beacon

2種類の“プロポ”を巧みに操るサックスブルーの大逆襲。前半戦最下位の磐田U-18は首位の広島ユースを撃破して怒涛の3連勝!

このエントリーをはてなブックマークに追加

ジュビロ磐田U-18はFW舩橋京汰(10番)のゴールで先制点を奪う!

[10.15 高円宮杯プレミアリーグWEST第18節 磐田U-18 2-1 広島ユース 竜洋スポーツ公園サッカー場]

 前半戦を終えて最下位だったチームが、前半戦を終えて首位だったチームを打ち倒し、怒涛の3連勝を飾ってしまう。プレミアで経験を積み重ねているのだ。もともと力は付いてきている。少しだけズレていた歯車が、少しだけ修正されたことで、窮地のサックスブルーは鮮やかに蘇った。

「今の雰囲気は本当にメチャメチャ良いですね。雰囲気が良いと掛ける声も変わってきますし、前向きな声も増えてきているので、それでチームも良い方向に持っていけているのかなと思います。先輩たちがずっとプレミアに残ってきてくれて、自分たちの代で落とすわけにはいかないですし、まだ残留が決まったわけではないですけど、今日の1勝も、3連勝も、結構大きいかなと感じています」(ジュビロ磐田U-18・沼田大輝)。

 絶好調のホームチームが堂々の首位撃破。15日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグWEST第18節、連勝中のジュビロ磐田U-18(静岡)と暫定首位のサンフレッチェ広島ユース(広島)が激突した一戦は、前半にFW舩橋京汰(3年)とFW山本将太(2年)のゴールで2点を先行した磐田U-18が、後半に1点を返されたものの、そのまま2-1で逃げ切りに成功。後半戦の7試合で5つ目の白星を逞しく手繰り寄せている。

「前半の立ち上がりがうまく行かず、ちょっとバタバタしてしまいました」と磐田U-18のキャプテンを務めるDF沼田大輝(3年)も話したように、序盤は広島ユースに流れがあった。6分には高い位置でボールを奪ったFW中川育(3年)が単騎で抜け出し、放ったシュートは枠の左へ。8分にもU-17日本代表候補のMF中島洋太朗(2年)が蹴った左CKに、DF黒木一心(3年)が合わせたヘディングもゴール左へ外れたが、後半戦無敗の勢いそのままに得点の香りを漂わせる。

 だが、15分を過ぎると磐田U-18が前向きにアタックする回数が増加。17分にはこちらもU-17日本代表候補のMF川合徳孟(2年)が左に付け、舩橋が枠へ収めたシュートは広島ユースのGK山田光真(3年)がファインセーブで凌ぐも好トライ。19分にも川合が縦に鋭いパスを打ち込み、こぼれを拾った舩橋のシュートはここも山田にキャッチされたものの、反転したゲームリズム。

 すると、試合が動いたのは26分。右サイドで前を向いたDF小澤有悟(1年)が縦に流し込み、走った山本は深い位置までえぐってマイナスに折り返すと、ニアに入ったFWバルア・ロイ(3年)はスルー。その後ろで待っていた舩橋のシュートがゆっくりとゴールネットへ吸い込まれていく。「本当にロイがスルーしてくれるとは思っていなかったので、ちょっとビックリしたというか、急遽ボールに対応した感じでした」と笑った10番の貴重な先制弾。磐田U-18が1点のリードを奪う。

 勢いは止まらない。30分。右サイドを粘り強く運んだ山本は、中央を見ながら「相手が来ていなかったので、『もうシュートしかないな』と」そのままフィニッシュを選択。強烈な軌道は一直線にゴールへ突き刺さる。「あの角度のシュートは今週ずっと練習していました」という2年生ストライカーも痛烈な一撃。2-0。その後も川合のシュートがポストを直撃し、舩橋も1対1をGKにぶつけるなど、さらなる得点機も創出した磐田U-18が2点のアドバンテージを握って、最初の45分間は終了した。

「前半は後ろに重心が掛かってしまっていて、中央のパサーのところをフリーにさせすぎちゃいましたね」と前半を振り返った広島ユースの野田知監督はハーフタイムに2枚替え。FW木村侑生(3年)とMF鳥井禅音(3年)を投入し、「ちょっと立ち位置も変えながら、前掛かりに行こうよと」後半のピッチへ選手を送り出す。

 10分は広島ユース。中央から中島が左へ流し、受けたFW井上愛簾(2年)はマーカーに挟まれながらもシュートを枠内へ。ここは磐田U-18GK齊藤貫太(3年)がファインセーブで応酬するも、良い形から決定機を創出すると、20分には右サイドから鳥井が上げたクロスを、井上が今度は豪快なヘディングでゴールへ叩き込む。2-1。「後半はスイッチを入れることができたと思います」(中川)。残り時間は25分余り。白熱の展開。上昇する会場のボルテージ。

「前期はたぶん勝っているゲームでも1つ失点してからガクッと崩れてしまう弱みがあったと思うんですけど、試合経験を積みながら、選手たちもやられてもメンタル的に『まだまだ大丈夫だ』というところは少し変わってきて、逞しさが出てきているのかなとは感じているところです」(磐田U-18・世登泰二監督)。26分は広島ユース。木村のパスから中川が得意のカットインシュートを狙うも、寄せたディフェンスに当たったボールは枠の右へ。30分も広島ユース。MF竹山心(3年)の縦パスを井上が落とし、中島が叩いたシュートは枠の上へ。粘るホームチーム。押し切りたいアウェイチーム。

 45+6分のラストプレーは、ペナルティエリア内で獲得した広島ユースの間接FK。中島が小さく出したボールを、DF橋本日向(2年)が打ったシュートも、複数人で突っ込んできた相手が目に入ったのか、クロスバーを越えてしまう。直後に鳴り響いたのは、タイムアップのホイッスル。「手応えはありました。攻撃では前が収めて、点も獲ってくれて、守備は後ろで跳ね返すことができて、ジュビロのサッカーができたかなと思います」と沼田も胸を張った磐田U-18が1点差ゲームをモノにして、今季初のリーグ戦3連勝を力強く達成した。



 前半戦終了時は2勝2分け7敗の最下位。プレミアからの降格も現実的にチラつくチーム状況の中で、監督交代を経た後半戦はこれで5勝2敗と、磐田U-18に明確な結果が付いてきている。舩橋の言葉が興味深い。「大きな変化はないと思うんですけど、みんなが自信を持ってやれているというか、前半戦と比べてもみんなが『自分たちはやれる』と感じていると思いますし、それが大きいのかなと」。

「力がないわけではないと思っていたので、そこでちゃんとみんなが無駄なく、効率良く力を発揮できるような環境を作ってあげれば、少しは何とかなるかもしれないなという感じでしたけど、こんなに調子が良くなるとは……。どうしちゃったんですかね(笑)」と笑顔を見せるのは世登監督。つまりはピッチ内で劇的な変化を施したというわけではなさそうだ。

 ただ、多くの選手が口を揃えるのはコミュニケーション面の変化だ。「世登さんは結構選手主体でやってくれますね。3試合ぐらい前から選手だけのミーティングを始めて、そこでは3年生だけじゃなくて、1年生や2年生も結構喋ってくれて、全員で意見を出し合いながらできているので、そういうところも変わってきているのかなと思います」と沼田が明かせば、2年生の山本も「みんなが自分の意見を言い合うようになりました。試合前のミーティングでも、相手の情報をみんなで共有して、『オレはこうした方がいいと思う』というようなことをみんなで言い合えていますね」と語っている。

 そこにはもちろん“世登流”の仕向け方が影響している。「監督になった当初は誰かが話をし出しても、全員が話を聞けないような感じがあったんです。試合でも要求するけど、言い方がキツくて聞く耳を開いてもらえないような。そういうところで相手に耳を開かせるためには、どういうものの言い方をしたら『ああ、ちょっと気を遣って言っているな』と思ってもらえるかを考えることが大事で、それで相手が『じゃあ聞こうか』となれば、それが繋がっていったらお互いが言うことに対してちゃんと聞く耳を持てるわけで、子どもたち同士でそういう方向性を作っていけるように、僕はただ仕向けているだけです」(世登監督)。

 沼田もここに来てチームの空気感に手応えを感じているという。「日々の練習でもそうですけど、監督とかコーチに言われなくても、選手1人1人がやりやすいように、みんなでコミュニケーションを取っていますし、チームがしっかりと1つになりつつあるのかなとは思います」。

 世登監督が面白い“たとえ話”を聞かせてくれた。「やっぱり子どもたちが一番サッカーを充実していると捉えられるのは、自分たちがこうやりたい、こうしようというものをバーンとやって、勝った負けたになることじゃないですか。大人の操り人形で、“ラジコンカー”と“プロポ”の関係では、何も選手は面白くないわけで、おおもとの“プロポ”はこっちで持っていますけど、選手主導で勝手に動かせる“プロポ”も1人1人に預けている感じです」。

 おおもとの“プロポ”を巧みに操る百戦錬磨の指揮官と、与えられた“プロポ”をきっちり使いこなし始めてきた選手たちが織り成す、最高の相乗効果。ここに来て若きサックスブルーが、俄然面白くなってきた。



(取材・文 土屋雅史) 
▼関連リンク
●高円宮杯プレミアリーグ2023特集

土屋雅史
Text by 土屋雅史

TOP