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「ロス五輪への推薦状」第6回:兄は広島DF。桐生一DF中野力瑠は高さと速さ、組み立て能力に加え、泥臭く奪う力も向上中

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高さと速さ、上手さも兼ね備えた大器、桐生一高のDF中野力瑠

 2028年ロサンゼルス五輪まであと5年。ロサンゼルス五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ2005年生まれ以降の「ロス五輪世代」において、年代別日本代表未招集の注目選手たちをユース取材ライターの川端暁彦記者と森田将義記者がピックアップ

 184cmの身長に50mを5秒9秒で走る快足を備え、選手としてのスペックは魅力十分。秘めた潜在能力はサンフレッチェ広島でプレーする兄・中野就斗と同等か、それ以上かもしれない。今年に入ってJ1クラブの練習に参加したほか、複数のクラブから注目されているのが桐生一高のDF中野力瑠(3年)だ。

 今でこそCBとして活躍するが、中学時代はボランチがメインポジション。高校入学後はボランチとFWがメインで、CBでプレーするのは数える程度だったが、2年生となった昨年から本格コンバートされた。高校に入って身体の発達が落ち着くと中学時代は遅かったというスピードが格段に増し、コンバートと同時にプレースタイルも変えた。「速さを活かした守り方もありだなと思って、プレーを少し変えました。抜かれたりもしますが、横に並んで走れば自分より速い選手はそういない。ファン・ダイクの守り方を真似して奪おうと意識しています」。
 
 チームが初めてプレミアリーグEASTに昇格したのも彼の成長にとっては好都合だった。22試合全てにフル出場した中野は、こう振り返る。「内野航太郎選手(現・筑波大)や熊田直紀(現・FC東京)など2年生で年上の今Jリーグや日本代表で活躍しているFWとマッチアップできたのは凄く良い刺激になりました。どう戦えばボールを奪えるのか考えながら、やるのを学べました。何もできなかったし、残留はできなかったけど凄くポジティブに捉えています」。

 元々の持ち味だったロングキックは最終ラインに入るとより相手の脅威になっている。「相手CBの位置を見て、どこが空いているのかをいつも見ている。フリーなら、前進もある。ビルドアップが自分の一番の長所だと思っているので、楽しみながら味方と連携してやっています」。そう振り返る中野は最終学年を迎えた今季、守備の要としてだけでなく攻撃の起点としてもチームに貢献している。

 フィジカルと組み立て能力を見れば、将来性は間違いなく高い。だからこそ、「アイツはプロになって欲しい」と口にする桐生一の中村裕幸監督は可能性だけで終わらないよう口酸っぱく指導している。現在、チャレンジしているのはミスを恐れずに相手からボールを奪いに行くプレー。これまではボールが入った選手に強く行って入れ替わるのを恐れていたが、「待っているだけでは奪えない。クレバーなだけでなく、泥臭く守れないと絶対にプロになれない」(中村監督)。まだまだピンチになる場面も見られるが、積極的に奪いに行こうとする姿勢が出てきたのは収穫だ。

 今年に入ってからはJ1クラブの練習参加を経験し、兄と同じプロサッカー選手という職業が身近な目標として感じられるようになってきた。「兄は身近な存在で、一緒に自主練もしてきた。雨の日だからと自分が妥協して練習を休んでも、兄は一人で行っていた。そこの努力が報われて、Jリーガーになれたと思うので自分も嬉しい。お兄ちゃんとは結構LINEをするのですが、ライバルはライバル。『早く来いよ』と言ってくれるので、自分も一緒に戦いたい」。

 同時に高いレベルを肌で感じ、プロの世界や世代別代表が決して簡単にたどり着ける場所ではないのも理解できた。「今のままでは代表は無理だと思う。目標にしつつ、そこに行けるよう頑張りたい。プロになれたとしても1年目から出るのは難しいかもしれない。でも、そこで肉体的、技術面で努力して2年目から戦える選手になりたい」。秘めたポテンシャルを最大限に発揮できるよう、中野はこれからもCBとしての進化を続けていく。

執筆者紹介:森田将義
1985年、京都府生まれ。10代の頃から在阪テレビ局で構成作家、リサーチとして活動。2年間のサラリーマン生活を経て、2012年から本格的にサッカーライターへと転向。現在は高校年代を中心に育成年代のサッカーを取材する。ゲキサカの他、エル・ゴラッソ、サッカーダイジェスト、サッカークリニックなどに寄稿している。主な著書に「ブレない信念 12人が証言するサッカー日本代表 鎌田大地の成長物語」(ベースボール・マガジン社)
森田将義
Text by 森田将義

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