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高校時代は3年連続で選手権全国4強以上を経験。成立学園・山本健二監督が40大会ぶりに帰還した国立競技場の景色

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40大会ぶりに「選手権の国立競技場」に帰ってきた成立学園高の山本健二監督

[12.28 選手権開幕戦 成立学園高 3-2 津工高 国立]

「国立は特別です。やっぱりいろいろな意味で子供を大人にしてくれる場所ですし、この大観衆の中でプレーをして、自分の責任感が生まれながらも、成長していくんじゃないかなって」。

 その人は40大会ぶりに『高校選手権の国立競技場』へと帰ってきた。成立学園高(東京B)を率いる山本健二監督だ。

 山梨県出身の山本監督は、34回の選手権出場を誇る名門・韮崎高出身。当時の同校は常に全国上位を窺う強豪で、選手権では58回大会(79年度)から62回大会(83年度)まで5年連続で全国ベスト4以上に進出し、国立のピッチで躍動している。

 山本監督は60回大会(80年度)で1年生ながらサイドバックのレギュラーを勝ち獲り、最後は決勝で武南高(埼玉)に敗れたが、準優勝に大きく貢献。2年時の61回大会(81年度)でも再び全国へ帰還すると、またも勝ち上がった決勝では清水東高(静岡)に屈したものの、2年続けて聖地でのプレーを経験する。

 最高学年になった62回大会では、駒沢陸上競技場で開催された準決勝で結果的に優勝する帝京高(東京)に苦杯を嘗め、ファイナル進出はならなかったが、3年続けて晴れ舞台で活躍した山本監督が、100年を超える選手権史に残る名サイドバックであったことは語り落とせない。

 高校卒業後は駒澤大に進学し、古河電工に入社。元日本代表監督の岡田武史氏や前田秀樹・東京国際大監督らとともにプレーしたのち、ジェフユナイテッド市原でJリーグにも通算29試合に出場。その後は指導者の道へ入り、日本女子代表のコーチも歴任しながら、成立学園へと辿り着いた。

 実は成立学園が初めて冬の全国へと出場した82回大会(03年度)で、チームを率いていたのも山本監督。今年は実に12年ぶりの監督復帰だったが、「以前とは子供たちの質がちょっと違って、どこもパワーやフィジカル的な感じはあるので、その中で彼らにどうやって戦わせるかは一番苦しんでいるところです。ただ、大津祐樹(磐田)とかマイケル(舞行龍ジェームズ・新潟)たちに比べたら少し力は落ちますけど、こっちがガーガー言うよりは、のびのびと彼らにやらせてあげたいなとは思っていて、そのために自分が監督になっているんじゃないかなと感じているので、成立らしさをもう1回これから作っていきたいですね」と春先に話していたのが印象深い。

 見事に東京制覇を果たし、17年ぶりの全国切符を掴んだ選手権予選決勝の試合後。胴上げに呼ばれた山本監督は、選手たちから最高の笑顔で頭を叩かれるなど、もみくちゃにされていた。

「あれは成立ではアリですね(笑)。監督も距離感を近くしてくれる監督なので、それも良い雰囲気になっていると思います」(MF陣田成琉)「あれは全然OKです(笑)。フレンドリーな監督なので、それもチームに良い影響を与えてくれていると思います」(DF佐藤由空)。とにかく選手たちからも親しまれている。

 実は開幕戦の試合前に、自身の経験を選手たちに話したという。「選手たちは緊張していましたね。自分が学生時代の国立の話もちょっとしたんですけど(笑)、ちょっと硬さはあったのかなと思います」。それに対して、中学時代から山本監督の指導を仰いできた佐藤が口にした言葉も面白い。「健さん(山本監督)が現役時代に2回ぐらい国立に出ている話をしたんです。なんか試合が始まる前に自慢してきたんですよ(笑)」。

「自慢してきた」というのもなかなかな表現ではあるが、今年はCBからFWにコンバートされ、シーズンを通じて最前線で奮闘してきながら、チーム事情でこの日は最終ラインでの起用となった佐藤は「健さんが自分を信頼して使ってくれているので、信頼されているからには自分の役割を果たすだけなのかなと思います」と言い切っている。つまりは、選手たちからも厚く信頼されているのだ。

 3点を先制しながら、2点を返され、終盤は押し込まれる展開の中で、何とか引き寄せた勝利に対し、「今回は開幕戦ということで国立でやれて、50パーセントぐらいの力は出せたのかなと思うんですけど、ミスがあれだけ多かったらこういう形で苦しむ試合になってしまうのかなと。そこを修正して次に繋げたいなと思っています」とやや厳しい表情を浮かべる。

 久々の国立競技場の感想を尋ねると、「内容的に3-0で終わりたかったなという想いはあるんですけど、感無量という言葉があるように、1勝できたことは本当に嬉しいですし、次に繋げたいなと思っています」と語りながらも、「でも、僕はジェフの時にも国立でやってますから(笑)」と付け加えるのもこの人らしい。

 次に国立で戦うためには、言うまでもなく準決勝まで勝ち上がる必要がある。だが、まず大事なのは目の前の試合。「今回は勝利しましたけど、負けたチームもあると。津工業も三重を勝ち残ってきたわけで、そこの負けてきたチームの想いを汲んで、選手たちにはまずはもう1試合、しっかりと責任を持って頑張ってほしいと思います」。

 年が明け、大会も佳境に差し掛かった頃、再び国立競技場のロッカールームで、山本監督の“自慢話”は飛び出すのか。成立学園に集った“健さん”と選手たちの高校選手権は、まだまだ終わらない。

(取材・文 土屋雅史)
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