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名将就任から6年目。自分たちで感じること、公式戦で勝つことを求めてきた霞ヶ浦が初の茨城制覇

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霞ヶ浦高が初の茨城制覇

[5.14 関東大会茨城県予選決勝 霞ヶ浦高 3-0 水戸啓明高 ひたちなか陸]

 令和5年度関東高等学校サッカー大会茨城県予選会決勝が14日、ひたちなか市のひたちなか市陸上競技場で行われ、霞ヶ浦高が初優勝を飾った。水戸啓明高と対戦した霞ヶ浦は、3-0で快勝。決勝を戦った両校は関東高校大会(5月、東京)に出場する。

 名将が携わってから6年目。今大会、霞ヶ浦は前回の関東チャンピオン・明秀日立高を2回戦で撃破するなど勝ち上がると、東洋大牛久高との準決勝を突破して初の関東大会出場を決めた。快進撃はこの日も止まらず、強豪・水戸啓明を撃破。初の茨城制覇を果たした。

 霞ヶ浦の山下正人総監督は、都立の三鷹高(現三鷹中等教育学校)を07年度選手権8強へ導き、同じく都立の駒場高を夏冬の全国舞台に立たせている名将だ。6年前の霞ヶ浦は地区予選の壁に阻まれていたというチームで、部員数も30名ほど(現在は約120名)。今回の関東大会予選はプリンスリーグ関東勢の名門・鹿島学園高が不在ではあったものの、強化からわずか6年目で県タイトルを勝ち取った。

 山下総監督が指導者育成と同時に取り組んだのは、選手が自分で気づく、感じる力の促成。誰かに言われる前に自発的に行動し、落ちているものを拾ったり、片付けたりすることができてきたという。「そういうことができるようになってきているから、(結果も)多少は良いのかもしれないよね」。霞ヶ浦の「仲が良い」「素直」という選手や若い指導者たちとともに土台の構築と勝利を目指してきたことが今回、結果に結びついた。

 決勝は序盤から水戸啓明がボールを保持する展開。CBから丁寧にビルドアップし、注目の180cmボランチMF親川達貴主将(3年)が1タッチパスの精度や展開力を発揮して攻撃にリズムを加える。そして、親川の素晴らしい展開から、キープ力の高い左SH片岡諒(3年)が仕掛けてラストパスへ持ち込むシーンもあった。

 だが、ペースを握っていたのは霞ヶ浦の方だ。コンパクトなラインを設定した上で前から奪いに行かず、相手の中へのドリブルや縦パスをケア。また、10番MF大谷陸斗(3年)とMF藤原涼太(2年)の両SHが献身的にプレスバックしてサイドで数的優位を作り出していた。

 霞ヶ浦は親川、MF田口太輝(3年)ら球際の強い相手選手とのバトルよりも、ルーズボールの回収に狙いを定める。強度の高いMF久保木周主将(3年)や177cmCB深谷康羽(3年)が跳ね返したボールを拾い、速攻へ持ち込んだ。そして、FW谷本一翔(3年)のロングスローなどセットプレーや大谷を軸とした鋭い仕掛けからゴール前のシーンを創出。前半のシュート数は5-0だった。

 よりチャンスを作っていた霞ヶ浦が後半立ち上がりに先制点を奪う。6分、MF青野嘉寿紀(2年)が右サイドから蹴り込んだ左足CKを、中央のFW吉沢友慶(2年)がヘディングシュート。枠へ飛ばすことを意識した一撃がGKの頭上を破ってゴールネットに吸い込まれた。

 水戸啓明は俊足FW綿引廉(3年)を活用したオープン攻撃も交えて反撃。13分には速攻から片岡がシュートへ持ち込むも、霞ヶ浦はコースを塞いでブロックする。逆に21分、霞ヶ浦は右サイドでロングスロワーの谷本がショートのスローインを選択。ボールを受けた青野のスルーパスから谷本がクロスを上げると、吉沢が再び頭で決めて2-0と突き放した。

 さらに23分、GK根本将翼(3年)のロングキックを吉沢が落とし、久保木が独走。最後は右足シュートを決めて3点差とした。水戸啓明はポゼッションしながら押し込み、まず1点を奪い返そうとする。だが、霞ヶ浦は的確なカバーリングも見せていたCB深谷を中心に、右SB宮坂翼(3年)、CB須崎佑星(2年)、左SB柴田瑞基(3年)の4バックがシュートを打たせない。

 逆に本来レギュラーの高速ドリブラー、交代出場FW安部友兜(3年)の仕掛けなどから4点目のチャンスを作り出す。終盤は守りに綻びが生じかけたものの、GK根本が1対1をストップ。山下総監督も称賛する全6試合(地区予選1試合を含む)無失点で頂点に立った。

 山下総監督は霞ヶ浦からサッカー部強化の打診を受けた際、「指導者を育てないと、学校が続かない、サッカー部が続かないから指導者を育てるんだったら行きます」と茨城へ。高校男女サッカー部にそれぞれ監督を置き、自らは総監督の立場で強化に携わった。附属中学校の本格強化もスタート。高校女子は、昨年の全日本高校女子選手権大会で一足先に全国大会初出場を果たしている。

 高校男子の桑原鉄平監督は練習中もメモをつけて山下総監督の言葉から学んでいるという。「学ぶことしかないですね。練習中もそうですし、ベンチやスタッフルームでボソッという一言も学びに溢れていて。僕も一緒に勉強している最中」。すぐに結果が出た訳では無いが、茨城県内中心の選手とスタッフが一体となった積み重ね。卒業生たちの悔しい敗戦もエネルギーに、公式戦で勝つことを本気で目指してきた。

 山下総監督は「勝負は勝たなければ意味ないだろうって。公式戦は楽しんじゃったら負けるぞと。高校サッカーはどこもそうだけど、勝って行って強くなる。自分たちで段々成長していくから。いくらやっても自分たちが感じるものがないと上手くならないと思うし、強くならないと思う」。それに対して久保木は、「『やるからには勝てるようにやろう』と言われている。そのための(守備などの)練習とかセットプレーも一つ一つデザインしてきたので繋がった」と頷いた。

 霞ヶ浦は初の関東大会1回戦で埼玉の名門・武南高と対戦する。全国大会出場を目標に掲げる霞ヶ浦にとって、今後へ向けた貴重な機会だ。桑原監督は「このあとインターハイや選手権もあるので、そこへ向けてチーム力を高めたり、ここが俺たち弱いなというところが感じられるような大会にしたいですね」と語り、根本は「自分たちはチャレンジャー。初めての関東大会なので、武南を食ってやろうという気持ちでやっていく」と意気込んだ。

 充実した環境面など学校のサポート体制も大きいが、山下総監督が「本人が一番ビックリだよ」と驚く初優勝。圧倒的な個がいる訳では無いものの、特長を持った選手たちがまとまり、自分たちで体感しながら勝ち方を身に着けてきている印象だ。鹿島学園や明秀日立、水戸啓明、伝統校・水戸商高などが立ちはだかる茨城で再び優勝することは簡単なことではない。それでも、霞ヶ浦は名将の下で勝つことを重ね、まだまだ強くなる。

三鷹高を選手権全国8強、駒場高も選手権に導いている名将・山下正人総監督

(取材・文 吉田太郎)

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