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昨冬はPK外して敗退、あれから積み重ねた努力…「今年はもう自信満々」興國DF西川楓人が1年越しの歓喜

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興國高DF西川楓人(3年、写真左から1人目)

[11.6 選手権大阪府予選準決勝 興國高 2-2(PK5-4) 桃山学院高 ヨドコウ]

 同点のまま規定の100分間を終えて迎えたPK戦、後攻の興國高で先鋒キッカーを務めたのはDF西川楓人(3年)だった。「今日はもう、自信満々でした」。キャプテンマークを巻いてピッチに立った背番号5の力強い言葉には、1年前の苦すぎる経験から懸命に積み重ねてきた努力の跡がにじんでいた。

 2021年10月31日、当時2年生だった西川はピッチの上に泣き崩れた。3-3で延長戦を終えた大阪府予選準々決勝・大産大附高戦、PK戦で両チームのGKが互いに止め合う中、先攻9人目のキッカーを任された西川だったが、力強く放ったシュートは大きく左上へ。この失敗が響き、FW永長鷹虎(現・川崎F)らJリーグ内定者4人を擁したチームは全国行きを逃した。

 試合を徹底的に支配することを目指す興國のサッカースタイルでは、PK戦にもつれ込むことは本望ではない。そうした中では、9人目のキッカーにかかる重圧はなお計り知れない。しかし、そうした前提を割り引いてもなお、1年前の経験は西川の胸に大きな悔いを残していた。「申し訳ないという気持ちしかなかった。切り替えなあかんとは分かっているけど、鷹虎くんたちがすごかったので全国で見てほしかったし、2年やのに……というのもあって」。先輩たちの夢が打ち砕かれた責任の重さは痛いほど感じていた。

 しかし、西川はそこから覚悟を決め、約11m先のゴールと向き合い続けた。「練習前には絶対にFKとPKをやってきたし、1日絶対に3本は蹴ってきた」。その数には「少ないですけど……」と本人は言うが、他のチームメートは「夜の自主練でもPKを蹴っているところをいつも見ていた」と証言。二度とあの悔しさを経験しないよう、日々の積み重ねを怠ることはなかった。

 その成果が、今年の準決勝で身を結んだ。内野智章監督は西川を1人目のキッカーに指名。1年前と同じ背番号5を着けてペナルティスポットに立った西川には、あの日のような不安感はなかった。「もうやるしかないと思ってたんで、緊張とかはなく普通に蹴りました。ずっと練習してたんで」。右を狙ったキックは相手GKの逆を突いてゴールイン。ゲームキャプテンとして見事にチームの先陣を切った。

 また続くキッカーも、西川の悔しさと奮闘を間近で見てきた選手たち。PK戦に向かう気迫は十分に受け継がれていた。「西川は誰に何を言うわけでもなく、空き時間を見つけてPKを蹴ってたんですよ。そう言うのをみんな横目でチラチラ見てたのがいい影響を与えたんだろうなと」(内野監督)。指揮官が「危なげないキックばっかりでしたよね」と目を細めたとおり、続く4人も完璧なキックをズバズバと突き刺した。

 キッカー陣の成功に後押しされるかのごとく、守ればGK山際壮太(3年)が相手3人目のキックをストップ。昨季涙をのんだPK戦でリベンジを果たし、決勝進出を決めた。試合後、晴れやかな表情で取材に応じた西川は「もうほんまによかった。ほっとしてます、今」と噛み締めるように話した。

 苦い記憶を払拭することに成功した西川だが、試合全体については反省も忘れなかった。この日は2度もリードを奪いながら2度にわたって追いつかれ、守備の粘り強さに課題が露呈。決勝戦の履正社高戦に向けて「守備リーダーとしてチームを引き締めたりできなかったので、決勝はそういう隙がなくちゃんと守り切るようにして失点ゼロでやりたい」と修正を誓った。

(取材・文 竹内達也)
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