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なぜ、Jリーグ1年生の長崎は旋風を起こせているのか?

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[4.17 J2第9節 横浜FC1-2長崎 ニッパ球]

 今季、JFLからJ2に昇格したばかりのV・ファーレン長崎が止まらない。開幕9試合を終えて5勝2分2敗という数字を残したJリーグ1年生は、昨季のJ1クラブ、ヴィッセル神戸、ガンバ大阪に次ぐ3位という順位につけている。昨年J2最下位に終わり、JFLへ降格したFC町田ゼルビアは、1年を通して7勝を挙げたが、長崎はシーズンの約5分の1を終えた時点で、その数字に2勝と迫っている。なぜ、これだけの好成績を残せているのだろうか。

 17日の第9節、長崎と対戦した横浜FCのMF武岡優斗は首をひねった。「セカンドボールが全部相手に行っていたので。なぜかは、分からないです。僕たちも狙いに行っているのですが、相手の方にこぼれて、2次攻撃、3次攻撃を受けてしまった。あれで難しくなってしまいましたね」

 横浜FCの山口素弘監督が「今日もしっかりとした入り方ができていた」と振り返ったように、前節の京都戦(1-0)で、開幕戦以来の勝利を挙げた横浜FCも、立ち上がりの動きは悪くなかった。だが、不思議とルーズボールは長崎に転がった。公式記録上、前半のシュート数は長崎が3、横浜FCが2だが、ゴールに迫る回数では長崎が圧倒していた。

 ボールを回収し続けたMF金久保彩も「いやぁ、なんででしょう」と戸惑いながらも、「執着心というか、全力で貪欲にプレーしているのがつながっていると思います。どこにこぼれて来るかはイメージしてプレーしていますね。身長が低いので、細かく動いたり、セカンドボールが早く取ることは、大学のときから意識していました」と、続けた。2点に絡んだMF古部健太も「みんな足を止めていないから、セカンドボールへの意識も早いし」と、同調する。

 勝利に不可欠な要素の一つに『運』がある。この日の、長崎には間違いなく運があった。前半に横浜FCのMF松下裕樹が放ったFKに、GK金山隼樹は反応できなかった。しかし、壁を越えたFKは右ポストを叩いている。後半、1点をリードした横浜FCに負傷者が出たが、相手が10人でプレーを続けた。結果、数的優位を生かして同点ゴールを決めることができた。古部の決勝点もポストを叩いたが、GK柴崎貴広の背中に当たってゴールに入った。先に挙げた、こぼれ球の行方も、運によるところが大きい。

 ただ、長崎の選手たちは運をつかむためのハードワークを怠らなかった。ボールがこぼれた先には、長崎の選手がいた。さらに、その選手がパスを出せる位置にも、次の選手が走っていた。得点の場面でも、同点ゴールを金久保が挙げた際に、パスを出した古部は右SBを引き連れて前線へ走った。2点目の場面でも、古部の放ったシュートに対し、金久保がしっかりとゴール前に詰めていた。

 中2日。しかもアウェーへの移動もあった中で、全員が最後まで走り切った。「ハードワークをすれば、行けるという手応えがあるか?」。そう問われると古部は、首を振った。「ハードワークすれば行けるというより、ハードワークをしないと戦えない。そこは最低限で、そこから先はどっちに転ぶか。まずは一生懸命やる。ハードワークは最低限。それで後半の得点も増えてきました。走り続けているのは、生きて来たと思います」。

 高木琢也監督は、3節のモンテディオ山形戦(0-2)が、きっかけになったと明かす。「山形戦は何もできなくて、自分たちの目の前で相手が動いているだけの状態でした。戦った中で足りないものがあればショックでしたが、逆にああいうことが起き、サッカーの本質の中で、何が必要かを検証できました。負けて得るものがあると言いますが、あの試合はそういう試合だったと思っています」

 長崎は、個の力で圧倒できるわけではない。誤解を恐れずに言えば、自分たちが弱いことを認めているからこそ、全員がハードワークを続け、互いの持ち味が出やすい場面をつくり合おうとしている。それが、彼らの『強さ』を支えているのだろう。

 9節を終えて3位という順位にいるが、高木監督は「今は夢を見ている段階」と言い切る。「最終的にこの順位なら最高ですが、まだ残り試合もたくさんありますし、こういう状況で浮かれている選手は、誰もいないと思います。もし、そういう選手がいれば、ちょっと呼び出して、何か言うかもしれません(笑)」。

 冗談を交えて話した高木監督だが、今のところ、その心配はなさそうだ。この日、途中出場から1得点1アシストと結果を出した古部は「スタメンで出たときに何も結果を残していないので」と、更なる活躍に、貪欲な姿勢を見せている。「昨年の舞台だったJFLより、間違いなくレベルは高いですよ」(古部)とも話す彼らは、Jの舞台で、これまで以上に大きな夢を叶えられることも分かっているはずだ。

 混戦J2で旋風を巻き起こしている長崎に対し、今後はより多くのクラブが対策を練って来るだろう。それでも、自分たちの力を認識しながら戦っている彼らは、大崩れしにくいはずだ。GK金山は「僕たちは1年目でチャレンジャーなんで、油断はできません。まだ何十試合もありますし、全部負けたら降格する可能性があるので。自分の中でも試合に出続けるためには気を抜けないので、もっともっとやらないと。満足は、全然できません」と、4連勝を喜びながらも、危機感を口にした。

(取材・文 河合拓)

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