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順調ではなかった1年間の総決算。阪南大高を率いる指揮官が実感したチームの変化と自身の変化

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阪南大高はこの1年で確実に成長を遂げてきた(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.2 選手権3回戦 阪南大高 1-3 青森山田高 駒沢]

 決して順調な1年を送ってきたわけではない。チームがバラバラになりかけた時期もあった。それでも、インターハイでも選手権でも全国の16強まで勝ち上がってきた成果には、大いに胸を張っていいはずだ。

「選手はしっかりと戦ってくれたと思います。それに尽きると思います」。オンライン会見に現れた濵田豪監督は開口一番、選手たちの奮闘をねぎらう言葉を紡いだ。

 阪南大高(大阪)は確かな成果と未来への手応えを得て、また次のステージへと向かって歩き出す。

 立ち上がりは、決して悪くなかった。インターハイ王者であり、プレミアリーグEASTでも難敵をねじ伏せて優勝を勝ち獲っている青森山田高(青森)と対峙した一戦。ややバタつきかけていた相手を尻目に、阪南大高の勢いが明らかに上回る。

 前半10分にはFW石川己純(3年)、 MF松本楓悟(3年)と繋ぎ、右SB今西一志(2年)のクロスに石川が飛び込む。シュートはヒットしなかったものの、完璧に崩した形からフィニッシュの一歩手前まで。14分にもMF稲垣大燿(3年)、MF田中大翔(3年)とボールを回し、MF櫻井文陽(3年)がわずかにゴール右へ逸れるミドルを放つ。ゴールの香りは間違いなく漂っていた。

 失点は一瞬の隙から。15分。ロングスローではなく、クイックで始められたスローインの流れからクロスを上げられると、守備の態勢が整い切らない中でDFに当たったボールが、そのままGKを破ってゴールネットへ吸い込まれる。想定外のオウンゴール。流れをつかんでいただけに、手痛い先制点の献上だった。

 もちろんここまでの2試合で6得点を挙げている、エースのFW鈴木章斗(3年)に厳しいマークが付くことは想定済み。「章斗に相手の力強いセンターバックの子が来ることは想定していたことだったので、それ以外の選手がどれだけ活躍できるか、怖がらずに出ていけるかということを考えてきました」と濵田監督。22分には今西の左CKからDF西田祐悟(3年)とDF櫻本亜依万(3年)が続けてシュートを放つも、相手DFが執念の連続ブロック。40分にも石川が左足で狙ったシュートが左ポストを叩く。チャンスは作るも、ゴールが遠い。

「『もう自信を持ってやれ』って言っていて、後半の入りの部分で失点をしないようにということと、『ギアを入れるところで入れていこう』ということを伝えて送り出したんですけど、そこの差が最終的にしんどくなった要因だと思います」と指揮官も振り返った後半は、3分と12分に相次いで失点。ロングスローの流れから鈴木が意地の1点を返したものの、その後に石川とDF保田成琉(2年)へ訪れた決定機は、いずれも得点に結び付かず。1-3。勝利には、手が届かなかった。

 キャプテンを務めた鈴木が「大阪二冠できたんですけど、チームとしてまさかここまで来られるとは、たぶん誰も思っていなかったと思います」と口にしたように、インターハイ予選と選手権予選の大阪王者も、夏前には公式戦で勝てない時期が続き、チームは自信を失い掛けていた。

 挑んだインターハイの本選では、不戦勝となった初戦を経て、2回戦は後半のアディショナルタイムに追い付かれ、辛くもPK戦で勝利。大一番となった3回戦の神村学園高(大阪)戦は、3点をリードされる展開に。最後まで粘ったものの、3-4で逃げ切られ、全国での経験も確かな自信を得るまでには至らない。

 普段から温厚な指揮官も、試合中にピッチへ檄を飛ばす回数が格段に増えた。この日も「問題ない!良いサッカーはできているぞ!」「前に行ってみろ!」と大声で選手たちを鼓舞するシーンが。本来チームが持っている良さを信じ、さまざまなことに取り組み、彼らの潜在能力を引き出そうと腐心してきた。

 だからこそ、敗れてはしまったが、戦う姿勢を最後まで見せた教え子たちの変化した姿が、嬉しかった。「夏までは本当に方向性が見えない中でのチーム作りだったので、ああいう結果になったインターハイと今日の試合とは、全く内容が違う結果だったと思います。戦いぶりとしては、しっかりと力強くサッカーができたんじゃないかなと感じますし、成長したんじゃないかなと思います」。濵田監督はきっぱりと言い切った。

 鈴木もようやく最後にまとまりを見せた自らのチームに、改めて感謝の想いを口にする。「1人1人に強い気持ちやプライドがあって、ケンカすることもあったんですけど、それがあったから、こうやってお互いに言い合えることができて、強くなっていったと思いますし、このチームでなければ僕もプロというステージには行けなかったと思うので、本当にこの仲間たちに感謝しないといけないですし、この感謝を次のステージでの活躍で恩返ししたいです」。

 ある意味で今までとは“キャラ変”した濵田監督から、最後に本音が漏れる。「かなり疲れました(笑)。僕がキャプテンマークを巻きたいぐらいの気持ちでやった年だったと思います」。

 6年ぶりに戦った冬の全国で得た初勝利の感慨と、敗北の悔しさと。選手思いの指揮官に率いられ、新たな歴史の扉を開いた阪南大高の挑戦は、これからも間違いなく未来へと連なっていく。

(取材・文 土屋雅史)

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