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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:水色の青春(川崎フロンターレU-18)

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東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 激闘が終わったばかりの芝生の上に、水色の選手たちが次々と倒れ込む。

「本当にたくさんのサポーターの方が等々力に入ってくださって、これまで一生懸命トレーニングをやってきた選手たち、メンバーに入れなかった選手たち、そういう人たちの気持ちをちゃんと考えようというところと、サポーターにちゃんと結果で勝利を届けようというところで試合に入りました。選手たちは一生懸命最後まで頑張ってくれたと思います。ただ、尚志の方が強かったです」(長橋康弘監督)。

 プレミアリーグEAST連覇を、そしてプレミアリーグファイナルでのリベンジを目指した川崎フロンターレU-18(神奈川)の挑戦は、3500人近い観衆を集めた最終節の等々力陸上競技場で幕を閉じる。守るべき王座と、奪うべき王座。2つのプレッシャーと戦い続けた2023年の彼らは、それでも最後まで、堂々と、戦い切ったのだ。


 2022年12月11日。国立競技場。プレミアリーグEASTで初昇格初優勝を成し遂げた川崎F U-18が、プレミアリーグWESTを制したサガン鳥栖U-18と対峙したプレミアリーグファイナル。ハイレベルな好ゲームは3-2で鳥栖U-18が競り勝ち、歓喜を爆発させる。

「自分たちが一番だと思って戦った試合だったんですけど、そうじゃないことが証明されたことで、また『自分たちはチャレンジャーだ』ということを再確認できました」と振り返るのは、ファイナルに臨むチームのゴールマウスに立っていた、今シーズンのキャプテンを務めるGK濱崎知康(3年)。ナショナルスタジアムで敗れたあの日から、来たる新シーズンの目標はハッキリと定まった。

 上々の滑り出しだった。新しい練習場でもある『Anker フロンタウン生田 Ankerフィールド』のこけら落としとなった、プレミア開幕戦の前橋育英高戦は3-0の快勝。2ゴールを挙げたFW岡崎寅太郎(3年)は「開幕戦は『結果にこだわってやろう』と思っていたので、それをゴールという形で現わせたのは、自分にとって最高の結果に近いんじゃないかなと思います」と胸を張る。

「今日も『チャレンジ』というテーマを掲げていて、今年は再チャレンジというところで、ファイナルで悔しい想いをしている選手もいますので、『もっとチャレンジしなきゃいけないよね』ということで目標を立てました。それはトレーニングのところから意識しています」とは長橋康弘監督。掲げるのは成長へのチャレンジ。連覇へのチャレンジ。日本一へのチャレンジ。『今季も川崎F U-18、強し』を印象付けるようなオープニングマッチだったことは間違いない。



 ただ、昨シーズンと合わせてプレミアリーグ全44試合連続スタメン出場を達成したDF江原叡志(3年)が「前期は特に勝ち切れない試合が多かったです」と口にした通り、チームは思ったように勝ち点を伸ばせない。とりわけ目立ったのは終盤での失点。第2節の流通経済大柏高戦、第5節の市立船橋高戦はいずれも後半アディショナルタイムに失点を浴びてのドロー。第6節の昌平高戦で喫した初黒星を経て、第10節の柏レイソルU-18戦も後半39分に追い付かれ、勝点2を失ってしまう。

 指揮官は対戦相手の変化を敏感に察知していた。「まず『EASTのリーグ戦を1年間戦う上では、追われる立場だよ』ということを選手たちには伝えました。1巡目から『相手にかなり対策されているな』という中で、ちょっと勝ち点が付いてこない部分もあって、選手たちはプレッシャーを感じる部分もあったと思います」。望むと望まざるとにかかわらず、“無欲のニューカマー”は“倒すべきディフェンディングチャンピオン”に、立場が変わっていたわけだ。

 進化の跡が窺えたのは、前半戦のラストゲームとなった第11節のFC東京U-18戦。押し気味にゲームを進めながら、なかなかゴールを奪えずにスコアレスで突入していた“懸案”の後半アディショナルタイム。チームきってのムードメーカーであり、確かな才能を有するDF元木湊大(3年)と左サイドバックの激しいポジション争いを繰り広げたDF柴田翔太郎(2年)の鋭く蹴り込んだCKが、相手のオウンゴールを誘発する。

「アレはもうゴールに向かうボールを求められていたので、自分のゴールにしてほしいんですけど(笑)、みんなの想いが乗ったゴールだったので良かったと思います」と笑った柴田の“アシスト”で劇的勝利を飾った川崎F U-18は、前半戦を首位の青森山田と勝ち点4差で折り返すことになる。



 後半戦のスタートとなった第12節の大宮アルディージャU18戦から、続けた4連勝の立役者は『遅れてきた実力者たち』だった。1年近い負傷離脱から復帰してきたMF岡野一恭平(3年)、最前線で基点を作ってゴールも獲れるFW高橋宗杜(3年)、高い推進力を生み出す切れ味鋭いドリブルが特徴のMF岡田泰輝(3年)、そして中盤での気の利くプレーを標準装備するMF名賀海月(3年)がその人たちだ。

「誰が出ても素晴らしいクオリティがあって、練習から強度高く、個人個人が本当に良いプレーをしているので、だからこそ毎試合結果を残して活躍しないと、次の試合もチャンスがあるかわからないですし、誰が出ても強いチームになっていると思います」という岡野一の言葉も印象深い。

「メンバー選考にものすごく苦労します。正直一番したくない作業です。それぐらいみんないいんです。試合に連れて来れなかった選手たちも、自分たちだってできるという気持ちは絶対にあると思うんですよね。そういうところがトレーニングからプレーに出ていて、1週間でもかなり成長している姿も見られますので、非常に良い状況を作れているかなと思います」(長橋監督)。好調を維持したまま、川崎F U-18は首位相手の大一番へ向かう。

 第16節が延期となり、1週間空いて乗り込んだのはプレミア屈指のホーム感を誇る、青森山田高校グラウンド。川崎F U-18が1試合消化の少ない状況で、両者の勝点差は4。それが1に縮まるか、7に広がるかは、EASTの覇権を占う上でも大きなポイントだった。

 試合後。アウェイチームの選手たちは、ショックの色を隠せなかった。スコアこそ1-2ではあったものの、90分間を見れば完敗に近い内容。2点のビハインドから気合いのヘディングでアシストを記録した、今季の10番を背負うMF尾川丈(3年)は「前半の入りから、相手の声だったり、競り合い、セカンドボールの反応というところで負けているところが多かったので、そういうところが敗因かなと思います」と厳しい表情を浮かべる。



「非常に悔しいですね。特に2巡目に入ってからの選手は、かなり自分たちが他より成長しているという実感があったと思います。なので、『とにかく思い切りやってこい』という形で選手たちを送り出したんですけれども、内容を考えた時にまだまだ足りない部分があるのかなと正直思いました。もちろん選手たちはシンプルに結果を受けて悔しいという想いはあると思うんですけど、それ以上にもっと『勇気を持ってやりたかったな』という辛い想いをしているんじゃないかなと。彼らなら、まだ全然できます」(長橋監督)。

 さらに手痛かったのは、何とか2連勝と持ち直して挑んだ第16節延期分の市立船橋高戦。前半で2点のリードを手にした川崎F U-18は、後半にまさかの3失点を喫して逆転負け。終盤のセットプレーでは前線に上がり、ヘディングをクロスバーに当てるなど執念を見せたGKの濱崎は「最後に身体を張れない部分が少しあったとは後ろから見ていて思っていて、終盤戦になっていくうちに自分たちで自分たちを苦しめてしまったのかなと思います」と言及。最終的には青森山田と市立船橋に献上した2つの黒星が、彼らの目標達成には小さくない影響を及ぼすことになる。


 1か月弱の中断を経て、負ければ限りなく優勝が遠ざかる2試合で存在感を見せたのが、後半戦はスタメンから外れることが多くなっていたMF志村海里(3年)だ。2年時の途中からは不動の左サイドハーフとしてレギュラーを確保していたものの、岡野一の復帰以降は大半の試合でベンチスタートに。その立ち位置が悔しくなかったはずがない。

 市立船橋戦後には「もちろんベンチで終わる気はないですし、ラスト3試合もスタメンを奪いに行けるように努力していますし、途中出場なら途中出場なりの役割があるので、それをまっとうしながら自分の良さをどんどん出していこうと思っています」と前向きな言葉を発していた志村に対して、「彼は岡野一が復帰して、自分が出ていたポジションを奪われた形でも、トレーニング中も何もブレずに、とにかく前を向いてトレーニングに取り組んでくれたんです」と話した長橋監督は、中断が明けると右サイドハーフとして志村をスタメンに指名する。右の志村、左の岡野一の“両翼”がシーズン最終盤の川崎F U-18の攻撃を支えていたことは語り落とせない。

 もう1人のキーマンはGK菊池悠斗(3年)だ。濱崎がU-18日本代表の海外遠征で不在という状況でキャプテンマークを巻いた守護神は、2試合連続完封できっちりと託されたバトンを繋ぐ。「ハマを抜かさないといけないというプライド的なものもありますけど、ライバルでありながら仲間でもあって、良い関係ではあると思うので、一緒に高め合っていければなと思います」と言い切る菊池の存在も、今年のチームには絶対に欠かせないものだった。

 第21節。負ければ優勝の可能性が消滅する柏U-18戦に1-0で競り勝ち、首位の青森山田がドローに終わったことで、川崎F U-18は連覇の可能性を残した2位として、最終節を迎える。相手は勝ち点で並ぶ3位の尚志高。会場は等々力陸上競技場。逆転優勝への最低条件は、まず勝利すること。バックスタンドにはトップチームの試合が同時刻に行われている中で、少なくない水色のサポーターが集結。舞台は完璧に整った。

「レイソル戦に勝って、翌日に青森山田さんが昌平に引き分けてくれたというところで、何か私たちに流れが来ているというところは1週間のトレーニングで感じていました。選手たちも最終節に向けて、前向きにトレーニングをしてくれましたし、良い準備はできたと思います」(長橋監督)。



 激闘が終わったばかりの芝生の上に、水色の選手たちが次々と倒れ込む。

「1-1に追い付いて、流れ的には完全にこっちだったと思うので、そこで2点、3点行こうというのはみんな考えていましたけど、なかなか点が獲れない中で自分たち守備陣も慌ててしまって、ああいう失点が起きたのかなと思います。尚志もこの試合に懸ける想いというのが凄く伝わってきて、でも、自分たちも気持ちの面では負けていなかったと思うので、単純に負けたのは実力です」。シーズン終盤はセンターバック起用の多かったMF由井航太(3年)は、サバサバした表情で終わったばかりの90分間を振り返る。

 前半14分。セットプレーから尚志に先制を許す。「自分たちの課題であるセットプレーからやられたので、1年間通して改善しようということでチームとしてやってきたことが最後までできなかったですね」とは由井。やや硬さの目立った立ち上がりから、失点以降は少しずつ攻撃のリズムを掴んだものの、前半は0-1のままで終了する。

 後半4分。狙い通りの形で川崎F U-18が同点に追い付く。「相手のセンターバックの背後は狙っていて、トラと目が合って動き出してくれた」という江原のフィードから、フリーで抜け出した岡崎は「自分たちのキーパーがレベルの高い選手たちだという自負があって、その2人に普段からああいうシュートも練習していたので、自信を持って選択できました」というループシュートでゴールネットを揺らす。1-1。まだ試合は終わらせない。

 後半37分。次の得点は尚志に記録される。「同点になってからは自分たちの時間が長かったにもかかわらず、決め切れなかったというのは自分たち前の人間に責任があると思います」と岡崎が口にしたように、自分たちが押し込む展開の中で食らってしまった一刺し。1-2。勝ったのはアウェイチーム。川崎F U-18が可能性を繋いでいた“2つの目標”の達成は、等々力のピッチで絶たれる結果となった。



「選手たちは特に前半は持てる力を精一杯出してくれたのかなと思っています。でも、後悔はあるかもしれません。私は選手たちをずっと見ていますので、彼らがもっとできるのを知っています。緊張もあったでしょうし、プレッシャーもあったと思いますけど、後悔していると思います」(長橋監督)。

 いつだって、その力を信じてきた。誰よりも日常から選手を見つめ、支え、成長を促してきたのだ。だから、彼らがもっとできることも知っている。最後まで声援を送り続けてくれたサポーターへと挨拶するため、バックスタンド前に整列する選手たちを見つめる長橋監督が、誰よりも悔しそうな表情を浮かべていた光景が忘れられない。

 選手同様に優勝への強い想いを隠さなかった指揮官は、その心の内をこう明かしている。「今年は正直言うと優勝して、『もうフロンターレは負けてはいけないチームなんだ』ということを選手たちに感じてもらって、さらに成長を促すという狙いが私自身あったんです。ただ、最後まで優勝争いをしたというところで言うと、選手全体の成長、育成の成長というのを感じます」。

「去年のファイナルで負けた悔しい想いをピッチレベルで感じた選手も今の3年生にはいますし、『そこを取り返すぞ』という1年だったので、結果的には残念でしたけど、成長は本当に感じられたと思っていますし、こうした部分を1,2年生はしっかりと受け止めて、継続してやってほしいなと思います」。1,2年生が足を踏み入れていく『負けてはいけないチーム』の新たな戦いは、もうここから始まっている。


 今年の3年生で唯一トップチームへの昇格が決まっている由井は、残された高校生活を満喫したいという。「まずはこのユースが終わったなというのを1週間か2週間ぐらい噛み締めて、余韻に浸りたいです。学校も12月ぐらいまでしか行けないですし、やっぱりあまり青春できなかったので、青春したいですね(笑)」。

 卒団後は大学へと進学する岡崎も、その言葉に同調する。「自分も高校に行っていると友達から『今からカラオケ行くか』とか『今日は遊ぶぞ』とか誘われたりするんですけど、それをこらえて練習に行くわけで、やっぱり家で友達とのLINEグループを見て、写真が共有されているのを見ると、『うわ~』と思うのは、1週間に1回じゃ済まないです(笑)。でも、今日来てくれたサポーターの皆さんに応援してもらえたり、こういう素晴らしい環境を用意してもらって、そういう中でサッカーをさせてもらえるのは、他のチームでは絶対にできないことだと感じていますし、“そういう青春”を送りたいなと思いながらも、サッカーに打ち込んで、日々苦しいことを一緒に乗り越えたから、今のチームメイトのことが凄く好きでいられるんだと思います」。

 最後の集合写真には、DF高橋悠斗(3年)やDF中原章雅(3年)を筆頭に、この日はメンバー外だった選手も含め、3年生全員が“パイナップル”を手にフレームへ収まった。サッカーとフロンターレという強い磁力に引き寄せられ、濃厚な時間をともに過ごしてきた彼らは、この日、このチームで、この仲間と戦った等々力のピッチへと再び帰ってくるために、それぞれが選んだ道へ旅立っていく。試合終了から1時間が経った頃、ようやく水色のみんなの表情に笑顔が灯った。

「大学4年間でさらに成長して、また等々力のピッチで、皆さんの前で成長したプレーを見せたいと思います」(江原)「4年後にしっかり成長して帰ってきて、皆さんの前で成長した姿を見せられたらなと思います」(濱崎)「しっかりと大学で4年間成長して、プロの世界で活躍している自分の姿を見せられたらいいなと思っているので、また応援していただけると嬉しいです」(岡崎)。

 きっと、気付く時が来る。最高の仲間とボールを追い掛けた日々が、何よりかけがえのない時間だったということに。大きな目標に向かって仲間と想いを1つにしたことが、どれだけ幸せだったかということに。川崎フロンターレU-18の3年生たちが過ごした『水色の青春』の記憶は、いつまで経っても色褪せることなく、彼らの中に息衝いていく。

2023年の川崎フロンターレU-18に集った3年生が全員で記念写真に収まる


■執筆者紹介:
土屋雅史
「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に『蹴球ヒストリア: 「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴』

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Text by 土屋雅史

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