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J2からACL16強の甲府、足掛け3季の躍進劇に幕…指揮官が吐露した誇りと葛藤「クラブとしても足りない部分は明確」

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アジアの旅を16強で終えた

[2.21 ACL決勝T1回戦 甲府 1-2 蔚山現代 国立]

 一昨季の天皇杯優勝から足掛け3シーズン、ヴァンフォーレ甲府のアジア挑戦はベスト16で幕を閉じた。最後は決勝トーナメント1回戦で韓国王者の蔚山現代に挑み、2戦合計スコア1-5で大敗。篠田善之監督は試合後、「ひたむきさを出して戦う姿勢はどの試合も見せられた。そういった部分では誇りに思う」と選手たちの奮闘を称えつつ、クラブが置かれた立場への課題も口にした。

 昨季後半戦のグループリーグを首位で突破した甲府だったが、クラブ史上初の決勝トーナメントではアジアトップレベルの洗礼を浴びた。敵地の第1戦を0-3の完敗で終え、重いビハインドを背負って第2戦の国立競技場へ。序盤からアグレッシブなプレスで相手を押し込むことには成功したが、決め切れないまま相手にいなされ、逆に前半11分という早い時間帯にカウンターから失点を許した。

「今日のゲームやはり第1戦で0-3で負けてホームに来たのが重くのしかかった。立ち上がりの先制点で難しくしてしまった」(篠田監督)

 その後はエースのFWピーター・ウタカ、新戦力のFWファビアン・ゴンザレスらが次々に決定機を演出したが、どれも韓国代表の正GKチョ・ヒョヌら強固な守備陣の牙城を崩せず。終盤にようやくFW三平和司のゴールで一矢報いたが、アディショナルタイムに再び失点を許し、この一戦だけでも1-2の敗戦に終わった。

 試合後、記者会見に出席した篠田監督は「チャンスを多く作れたことは良かった」と振り返りつつも、「決め切ること、もう一つ変化を加えること、もう一つサポートすること、判断を早くするところで蔚山が上回っていた」と質の違いを認め、「今までのグループリーグの相手とは違ったうまさ、速さ、強さをすごく感じた」と相手を称えた。そして「アジアの戦いを経て、選手たちが何を感じたか、私自身もどの経験を活かして進んでいくかを考えたい」と負けを噛み締めた。

 一昨季の天皇杯で初優勝を果たし、J2リーグ所属では異例となるACL出場権を獲得した甲府。天皇杯では初戦でアマチュア勢のIPU・環太平洋大に5-1で大勝した後、3回戦以降は格上となる札幌、鳥栖、福岡、鹿島とJ1勢を次々に連破し、決勝戦では広島とPK戦の死闘を制する躍進劇で、アジアへの道を切り拓いた。

 昨年夏に始まったACLグループリーグでは韓国勢不在という組分けに恵まれた側面もあったが、それを差し引いても強さが際立つ3勝2分1敗の結果で首位通過を達成。J2リーグとの連戦で主力選手を起用できない試合が続いたが、昨季就任した指揮官が「ヴァンフォーレが敗退するだろう、1勝もできないだろうという思いは誰しもあったと思うが、選手たちがそれを覆したのは素晴らしい働きだった。私自身も誇りに思う」と称えるほどの快進撃を見せた。

 また代替本拠地となった国立には毎試合、大勢の観衆が来場。平日ナイトゲームの集客に苦しむビッグクラブもある中、グループリーグ初戦で11802人と日本勢唯一の1万人超えを果たすと、第2戦に12256人、第3戦に15877人、そしてこの日は15932人と、試合を重ねるごとに盛り上がりが高まっていった。その中にはJリーグ他クラブのサポーターも大勢訪れ、大きな話題を呼んでいた。

 もっともその一方、国立開催に至った状況にはクラブを取り巻く環境の課題も垣間見えた。Jリーグ公式戦で使用する本拠地のJITリサイクルインクスタジアム(山梨県小瀬スポーツ公園陸上競技場)を使えなかったのは、個別の座席数不足などでAFCライセンスが交付されなかったため。天皇杯優勝後には座席増設、新スタジアム建設の機運が高まりかけたが、いまだ具体的な建設計画には発展していない。

 またJ1昇格を逃したことによる課題も露呈した。一昨季の天皇杯優勝からACL開幕までの間にはMF山田陸(→名古屋)やDF須貝英大(→鹿島)がJ1移籍を選択し、今季開幕前にはDF三浦颯太(→川崎F)、DF井上詩音(→名古屋)、MF長谷川元希(→新潟)らACL躍進に導いた主力が一挙に流出。MF松本凪生(→C大阪)、DF蓮川壮大(→FC東京)、MF中村亮太朗(→清水)らレンタル組もクラブを離れ、ACLで選手の評価が高まった戦力を維持できないまま決戦に臨む形となっていた。

 この日の試合後、篠田監督は「彼らが天皇杯を獲って、この出場権を得たこと、そして昨年グループリーグを突破したこと、選手たちで勝ち取ったことだと思う」と近年の歩みを前向きに振り返りつつも、クラブの難しい現状にも踏み込みながら「前進するために足りない部分、クラブとしても足りない部分は明確に見えたし、チームとしてもJ1に常にいるチームでないといけない。そういった部分ではクラブとして、選手として、私自身、指導者として本当に多くのものを学ばせていただいた」と複雑な心境を吐露した。

 また国立開催での集客に尽力した関係者に対して「何よりもサポーターの力があった。こんなにたくさんの声援を受けた。ホームの国立競技場で使わせてもらったこと、クラブとしてパワーを使って、いろんなところにお願いしに行ったことに感謝したい」と感謝を述べた際にも、「小瀬、山梨のほうで試合をできなかったという条件があった。山梨の子どもたちの前で試合を見せられたらもっと良かったかもしれない」と山梨開催に至らなかったことへの無念をにじませていた。

 来季からはACLの大幅改編が予定されており、トップ大会のACLE(エリート)にはJ1リーグの1〜4位が出場し、天皇杯王者は下位大会のACL2に回ることが決まっているため、J2リーグからアジア王者を目指すことは事実上不可能となる。そのため、甲府が再びこの舞台に戻ってくるためには、地域とともにクラブがより大きくなり、J1上位に食い込んでいくことが必要となる。

 篠田監督は「クラブがさらに発展していくため、選手たちがもっと上手くなるため、監督としてそのサポートをできればと思う」と意気込みつつ、まずは4日後に開幕を迎える今季のJ2リーグに照準を合わせた。「選手たちはACLのラウンド16を通り抜けて進むという意思を全員で持っていると感じていた。それを叶えられなかったことを自分は反省しないといけない。ここからリーグに入るが、このタイミングでこの強度で試合ができたのは彼らにとって、チームにとってプラスになる2試合だったと思う」。アジアの舞台で掴んだ手応えと課題を糧に、8年ぶりのJ1復帰に全てをかける。

(取材・文 竹内達也)

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竹内達也
Text by 竹内達也

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