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「ロス五輪への推薦状」第3回:特大の可能性を秘めたスピード系ストライカー、今治東FW大荒陽平。進化を重ね、無名の存在から全国でのブレイクを狙う

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今治東中等教育学校のスピード系ストライカー、FW大荒陽平は努力でJクラブも関心を寄せる存在に

 2028年ロサンゼルス五輪まであと5年。ロサンゼルス五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ2005年生まれ以降の「ロス五輪世代」において、年代別日本代表未招集の注目選手たちをユース取材ライターの川端暁彦記者と森田将義記者がピックアップ

 持ち味は他を圧倒する速さ。背後への抜け出しはもちろん、相手の予想をはるかに上回る寄せで相手のビルドアップを奪ってそのままゴールまで持ち込むことができる。苦しい展開が続いても毎試合必ず1度はビッグチャンスを作れる選手が、今治東中等教育学校(愛媛)のFW大荒陽平(3年)だ。

 今年に入ってからJクラブの練習参加を経験するなど注目度が高まっているが、中学時代は全くの無名の存在と言っても過言ではない。部員数が少なく、県大会に進んでも1回戦を勝ち抜くのがやっとのチーム。大荒自身も今とはプレースタイルが違い、足元の技術を活かし、中盤で周りの選手を使うタイプだったこともあり、目立った経歴は市のトレセンぐらいだった。高校も最初は県外の私学を希望し、セレクションに参加したが、声がかからず。地元・愛媛で強豪と知られる今治東への進学を決めた。
 
 高校に入学した当初は、「そこまで上手い選手ではないので、ちょっとサッカーが出来れば良いという感覚だった」が、松山工高時代にMF松下佳貴(現仙台)を指導した名伯楽、谷謙吾監督との出会いが大荒の人生を大きく変える。

 これまで本人が気付いていなかったスピードを活かすため、ウイングにコンバート。1年生の夏以降はAチームに抜擢し、交替の切り札として重宝されるようになった。自身の武器に気付いてからは、サッカーに取り組む姿勢も著しく上がっていく。「やる気になってからは、体力が無かったので、朝練での走りで誰にも負けないよう意識しました。放課後の自主練でも走り込みをしましたし、課題だった守備も頑張ろうと思いました」(大荒)。

 2年目の昨年は定位置を掴み、プリンスリーグ四国でチーム2位の7得点をマーク。その圧倒的な速さは、県外のサッカー関係者にまで知られるようになり、視察に訪れた協会関係者からも高い評価を得た。

 中学時代は別世界だと思っていた世代別代表入りも、意識するようになってきたが、迎えた2度目の選手権予選は決勝で帝京五高に敗れ、2年連続での選手権出場は果たせなかった。「凄く対策をされていたので、自分のスピードを出せなかった。GKとの1対1になった後半のチャンスでも左足で打てなかったのが悔しかった」と振り返る。

 悔しさが彼の成長を加速させたのは間違いない。スピードと共に彼の売りは努力を怠らないところにある。選手権予選で負けてからは、当たり負けを減らすため、体幹トレーニングと筋トレを始め、体重を4kg近く増やした。スピードを活かしたドリブルに磨きをかけるため、狭いエリアでも抜け出せるよう自主練でドリブルにも励んでいる。武器である相手DFへの抜け出しも、視界から一度消えてから斜めに動き出すなど工夫が見られるようにもなっている。見る度に成長の跡が伺えるのが彼を推したくなる理由の一つだ。

 今年に入ってから小さな怪我が続いたため、春休みの遠征に参加できなかった。復帰したのはプリンスリーグ四国の開幕戦でまだまだ本調子とは言えない。「今は大荒が全部の仕事しなければいけない現状がある」と谷監督が口にする通り、今年のチームは大荒がチャンスメークにも関与しなければならず、持ち味のスピードを活かせる回数も少ない。

 だが、プリンスリーグ四国第3節の今治U-18戦では自身が奪ったPKを決めて今季初ゴールをマーク。「今年は対策をされても抜けるぐらいの実力を付けたい。総体と選手権に出て、ベスト8以上に行きたい。全国のライバルと対戦し、試合の中で一番自分が目立ちたい」と意気込みを口にする。

 昨年のワールドカップではFW前田大然(セルティック)や浅野拓磨(ボーフム)が脚光を浴びたように近年はスピード系ストライカーの需要が高まっており、Jのスカウトからの引きも強い。谷監督が「かなりポテンシャルは高い。良い選手と組めば大荒の良さがもっと出る」と話すように、上質なパサーがいるチームに入れば更に躍動する可能性は十分。まずはより高いステージへの道を切り拓くため、インターハイでの全国行きを狙っていく。

執筆者紹介:森田将義
 1985年、京都府生まれ。路頭に迷っていたころに放送作家事務所の社長に拾われ、10代の頃から在阪テレビ局で構成作家、リサーチとして活動を始める。その後、2年間のサラリーマン生活を経て、2012年から本格的にサッカーライターへと転向。主にジュニアから大学までの育成年代を取材する。ゲキサカの他、ヤンサカ、エル・ゴラッソ、サッカーダイジェストなどに寄稿している。

森田将義
Text by 森田将義

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