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「そのボールが内側に入るか、外側に出るか」は日常の積み重ね。FC東京U-18は今季初の“ウノゼロ”で大宮U18との残留争い直接対決を制す!

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残留争い直接対決はFC東京U-18が制す!

[10.22 高円宮杯プレミアリーグEAST第19節 FC東京U-18 1-0 大宮U18 東京ガス武蔵野苑多目的グランド]

 そのボールがゴールポストの内側に当たって入るか、外側に当たって入らないかは、きっと運に因るところも大きいはずだ。だからこそ、目の前の1つのプレーにどういう意味を持たせるかは、それまでに辿ってきた過程だけが、その理由を証明する根拠に他ならない。

「あのポストに当たったボールも『内側に入るか、外側に出るか』というのはチームとしてずっと監督に言われていることで、最後にフィールドの選手が身体を寄せたことで、相手のヘディングシュートを完全には当てさせなかったのかなと思っていますし、それもこっちに運が付いてくれたのかなと思います。1回、時が止まりましたね」(FC東京U-18・後藤亘)。

 チーム全員で積み重ねてきた日常が引き寄せた勝ち点3。22日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第19節、暫定9位のFC東京U-18(東京)と暫定11位の大宮アルディージャU18(埼玉)が勝ち点差4で対峙した残留争い直接対決は、FC東京U-18が前半8分にFW山口太陽(2年)がPKで挙げた1点を守り切り、1-0で大きな勝利をもぎ取った。

 試合は開始早々に動く。前半7分はFC東京U-18のアタック。DF平澤大河(3年)が縦に蹴り込んだフィードを山口が収め、裏に出したボールからMF田邊幸大(3年)がエリア内へドリブルで潜ると、マーカーと競り合って転倒。笛を吹いた主審はペナルティスポットを指し示す。

 キッカーは自ら名乗り出た9番を背負う山口。狙ったコースは左。GKも同じ方向に飛んだもののわずかに及ばず、ボールはゴールネットへ届く。「みんなで『今日は勝たないといけない』という気持ちで入ったので、先制を全員で狙っていた中で、田邊の特徴が出た形でPKを獲れて、9番の太陽が決めてくれたので、チームが勢い付きましたね」と話したのはディフェンスリーダーのDF石堂純平(3年)。ホームチームが1点のアドバンテージを奪う。



 だが、以降はお互いに探り合うような時間が続く。大宮U18は右のDF斉藤秀輝(2年)とMF丹野豊芽(2年)、左のDF大西海瑠(2年)とMF登丸楓吾(2年)が、サイドでの前進こそ試みるも、中央のシビアなゾーンには入り切れず。一方のFC東京U-18も「ゴールから自分たちの流れを作ろうとしていたんですけど、やっぱり大宮の守備が堅かったです」とGK後藤亘(2年)も話したように、チャンスらしいチャンスは作れない。ジリジリするような前半は、1-0のままで45分間が経過した。

 後半に入ると、双方に決定機が相次いで訪れる。4分はFC東京U-18。右サイドを運んだDF金子俊輔(2年)が思い切り良く入れたクロスから、こぼれを拾ったFW岡崎大智(3年)がフリーで放ったシュートは、大宮U18のGK野口依吹(1年)がビッグセーブ。同じく4分は大宮U18。左サイドで粘った登丸がグラウンダーでクロスを送ると、ニアでFW石川颯(3年)がうまく合わせたシュートはクロスバーの上へ。思わずピッチの選手も、ベンチのスタッフも揃って天を仰ぐ。

 後藤が「相手のコーナーキックがメチャメチャ多かったですよね」と言及した通り、大宮U18は後半だけで7本のCKを獲得していた。その中で最もゴールに近付いたのは27分。それまでも再三高精度キックを披露していたMF種田陽(3年)が左から蹴り込んだ軌道に、ニアで合わせたDF高橋岳(3年)のヘディングはゴールへ向かうも、右ポストの外側にヒット。こぼれをMF山中大智(2年)がヒールで押し込んだが、ここもカバーに入ったFC東京U-18のMF伊藤ロミオ(3年)が懸命にクリア。同点ゴールは生まれない。

 41分は大宮U18。ゴールまで約30メートルの位置から、種田が直接ゴールを狙ったFKは後藤が冷静にセーブ。45分も大宮U18。左サイドで大西、種田とボールを繋ぎ、MF菊浪涼生(2年)が打ち切ったミドルは、しかしゴール右へ。FC東京U-18は「自分たちは押し込まれて最終的に失点してしまうことが今シーズンは多かったので、そこはキーパーの亘とセンターバックの岩田と声を掛け合って、最後まで身体を張って守るということを意識していました」と話す石堂も、DF岩田友樹(2年)も、FW渡邊翼(3年)も、最後の局面まで身体を張り続ける。

「ゲームの内容から行くと、調子の良い選手の数や、チームとしてのコンディションはどちらかと言うと良くない状態だったので、ちょっと苦労するかなと思っていたのと同時に、『今日はどうしても勝ち点を獲らなくてはいけない』ということも伝えていた中で、崩れることなく、むしろ今季一番のまとまりが出せたので、勝ち点が付いたというふうに捉えています」(奥原崇監督)。5分間のアディショナルタイムが終わり、爆発したのは青赤の選手たちの歓喜。残留を巡るシビアな大一番は、FC東京U-18が今シーズン初の“ウノゼロ”で、貴重な白星を力強く掴み取った。



 終盤に投入され、クローザー的に試合を締めたMF鈴木楓(1年)は「今日の試合は順位が近い大宮との争いで、どっちが勝つかは今後の残留争いにも関わってきますし、そういう大事な試合で勝ち点3を持ってこれたのは、チームとして本当に大きかったと思います」と話した後、「監督も『膿を出せ』って言っているんですけど、悪いものは全部出して清算していくというのが今のチームでは凄くできてきて、それが相手のシュートがポストの内側に当たって入らなかったり、というところに繋がってきていると思います」と口にした。

 冒頭で紹介したように、後藤もやはり“ポストの内側”について言及している。そのことを奥原監督に伝えると、「2人とも話していましたか」と笑いながら、こう言葉を続ける。「CKは良いボールが入ってきていましたし、自分も『やられた』と思ったシーンも、もう一歩寄せておくこと、カバーに確実に入っていくことの積み重ねで何とかなったわけで、マグレっぽく見える部分が、実は自分たちの中ではマグレではなくて、積み重ねてきたものが形になったというところでは、守備陣が良い声掛けをしながら、あのピッチの中で『自分たちで何とかしよう』という意志を出すことは、かなりできたような印象はあります」。

「相手のシュートがポストの内側に入るか、外側に出るかは自分たちで決められないので、そこで後悔しないような活動をしているかどうかというところでは、この1週間は本当に試合に出たヤツだけではなくて、今日は手伝いに回ったり、駐車場の警備をしていたヤツらも含めて、みんなが『勝ち点が欲しい』という想いを出した結果かなと思います」。

 その軸にいるのは、やはり3年生だ。後半戦に入って全試合にスタメン出場している石堂と田邊について、指揮官が言及した言葉が興味深い。「夏明けにチームが苦しいところから始まった中で、誰が頑張ったかと言ったらやっぱり3年生のそれぞれで、リーダー的な岡崎や渡邊翼もそうですけど、脇役的な立ち位置だった田邊や石堂がしっかり芽を開いてくれて、全体を束ねることを本当に良くやってくれましたし、今日の勝ち点は本当に3年生のおかげだなと思っています」。

 下級生たちも最上級生たちが与える影響をちゃんと実感している。「昌平にやられた後も落ち込むのではなく、3年生を中心にチーム全体でまたイチから『明るく、サッカーを楽しく』ということをやっていこうという働きかけができていたので、そのおかげで良い流れに傾きかけているのかなと」(後藤)「今年のU-18は上級生が全員明るくて優しくて、下級生が入っていきやすい雰囲気を作ってくれているので、自分たち1年生もそこにすんなり入っていけていますし、お互いに自分の意見を本気で言い合える選手が多いので、コミュニケーションの質が高いと思います」(鈴木)。

 まだ残留が決まったわけではないが、リーグ戦の残り3試合でよりチャレンジできる状況が生まれたことは間違いない。「今日は勝ちましたけど、連勝できるチームにならないといけないですし、フロンターレ、流経、青森山田という強い相手に今年自分たちがやってきたことをどれだけ出せるかが試されているので、また良い準備をして頑張っていきたいなと思います」という石堂の言葉を、奥原監督がいつになく強気な口調で後押しする。

「ここからは幸いなことに上位とやれるので、そこを圧倒しに掛かるぐらいの準備はこの3週間でしたいなと。内容でも結果でも圧倒するぐらいの試合を目指してやりたいですね。この3試合でハッキリ意地を見せたいなと思っています」。

 そのボールが内側に入るか、外側に出るか。FC東京U-18の選手たちは、そのディテールを偶然の結果では終わらせず、必然の結果として自分たちの勝利へと結びつけるために、「内容でも結果でも圧倒する」ことを目指す残り3試合に向けて、また仲間と切磋琢磨する日常を積み重ねていく。



(取材・文 土屋雅史) 
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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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