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抱え続けた悔しさを力に変えた「弱い世代」の東京制覇。國學院久我山は粘る実践学園を振り切って3年ぶりの全国切符!

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國學院久我山高が3年ぶり9度目の全国へ!

[11.12 高校選手権東京都予選Aブロック決勝 國學院久我山高 3-1 実践学園高 駒沢陸上競技場]

 もちろん羨ましくなかったはずがない。あと一歩届かなかった相手が、晴れ舞台で躍動している。あのシュートが入っていれば。あのゴールを防いでいれば。そして、あのゲームに勝っていれば。何度も、何度も、悔しい想いを突き付けられてきた。だからこそ、この試合だけは負けられなかった。今までのすべての悔しさをかき集めて、この勝利のために全員の気持ちを1つに束ねてきたのだから。

「オレたちの学年は弱い代だと思われていましたし、コロナもあって練習機会にも恵まれていなくて、そんな中でも自分も含めて悔しい想いばかりしてきたので、チームとして『そういう目を見返したい』という気持ちもありました。だから、みんなで頑張ってここまで来れたという感じですし、『やってやった』という感じです」(國學院久我山高・塩貝健人)。

 抱え続けてきた悔しさが引き寄せた意地の全国切符。12日、第101回全国高校サッカー選手権東京都予選Aブロック決勝、3年ぶりの王座を狙う國學院久我山高と、こちらは5年ぶりの戴冠を目指す実践学園高の激突は、一度は追い付かれた國學院久我山が、粘り強く実践学園を突き放して3-1で勝利。9度目の全国出場権を手に入れている。

「『最初から下がったらやられちゃうよ』と話していたんですけど、どうしても受け身で1つ1つ対応することが多かったですね」と実践学園の深町公一監督が話したように、序盤は國學院久我山が攻勢に打って出る。5分にはDF井料成輝(3年)を起点に、MF高橋作和(3年)のスルーパスからFW塩貝健人(3年)が浮かせたループシュートはGKを破るも、ここは懸命に戻った実践学園のキャプテンを務めるDF百瀬健(3年)が間一髪でクリア。6分にはMF山脇舞斗(2年)が、8分にはDF普久原陽平(2年)が相次いで放った決定的なシュートは、どちらも実践学園のGK宮崎幹広(2年)がファインセーブで回避するも、漂うゴールの香り。

 すると、やはりスコアを動かしたのは國學院久我山。13分。左サイドで獲得したCK。山脇が丁寧に蹴り込んだキックを、高い打点で叩いた普久原のヘディングは、右スミのゴールネットを確実に捉える。「山脇選手が良いボールをくれたので、上手く合わせられました」。1年時だった昨年の決勝にもスタメン出場していたCBの先制弾。國學院久我山がアドバンテージを握る。

 ビハインドを背負った実践学園は、なかなか攻撃の糸口を掴めない中で、千両役者がとんでもない一撃を見舞う。30分。FW瀧正也(3年)、MF小熊快(2年)と繋いだボールを左へ展開。MF松田昊輝(2年)のクロスがファーへ流れると、完璧なトラップでボールを収めた百瀬は右足一閃。完璧な軌道を描いたボールは、ゴール左スミヘ突き刺さる。「この3年間で百瀬のスーパーゴールがここで出るかという感じですよね。でも、彼がキャプテンとして頑張ってきたご褒美なんだろうなって」(深町監督)。チームを支えてきた10番のキャプテンが叩き込んだゴラッソ。國學院久我山が押し込んでいた前半は、1-1で40分間を終えた。

実践学園高は絶対的なキャプテン、DF百瀬健のゴラッソで同点に追い付く!


「去年も堀越にここで負けていて、絶対に簡単な試合じゃないことはわかっていて、それこそキャプテンで10番のムードメーカーにゴラッソを決められて、相手に流れが行くなということはわかっていたんですけど、みんな下を向いていましたし、前半は気持ちで負けていた感じがあったので、もう1回締め直しました」(塩貝)。

 後半も攻める國學院久我山、守る実践学園という構図は変わらないが、後者の粘り強い守備が際立つ。右からDF中嶋惇仁(3年)、DF鈴木嘉人(2年)、DF清水目航希(3年)で組んだ3バックを中心に、最後の局面では身体を投げ出すことも厭わず、ドイスボランチのMF品川稜空(3年)とMF古澤友麻(2年)もセカンドボールの回収に奔走。「ゴール前で身体を張って、ウチらしいサッカーをしたかなと」(深町監督)。気合でゴールに鍵を掛け続ける。

 8番はその瞬間を狙っていた。「あそこのスペースはチーム全体として狙っていこうという話はしていました」。23分。右サイドでFW八瀬尾太郎(3年)が時間を作って、中へ。受けた高橋が縦パスを打ちこみ、途中出場のMF保土原海翔(2年)が粘って残すと、すかさず走り込んだ高橋が右足で蹴ったボールは、左スミのゴールネットへ吸い込まれていく。

「ああいうゴール前でのところは久我山が一番得意としている部分ですし、常に落ち着いてプレーできるように日々練習しているので、それが上手くできたかなと思います。意外と落ち着いてシュートを流し込めました」。準決勝の帝京高戦に続いて、この試合でも勝ち越しゴールは高橋によって。2-1。再び國學院久我山が一歩前に出る。

 最後は“真打ち”が大トリを飾る。40+1分。セカンドボールを回収したところからのカウンター。右サイドを途中出場のFW金山尚生(3年)が駆け上がり、そのままシュート。宮崎も素晴らしい反応で弾き出したが、ここには10番がきっちり詰めていた。「外してばかりだったので、やっぱり『オレが決めるぞ』という感じでした」。この日7本目のシュートでようやくゴールを奪った塩貝は、チームメイトと“両手でのパス交換”を経て、センタースポットへ“トライ”も決めてみせる。

國學院久我山高の3点目を奪ったFW塩貝健人が“トライ”も決める


「ゴールも決められて、トライも決められて、最高でした」と笑ったエースのダメ押し弾で勝負あり。ファイナルスコアは3-1。「何しろ嬉しいです。この歳になってまた嬉しさが味わえるなんて、指導者冥利に尽きますよ」と李済華監督も笑顔で語った國學院久我山が奮戦した実践学園を振り切り、3年ぶりとなる東京制覇を達成する結果となった。

 國學院久我山の守護神を託されているGK石崎大登(3年)は、この日の勝利を誰よりも待ち侘びていた。「去年この舞台で自分が出て、良いプレーが出せずに負けてしまったので、今年はこの舞台に必ず戻ってきて、自分がゴールを守り抜いて勝つんだという気持ちでやってきました」。

 昨年度の選手権予選決勝。正GKだった3年生が受験のため、石崎がスタメンに指名されたが、前半だけで3失点を喫してしまう。後半からは試験を終えて駆け付けた“先輩”にバトンを引き継いだものの、チームは2-4で敗退。「自分のサッカー人生の中で一番忘れられない思い出で、それまでも何度も悔しい想いはしてきましたけど、あれ以上に悔しい試合はありません」とその時を振り返る石崎は、とにかく1年後のリベンジだけを願って、日常を積み重ねてきた。

 意気込んで迎えたファイナルの舞台。石崎は不思議とピッチがクリアに見えたという。「緊張はしていたんですけど、去年のあの試合があったから、もう失うものはなかったですし、『全部出し切るんだ』『この舞台を楽しんでやるんだ』という気持ちになったので、去年の経験はプラスに捉えられるようになってきていると思います」。

 タイムアップの瞬間。脳裏に浮かんだのは先輩たちのことだった。「昨日、去年のキャプテンの永澤(昂大)くんも『明日頑張れよ』という連絡をくれて、『絶対勝って全国を決めます』というメッセージを強い想いで送り返したんです。去年の決勝も3年生みんなの想いを背負って戦っていたのに、全国出場を決められなくて、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだったので、勝った瞬間に嬉しかったのはもちろんですけど、『やっとリベンジできたな』ってホッとしました」(石崎)。1年越しのリベンジを、“去年の3年生”たちも喜んでくれていることは間違いないだろう。

 李監督は全国での抱負を、笑顔でこう口にしている。「本人たちが優勝と言っているので、監督がベスト8なんて言ったら怒られちゃうでしょ(笑)。選手たちが優勝と言っているのなら、自分も優勝にしておきます」。キャプテンの塩貝も「日本一を獲りたいと思います」とはっきり言い切っている。

 掲げるスタイルは『美しく勝つ』。抱え続けてきた悔しさを、逞しさに変えた東京の技巧派集団、國學院久我山が頂点を目指す全国の舞台に帰ってくる。



(取材・文 土屋雅史)
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