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[MOM4237]岡山U-18GKナジ・ウマル(2年)_ラマダンを控える明るい守護神が超ビッグセーブで優勝に貢献!

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超ビッグセーブで優勝に貢献したファジアーノ岡山U-18GKナジ・ウマル

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[3.21 イギョラ杯決勝 岡山U-18 2-0 日大藤沢高 東京朝鮮G]

 先制点を決めたFW石井秀幸(1年)も捨てがたい。痛恨のシュートミスを、自らのゴラッソで帳消しにしたMF楢崎光成(2年)だって、十分にその資格はあるだろう。だが、この試合で1人だけ誰かを“勝因”に挙げるのであれば、それはこの守護神だ。

「自分はビルドアップがメチャメチャ得意なわけではなくて、セーブするために出ているので、そこでしっかり魅せられたので良かったです。主役になった気持ちも、ちょっとだけあります(笑)」。

 決定的な大ピンチを信じられない反応で弾き出す、超ファインセーブを披露した実力者。ファジアーノ岡山U-18GKナジ・ウマル(2年=ファジアーノ岡山U-15出身)のワンプレーが、チームに勝利と優勝の歓喜をもたらしたと言っても、決して過言ではないだろう。

 前半はずっと劣勢だった。初優勝を懸けて臨んだイギョラカップ2023のファイナル。岡山U-18は日大藤沢高の攻撃にさらされ、守備に回る時間を強いられ続ける。「結構攻め込まれていましたけど、『ここで踏ん張って後半に行ったら流れを変えられる』と思っていたので、しっかり踏ん張って守ることを考えてプレーしていました」というウマルも、CBコンビを組んだDF服部航大(2年)とDF繁定蒼(1年)も、懸命にゴールへ鍵を掛ける。最初の35分間のスコアは0-0。苦しみながらも、何とか耐えきることに成功する。

 そのシーンは後半開始早々にやってきた。1分。左サイドを相手のアタッカーに抜け出され、岡山U-18は絶体絶命のピンチを迎える。その時、ウマルはあるシーンのことを瞬時に思い浮かべていた。

「今回の予選リーグの時にあんな感じで裏に抜けられて、シュートを打たれたシーンがあったんですけど、その時にキャッチミスして決められてしまったんです。そのシーンが頭をよぎったんですけど、それをしっかり思い出して、その時は自分が止まれていなかったので、それを意識してしっかり止まって、シュートに対応しようと思いました」。

 止まって、見て、弾く。ウマルが懸命に繰り出したセービングでその方向を変えたボールは、クロスバーの上に当たって、ゴールラインの向こう側に消えていく。「もう本当に助けられました。正直、あのセーブは言うことないぐらい凄かったです」と絶賛したのはチームのキャプテンを務めるMF勝部陽太(2年)。大ピンチを守護神の好守で凌いだ岡山U-18は、最初のビッグチャンスを生かし切った石井のゴールで1点を先行する。

 22分。GKの交代を決断した梁圭史監督は、その理由をこう語る。「一番大事なことは公式戦にどう臨めるかということで、もしかしたらエラーがあって追い付かれるかもしれないですけど、それは想定内というか、個々が成長してくれるのが一番の目的なので、キーパーコーチと話して、2人とも両方成長させたいという考えの中でこういう判断をしました」。ウマルはGK近藤陸翔(2年)に後を託す。

「スコアも1-0でしたし、キーパーは途中から入るのが難しいことはわかっているので、ちょっと心配ではあったんですけど、最初のロングキックで陸翔が流れを掴んだ感じがしていたので、『これは行けるな』と思って安心してベンチから見ていました」。

 ウマルの見立ては当たった。近藤は冷静なプレーを続け、楢崎が豪快なゴラッソで追加点をゲット。2-0というスコアで、岡山U-18は堂々と優勝を手繰り寄せる。「陸翔は同学年なので、キーパーとして気になったこともすぐに相談できたり、質問できたりしますし、ライバルとして切磋琢磨できるので、自分にとっては大事な存在です」。そう語ったウマルと近藤の“継投策”も、チームの戴冠の一翼を担ったことは間違いない。



 父がスーダン人、母が日本人だというウマルは、宗教上の理由で食事にも制限があるという。大会期間中にチームで焼き肉を食べに行った時にも、食べられないものがあったそうだが、「肉以外にも海鮮の物とかを用意して対応してくれたので、みんなと楽しい時間を過ごせました。普段友達とゴハンを食べに行く時も、みんなが配慮して一緒に食べられるところに行ってくれたり、みんな優しくて嬉しいです(笑)」と笑顔を浮かべるあたりに、明るいキャラクターが滲む。

 梁監督は「本人は気にしていないみたいなんですけど、やっぱり僕が焼き肉を提案した手前、食べられないというのは心苦しいところはありますね。でも、他の選手たちも異文化を知るというところも含めていろいろな経験ができるというか、彼と一緒にいる環境が日常にある中で、U-15から一緒の子たちは常に遠征も一緒に行っているので、周りも彼に協力するマインドを持つようになっていると思います」と、ウマルがチームに与えるピッチ外の好影響についても言及する。

 実はラマダンの時期も迫っているとのこと。それについても本人は「もうすぐ始まりますね。日中は水も飲めないので、練習もきついですし、大変ですけど、水を頭からかぶったりして、何とか体の表面から水分を吸収しています(笑)」とこれまたユーモアを交えてさらりと話す。現状を受け入れ、今を楽しむだけの人間性が、既にウマルには備わっているようだ。

 2種登録された昨年はトップチームの練習にも参加。プロのレベルを体感した経験は、確実に身体の中に残っている。「トップチームは全体的にテンポが速くて、イメージはしていたんですけど、そこにはビックリしました。でも、ボールの際の部分のブロッキングとか、フロントダイブのようなプレーは結構できているんじゃないかなと思いました」。

「キーパー練習の時も、プロの人たちは『何で止められるんだ?』というようなプレーが多くて、どうやったら食らい付けるかなということも、GKコーチの吉岡(宏)さんに教えてもらったりしながら、少しでも成長しようとしています」。まだまだ実力不足であることは承知しているが、トップチームも絶対に届かない場所ではないことも、同時に実感しているようだ。

 アカデミーで過ごす最後の1年。チームとしても、個人としても、勝負の年になることも十分過ぎるほどに理解している。ゆえに目標も、シンプルで、明確だ。

「今年は“成長の年”にしたいと思っています。ビルドアップは苦手なんですけど、積極的にトレーニングからそこにアプローチして、プロや大学への進路に向けて、しっかりできるようにしていきたいと思っています。チームとしてはプレミア参入戦に出て勝利することと、クラブユース選手権でグループリーグを突破して、ベスト16やベスト8まで勝ち上がることを目標にしています」。

 ファジアーノが丁寧に育んできた、伸びやかな才能。ナジ・ウマルという名前、是非覚えておいてほしい。



(取材・文 土屋雅史)

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