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勝ち点を巡る理想と現実。プレミア残留を争う横浜FMユースと大宮U18の『シックスポインター』はドロー決着!

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横浜F・マリノスユース大宮アルディージャU18の激闘はドロー決着

[10.7 高円宮杯プレミアリーグEAST第17節 横浜FMユース 1-1 大宮U18 横浜国立大学フットボール場]

 それは勝ち点3を獲りたいに決まっている。でも、勝ち点0では終われない。つまりは相手に勝ち点3を渡すことは絶対に避けたい。ギリギリのせめぎ合いの中で、双方の思惑が交錯する終盤を経て、試合終了と同時に両チームの選手がピッチに崩れ落ちる。

「一番はチーム全体としても残留しなきゃいけないという凄く大きな責任がありますし、自分たちも先輩たちのおかげでプレミアの舞台を経験させてもらえた分、その舞台を後輩たちに残したいなという想いは3年生全員が持っているので、もっと結果を求めて全員でやっていくしかないなと思います」(大宮アルディージャU18・種田陽)。

 残留を争う両雄が激突した注目の『シックスポインター』はドロー決着。7日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第17節、暫定10位の横浜F・マリノスユース(神奈川)と暫定11位の大宮アルディージャU18(埼玉)が勝ち点差3で対峙したゲームは、前半に横浜FMユースがセットプレーからオウンゴールで先制したものの、後半に大宮U18はMF種田陽(3年)のゴラッソで追い付き、試合は1-1で終了。双方に勝ち点1が振り分けられている。


「前半の最初の方は結構自分たちのリズムでできました」とGK鈴木魁(1年)も話したように、立ち上がりは横浜FMユースが好リズムで立ち上がると、勢いそのままに生まれた先制点。9分。右サイドからMF德田佑真(2年)が蹴り込んだ正確なCKは、相手のオウンゴールを誘う。広がるトリコロールの歓喜の輪。まずはホームチームが幸先良く1点をリードする。



 ビハインドを負った大宮U18も、11分には好機到来。左サイドで相手ボールを奪った種田がエリア内へ侵入すると、ここは鈴木が思い切り良く飛び出して回避したものの、「前半の途中からは守備のところから相手にプレッシャーを掛けて、ボールを奪って、そこから攻撃に繋げるところ、自分たちのやりたいことはちょっとずつ出始めましたね」と森田浩史監督も言及したアウェイチームが、以降は攻撃の主導権を握る。

 31分。右サイドを鋭く抜け出した種田のシュートは、鈴木がファインセーブ。32分。中盤でルーズボールを拾ったMF高橋伸太朗(3年)のミドルは、DFをかすめながら左ポストにヒット。33分は猛ラッシュ。種田が入れた左CKから、ファーに潜ったMF山中大智(2年)のシュートはクロスバーを叩き、さらにMF安部直斗(3年)のフィニッシュはGKを破るも、カバーに入った横浜FMユースのディフェンスリーダーを託されているDF畑野優真(3年)が決死のクリア。大宮U18は3分間に3度の決定機を掴みながら、ゴールは奪えず。前半は1-0のままで45分間が終了する。


 ハーフタイムで大宮U18ベンチが動く。後半開始からMF丹野豊芽(2年)を右サイドハーフに、MF登丸楓吾(2年)を左サイドハーフに送り込み、着手する両サイドの推進力アップ。後半3分は横浜FMユース。MF望月耕平(2年)のパスからFW大當侑(3年)が枠の左へ外れるシュートを放つも、これがこの試合のファーストシュート。「守備ではセカンドを拾えないし、中盤が機能しなかったです」とはキャプテンマークを巻くMF桑原颯太(3年)。スコアのアドバンテージを得ている中でも、なかなか流れを変えられない。

 13分の主役は「もちろん相手に分析されることはわかっているけど、その中でも自分がやらないといけない」と言い切るオレンジのナンバー10。右サイドで前を向いた種田は、そのまま単騎でグングン運ぶと右足一閃。DFに当たった軌道は、それでも右隅のゴールネットへ吸い込まれる。「凄くリラックスして、周りも見えていたので、自分が一番勝負すべきところで勝負できたのかなと思います」と口にした頼れるエースの同点弾。1-1。スコアは振り出しに引き戻された。

 一気に押し切りたい大宮U18は、25分にビッグチャンス。山中が右サイドへ振り分けたパスから、受けたFW石川颯(3年)はマーカーを巧みに外して左足で枠内へ。GKを破ったボールは、しかし今度は前半途中から右サイドバックで出場していた、横浜FMユースのDF舩木大輔(3年)がスーパークリア。「後半は相手がクイックネスのある子を入れてきて、あそこで余計に後手に回りましたね」とは大熊裕司監督だが、ホームチームはそれでも何とか2失点目は許さない。

 トリコロールが手繰り寄せた千載一遇の決定機は29分。桑原が丁寧なパスを左へ送り、MF白須健斗(2年)がマイナスに折り返したクロスにMF望月耕平(2年)が飛び込むも、左足で合わせたシュートは枠の上へ。ようやく創出した勝ち越しのチャンスは霧散する。

 終盤も勢いはオレンジ軍団。33分。左からカットインしながら、登丸が打ったシュートは鈴木が丁寧にキャッチ。42分。種田の左FKに、この日がプレミアデビュー戦となったDF藤原朝日(1年)が頭で合わせるも、ボールは枠の左へ。45分。右サイドで丹野が時間を作り、DF浅井一彦(3年)が上げ切ったクロスに、突っ込んだ種田のシュートはミートできず、ゴール右へ消えていく。

 5分間のアディショナルタイムが過ぎ去り、主審が吹いたタイムアップのホイッスルが鳴り響く。「本当は勝ちたかったですけど、後半の流れを考えるとギリギリで耐えられたんじゃないかなと思います」(鈴木)「試合の内容的には悪くなかったのかなと思いますけど、何回もあったチャンスを決め切れないのはチームの一番の課題かなと」(種田)。基本的には大宮U18が攻め、横浜FMユースが守ったゲームは、それでも1-1のドロー。お互いが勝ち点1を積み上げる結果となった。


 大宮U18はこの順位にいるのが不思議なぐらいの好内容で、90分間の大半を攻撃に費やすようなサッカーを展開した。ただ、森田監督が指摘した「守備はセットプレーの失点が多いというところと、攻撃は2点獲るというところ」という、抱えてきた2つの課題はこの日も顕在化する。

 後半戦はここまで2分け4敗と、なかなか勝ちが付いてこない。「今日も決して悪くなかったですし、本当に“あとちょっと”だなと。ただ、その“あとちょっと”をまたトレーニングから積み上げてやっていかないと、いつまで経っても結果は得られないので、次のゲームに向かって、そこをしっかり積み上げて行くしかないかなというところです」(森田監督)。

 それは選手も十二分にわかっている。「練習でも最近はみんなが意欲的にやってくれていて、攻撃も守備もやるべきことは合わせられてきたのかなと思いますけど、“ちょっとしたこと”とかは、前回の青森山田戦でも相手に見習わないといけないなと感じた部分があったので、そういうところは突き詰めていきたいです」と話すのは、キャプテンマークを任されているDF真壁拓海(3年)。ここからの勝敗を分けるのが“あとちょっと”や“ちょっとしたこと”であることは間違いない。

「自分たちは下を向く必要はなくて、上だけ見て行けばいいので、そういう面では常にチャレンジャーだという気持ちを持ちながらやるべきですし、後輩にプレミアという舞台は残してあげたいなと思うので、3年生は集大成として責任を持って戦うべきだと思っています」(真壁)。若きオレンジ軍団は確かな覚悟を携えて、最後の5試合へと突入していく。


 前節は3ー1で柏レイソルU-18に競り勝ち、実にリーグ戦8試合ぶりの白星を手にした横浜FMユースは、その良い流れをこの日の一戦に持ち込み切れなかった。桑原は「大宮さんは順位も近いので、絶対に勝ち点3が欲しいところではあったんですけど、精神的な幼さが出たのかなと。悪いなら悪いなりのサッカーの仕方もありますし、相手も死に物狂いだったので、そこでオレらが上回れたのかと言ったら、全然そうではないですし、もう綺麗事は言っていられないですよね」と危機感を露にする

 それでも「無理にアクションを起こせば、まだ全然余力があった選手もいますし、サブもいましたけど、そこは勝ち点が大事になったかなあと。もう1個行くのかというところは、正直ギリギリまで迷いましたけどね。でも、全体の状況があまり良くなかったので、最悪でも負けないという選択をしたところもあります」と大熊監督も明かしたように、終盤は明確に目的を『勝ち点獲得』にシフト。そこにはやはり1-1で終盤を迎えながら、土壇場の失点で敗れた2節前のFC東京U-18戦の経験が、しっかりと生かされていた。

 大熊監督は「後半を凌げなかったのは残念ですけど、良く勝ち点1を積み上げたなというところは評価したいですし、難しい状況でもこうやって粘れたというのは、ちょっとは自信に繋げたいかなと思っています」と前を向く。3連敗を喫してからの2試合で勝ち点4を積み上げたことは、プレミア残留に向けてポジティブな要素であることは間違いない。

 当然勝ち点3を目指しつつ、“負けない”選択をする局面はこれからも出てくるだろう。だからこそ、1年生の鈴木がこういう言葉を発するのは頼もしい。「とりあえず先のことは考えずに、1試合1試合全力でやって、勝ち点を積み上げたいと思います」。残されたリーグ戦はあと5試合。一戦必勝。一戦必点。ヒリヒリするようなシビアな戦いは、まだまだ続く。



(取材・文 土屋雅史) 
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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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