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トップチームのキャンプ帯同で突き付けられた現在地。FC東京U-18FW山口太陽が心に宿すのは未来を照らす“メラメラの炎”

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FC東京U-18のレフティストライカー、FW山口太陽(2年=FC東京U-15むさし出身)

[2.11 東京都CY U-17選手権決勝L FC東京U-18 5-0 大森FC U-18 東京ガス武蔵野苑多目的G]

 悔しいエネルギーは十分すぎるほどに蓄えてきた。今年はこのアカデミーで過ごす最後の1年。溜めてきたそれを存分に爆発させるための準備と覚悟は、もう整い始めている。

「なるべく早くプロの世界でやりたいので、そこに絡んでいけるように、チームで獲れるタイトルは全部獲って、その中で自分も多く点を獲って、どんどん結果を残していきたいというのが目標です」。

 昨シーズンからFC東京U-18の9番を背負ってきた、注目のレフティストライカー。FW山口太陽(2年=FC東京U-15むさし出身)はトップチームの先輩たちと過ごした時間の意味を身体に刻み、2024年を戦い抜く。


 FC東京U-18の新チームにとって2試合目の公式戦。トップチームの沖縄キャンプに参加していたこともあり、初戦を欠場した山口はベンチからのスタートを告げられる。

「去年とは監督も変わって、やり方も変わっていたので、ちょっと守備の仕方やセットプレーでわからない部分が多かったんですけど、ユースに戻ってきてからちょっとずつ慣れている感じですね。そういうこともあって、スタメンではなかったのかなと思いました」。

 本人はそういう理解をしていたようだが、今季からチームを率いる佐藤由紀彦監督は、その采配に込めた理由を穏やかに明かす。「もともとポテンシャルが高いのは認めているところですけど、ユースとして活動する時間が少なかったので、今日はディヴァ(尾谷ディヴァインチネドゥ)にスタメンのチャンスを渡しました。それを受けて、彼がどういうメンタリティで来るかというところも見たかったところもありますね」。

 大森FC U-18がしっかりサッカーを突き詰めている好チームだったこともあり、前半はチャンスこそ多かったものの、スコアは1-0で終了。山口は後半のスタートからピッチへと解き放たれる。

 実戦の機会に飢えていた。トップチームのキャンプでは紅白戦にもなかなか入れず、練習試合でも出場時間は10分程度。「練習試合はディエゴ(・オリヴェイラ)さんに代わってスタメン組に入れてもらったんですけど、あまりボールには触れなかったです。自分がユースだということもあって、『頑張れ!』とか優しく声掛けしてくれていたのはありがたかったですけど、『ちょっと対等ではないな』って。もっと自分が早くそういうところで対等にやっていけるように、結果を残していかなくてはいけないなと思いました」。優しく扱われることに感謝と悔しさの両方の感情を味わったという。

 FC東京U-18は後半開始早々に2点目を奪うと、14分に決定機が巡ってくる。MF田邊晴大(1年)のパスからFW大越友太波(2年)のシュートはポストを叩いたものの、こぼれ球に反応した9番がすかさずゴールネットへ流し込む。

 33分はセットプレーのチャンス。左からMF大澤修三(2年)が正確に蹴り込んだCKへ、「ファーに入ったら、ちょうどキッカーがそこに良いキックを上げてくれたので、合わせるだけでした」と飛び込んだ山口がゴールを陥れる。

 その後に2度訪れたチャンスは決め切れず、ハットトリックは逃したものの、新チームになってから自身にとっては最初の公式戦で2ゴールを記録。「チームとしては他にも決められるところがあったので、もっと獲りたかったのが本音です。ただ、自分のゴールが獲れたことは良かったかなと思います。ちょっとホッとしました」。45分できっちり残した結果に、安堵の表情も浮かんだ。


「フルで帯同した中で、なかなかチャンスがなかったんですけど、その中で自分にできることをやっていく感じだったので、悔しいキャンプではありました」。前述したように山口はトップチームの沖縄キャンプにフル帯同したものの、現在地を痛感する格好に。思い描いていたような時間は過ごせなかった。

「ディエゴさんは身体の強度もスピードも全然違いましたね。あとは練習自体も、ボール回しに入るにしてもスピード感が違うので、切り替えの意識も含めて、すべてのスピードが違うなと感じました」。プロのスピード感の違いに慣れるのに苦労したが、そこでアドバイスをくれたのはおなじみの“レジェンド”だ。

「長友(佑都)さんから『自分もA代表でボール回しに入った時に、最初は目が追い付かなかったけど、やっていけば目は慣れるものだよ』というアドバイスを戴きました。その言葉もあって、トップの選手の動きがわかってくるにつれて、日に日に目が追い付いていくようになりましたし、切り替えも追い付くようにはなりました」。

「長友さんはみんなのことをまとめる力が凄くて、年齢に関係なく誰にでも要求しますし、チームの中心になる存在感を見せてもらいました。しかも気さくに話しかけてくれるので、自分もユースで後輩がいる分、そういうところは見習いたいなと思いました」。やはり長友佑都が“後輩”たちに与える影響は相変わらず絶大だ。

 それでも刺激的な環境の中で、得られたものがないはずはない。「シュートに持っていくまでの形を作るところは、少し通用したのかなと。ただ、ちょっとかわしただけだとシュートは打てなくて、キックフェイントみたいに1つアレンジを加えないとトップでは通用しないと感じたので、ゴール前での工夫が大事になってくると思いました」。山口がその重要性を実感したという『ゴール前での工夫』には、ここからのシーズンも注視していく必要があるだろう。


 2023年シーズンは所属チームでの出場機会を大幅に伸ばし、プレミアリーグでもチームトップの10得点を挙げたものの、目指していたFIFA U-17ワールドカップのメンバーには選ばれなかった。そして、今回のトップチームのキャンプでも大きなアピールには至らず。着実に成長している手応えこそ掴みながら、それ以上に悔しい経験を突き付けられてきた。

 大森FC戦の試合後。佐藤監督が話していた言葉も印象深い。「太陽はメラメラしていましたね。でも、それがトップだと34試合や38試合続くわけで、そのハイアドレナリンでどれだけできるかというところで、リバウンドメンタリティじゃなくても、常時できるように持っていければなと思いますね」。

 9番は昨シーズンのスタート時に志願して付けた。その際に自身へ課したのは、この冬にベルギーへと海を渡った“前任者”の熊田直紀(ゲンク/ベルギー1部)を超える活躍。その先には間違いなくより大きな世界が広がっているはずだ。

「プレミアでは20点以上獲りたいですし、もちろん得点王も獲りたいです」。有言実行するだけのポテンシャルは、間違いなくある。FC東京U-18を牽引するストライカー。山口が心に宿すメラメラと燃える炎は、青赤の未来も明るく照らしていく。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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