しく勝ち切って、優勝カップを西が丘の空へ掲げる結果となった。

 大久保は試合後に「もっと繋いで、相手を押しこんでゴールを目指すサッカーをしたかったんですけど、それができなくて残念なところはありましたし、自分たちの技術をもっと上げていかなければいけないと思います」とハッキリ言い切った。三菱養和ユースの攻撃のクオリティは確かに高く、勝者が思い描いていたような内容のサッカーができなかったのは明らかだった。

 ただ、「今日も自分たちでしっかり繋いで、ビルドアップして、というところをやりたかったですけど、選手も緊張していたのかミスが多かったので、『それであればビルドアップしなくていいんじゃない?』という話はしたんです」と試合後に薮田監督は明かしている。実際にチームの1点目と3点目は、シンプルな縦へのパスを白井に預けた所から生まれているが、もちろんこれは偶然起きた現象ではなかったわけだ。

 ジュニアユース時代からこのクラブでプレーしてきた薮田監督に、『ヨミウリらしさ、ヴぇルディらしさって、どういうものですか?』と尋ねると、少し考えて返ってきた言葉は、今年の彼らのチームビルディングを想像する上で、少なくない示唆に富んでいた。

「相手の出方を見ながらいなしていくというか、逆を取っていくことと、相手にとって一番嫌なことというのをチョイスしていけることかなと。前からプレスに来ているんだったら、背後を狙っていきましょうとか、来ないんだったら、しっかり回していきましょうとか、そういう選択肢はできるだけ選手に与えてあげた上で、あまり枠組みを決め過ぎずにやりたいんです。もちろん枠組みを決めれば、やれることの確率は上がるとは思うんですけど、逆にそれは相手に読まれやすいわけで、何をしてくるかわからないと思わせつつ、相手が『今この時間にこれをされたら嫌だ』と思うようなところを一番出していきたいです」。

 キャプテンの大久保も、今年のチームの展望をこう語っている。「ヴェルディの繋ぐところは他のチームより優れていると思うので、そこは伸ばしつつ、プリンスでやる高校のチームは結構激しく来るところが多くて、そこは上手くいなしながらなんですけど、さらに守備のところや戦うところとか、熱量では負けないようにしていきたいと思います」。

 監督就任に当たり、指揮官が改めて考えたという決意の言葉も紹介しておこう。「自分は本当にヴェルディが強い時に選手をやらせてもらっていたので、スタッフとも『強いヴェルディをもう1回作り直そう』というところを考えた時に、まずはヴェルディのサッカーどうこうというよりは、『本当に勝負にこだわるところから立て直していこう』ということは言ってきましたね」。

 決して美しい勝ち方ではなかったかもしれない。華麗なサッカーは披露できなかったかもしれない。でも、最後にはしっかりこの試合の勝利と、この大会の優勝を手繰り寄せていた。今年の東京Vユースは、たぶんどのチームにとっても厄介な相手になっていくに違いない。



(取材・文 土屋雅史)

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