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[MOM4466]神戸U-18MF坂本翔偉(3年)_小5から紡いできたクリムゾンレッドでの日々の集大成。10番のキャプテンが定めている覚悟

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ヴィッセル神戸U-18を束ねるキャプテン、MF坂本翔偉(3年=ヴィッセル神戸U-15出身)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[10.21 高円宮杯プレミアリーグWEST第19節 神戸U-18 2-0 米子北高 いぶきの森球技場]

 自分では『キャプテンなんて柄ではない』と今でも思っているけれど、もうとっくに腹は括っている。小学校5年生からプレーしてきたこのクラブで、この仲間たちと望んだ結果に辿り着きたい。その一心だけで、ピッチを走り、チームメイトを鼓舞して、ひたすら勝利だけを目指していく。

「スタートで出る選手もそうですけど、サブの選手もそうですし、それこそベンチ外の選手も同じ方向を向いてやれば、自分たちなら絶対に良い結果を出せると思うので、自信を持ってやりたいと思います」。

 ヴィッセル神戸U-18(兵庫)を力強く率いる10番のキャプテン。MF坂本翔偉(3年=ヴィッセル神戸U-15出身)が見据えるのは、結果を積み重ねた先で最高の仲間たちと共有する日本一の景色だけだ。

 決して良い形で立ち上がったわけではなかった。上位争いのライバル、米子北高(鳥取)をホームに迎えたこの日の一戦。シンプルに前へ向かってくる相手に対し、「ちょっとテンポが速かったかなと。相手に付き合った感じはありましたし、もうちょっと揺さぶりながらやっても良かったかなとは思いました」と坂本も振り返った通り、チームはなかなか普段のリズムを掴めない。

 そんな中で訪れた先制点のチャンスは16分。FW田中一成(3年)が右サイドを果敢に仕掛けると、PKを獲得してみせる。だが、すぐにボールを拾った坂本はスポットに向かったものの、審判団が状況の確認も含めて協議していたため、少し時間が空いてしまう。

 PKの判定が下されてからは5分近くが経過し、改めてペナルティスポットにボールを置く。少し難しいシチュエーションのキック。それでも、10番は落ち着いていた。「蹴るまでに結構変な間があって、『ちょっと怖いな』と思っていたんですけど、練習通りに、いつものように蹴れたかなと思います。『この自分のPKでここからの流れが決まる』と思っていたので、ハッキリ蹴りました」。ボールはゴールネットを正確に射抜く。

 試合の流れを引き寄せる貴重な先制点。ただ、本人が抱いていた“ゴール後”のイメージは、チームメイトのそれと齟齬があったようだ。「思ったよりみんながこっちの方に来ていなかったので、『アレ?自陣に帰らなあかんのかな』って(笑)。せっかくなのでカメラの方に行こうかなと思ったんですけど、みんなが帰っていったので『ああ、オレも帰ろう』と(笑)」。



 前半終了間際にはFW高山駿斗(3年)のゴールで追加点を奪ったものの、後半も思うようにゲームを進められたわけではない。「ロングボールが多かったので、自分はセカンドボールを拾って、そこから攻撃のテンポを落ち着かせようと考えていたんですけど、思ったより風もあったのでボールが止まったり、流れたりして、思うようには行かなかったですね」。そう振り返った坂本も、自身のミスの多さが気になっていたという。

 それでも白星を手繰り寄せられるのは、今の神戸U-18の勝負強さだろう。終わってみれば2-0できっちり勝ち点3を獲得。「これで2試合連続でクリーンシートで終われているので、リーグ戦は1か月間空きますけど、良い雰囲気で次を迎えられるかなと思います」と坂本も結果に対しては、一定の手応えを口にした。

 今シーズンはキャプテンに就任。自身は意外だったようだが、昨シーズンで卒団した先輩たちは、満場一致で『坂本キャプテン』の誕生を予想していたそうだ。「ちょっと立場が堅苦しいですけど、自分に与えられたことをやるだけですね。去年までだったら自分のことだけを考えていれば良かったんですけど、今年はチーム全体を見て行かないとダメなので、そういう意味ではプレー面でも生活面でも、周りをよく見ることはできてきているのかなと思います」。

「もともとそこまで他人を意識する方でもなかったですし、どっちかと言えば『自分が、自分が』というタイプだったので、まあキャプテンなんて大変ですよね(笑)。でも、みんながサポートしてくれているので何とかやれていますし、それでもまだまだ物足りないと思っていて、もっともっと自分が喋ったり、自分のところで相手を潰したりすることで、もっとチームの雰囲気も上げていきたいとは思っています」。もう思考は完全にキャプテンのそれ。左腕に光る黄色い腕章も、間違いなく板に付いてきた。

 去年のプレミアリーグでは、結果的にWEST王者となったサガン鳥栖U-18と勝ち点で並びながら、得失点差で一歩及ばすに涙を飲んだ。今シーズンが始まる直前の3月。坂本はきっぱりと2023年シーズンへの抱負を語っている。

「やっぱりあの3年生たちの涙を無駄にしないように、自分たちがもっとやっていかないといけないなって。去年と同じではああいう結果になってしまいますし、去年の成績を超えたいですね」。

 それから半年以上が経ったいま、改めて『去年の成績を超えるため』に必要なことを尋ねると、ごくごく短い答えが返ってきた。「泥臭くてもいいので、とにかく自分が頑張ることです」。

 多くを語る男ではない。どちらかと言えば背中で引っ張っていくタイプだ。だから、走り続ける。だから、戦い続ける。だから、頑張り続ける。神戸U-18の10番でキャプテン。坂本が時間を掛けて丁寧に纏ってきたリーダーシップは、若きクリムゾンレッドの戴冠にとって絶対に必要不可欠だ。



(取材・文 土屋雅史) 
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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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