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「尚志のボールハンター」から「日本のボールハンター」へ。MF神田拓人は選手権の初戦敗退も成長の糧に次のステージを奪取し続ける

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尚志高MF神田拓人(3年=FC川崎CHAMPジュニアユース出身)は圧倒的なボール奪取力を披露

 すべての経験は、未来を彩る大事な成長の糧になる。列強の猛者と互角に渡り合った手応えも、悔し過ぎる感情を突き付けられた敗戦も、あらゆるものを取り込んで、誰よりも逞しくこの世界を生き抜いてやる。

「サッカーには確実に勝てる試合はないなと、選手権で痛感したので、大学生活でも常に同じ気持ちを持って、『絶対に勝てる試合なんかないんだ』と思いながら、あの学芸館の負けが良い負けだったなと思えるように、大学での4年間でしっかり成長していきたいと思います」。

 尚志高(福島)が誇る世代屈指のボールハンター。U-19日本代表MF神田拓人(3年=FC川崎CHAMPジュニアユース出身)は選手権での初戦敗退を真摯に受け止め、来たる大学生活へと万全の準備を施している。


 2023年は飛躍の1年だった。1月にU-17日本高校選抜に選出され、その実力を遺憾なく発揮すると、その1か月後にはU-18日本代表候補のトレーニングキャンプにも初招集。同年代の選手たちと切磋琢磨する中で、圧倒的なボール奪取力を生かした守備の部分が評価され、6月にはさらに1つ上のカテゴリーに当たるU-19日本代表でフランス遠征も経験する。

 初めて肌を合わせた海外の選手たちを相手に、実感したという手応えが頼もしい。「予測の部分だったり、寄せる速さというのは他の海外の選手よりも自分の方ができているのかなとも思いましたし、ボール奪取能力も僕の方があるのかなとも感じたので、そういう面では全然やれると思います」。

 8月、11月と継続してU-18日本代表の活動にも参加。プレミアリーグEASTでも中盤の要として尚志を牽引し、チームは復帰1年目のリーグ戦を2位でフィニッシュ。明確に日本一を目指して臨んだ高校選手権では、しかし2回戦で前年王者の岡山学芸館高と対峙し、1-2で逆転負け。悔しい初戦敗退を強いられることになる。

「ほぼほぼ攻めていましたし、チームとしては良い試合ではあったのかなと。でも、相手の方が走力やチームの一体感が上だったので、試合の内容以前に勝利に対する気持ちというのは学芸館の方が上回っていたのかなと思います」。素直に負けを認めながらも、神田が続けて話した言葉が印象深い。

「ずっと実感がなかったんです。プレミアリーグEASTは2位で終わって、本当に『選手権は優勝できるな』という自信を持って臨んだんですけど、結果は初戦敗退ということで、なかなか現実を受け止めることができなくて、選手権が終わってようやく『ああ、自分たちは負けたんだな』と感じて、そこでより悔しさがこみ上げてきましたね。もう負けてからは試合を見たくなくて、結果とかもあまりチェックしないようにしていて、『早く終わらないかな』って。悔しい大会でした」。

 間違いなく、頂点に立ち得る力はあった。仲村浩二監督も珍しくはっきりと「日本一を狙いに行きます」と明言していたほど。残してきた実績を後ろ盾に、根拠のある自信を持っていたからこそ、余計にその敗戦は彼らに小さくない失望をもたらしたのだ。

 だが、サッカーの世界で生きていくからには、すぐに次の戦いがやってくる。神田にとっては今回の日本高校選抜の活動がリスタートの舞台。「選手権が終わってから2週間ぐらい空いて、チームの練習にも混ざっていなかったですし、試合勘という部分はちょっと心配でした」とは言うものの、モチベーションは十分でこの選考合宿へやってきた。

 活動2日目は日本体育大とのトレーニングマッチ。25分×4本の1本目で昨年のU-17日本高校選抜でもチームメイトだったMF長準喜(昌平高3年)とドイスボランチを組むと、大学生相手にも一歩も譲らぬハイパフォーマンスを披露してみせる。

 何よりも出足が違う。「自分の長所を出すことは意識していて、そこを出さないと自分がこのあとも選抜に呼ばれることはないと思っているので、まずは守備のところで今日みたいにボール奪取だったり、カバーリングだったりというところを意識してやっています」と話すように、水が漏れそうな場所にいち早く駆け付け、身体の接触もいとわぬ高い強度で、幾度となくボールを奪い取る。

 経験値から来る意識の高さも見逃せない。「自分は去年の高校選抜も経験して、ここから代表に選ばれているわけで、代表で得た“基準”をこの高校選抜で出すことも自分の役割だと思っているので、そこはピッチで表現して、なおかつピッチ外でもしっかりお手本となれるようにやっていきたいと思います」。この日も周囲へ的確な指示を送り続けるなど、リーダーシップを取ろうという意欲も垣間見える。

 既に見据えているのは、新たに足を踏み入れる4年間のスタート地点だ。「もう自分も4月に入ったら大学生なので、1年生から試合に出るのを目標にしていますし、そのためにはこういうところで大学生相手にもやれないと、すぐに試合になんて出られないとも思っているので、今回もかなりやる気を持って臨んでいます」。

 尚志のボールハンターから、日本のボールハンターへ。目の前のボールも、目の前のさらなる高いステージも、全力で奪取し続ける。全国の実力者が集った日本高校選抜の中でも、神田が力強く示す基準と意識は、このグループをより高みへと押し上げていくに違いない。

(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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