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V候補と渡り合った近江「昌平の試合をめっちゃ見てきた」指揮官の涙と悔い

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昌平に惜敗した近江

[12.31 選手権2回戦 昌平高 3-1 近江高 NACK]

 初戦の相手は優勝候補の一角と目される技巧派集団・昌平高。前評判では相手優勢の構図が明らかだったが、2年ぶり2度目の全国舞台に挑んだ近江高は堂々と渡り合い、終盤まで目の離せない大激戦を演じてみせた。

「強化が始まってから7年目で、日本一を目指しましょうという立ち位置の高校ではない。ただ、強豪を一つ倒して、日本代表じゃないけど新しい景色を見たかった」(前田高孝監督)。惜しくもその目標にはあと一歩届かなかったが、入場制限ギリギリの大観衆が詰めかけたNACK5スタジアムでたしかなインパクトを残した。

「80分で昌平さんを倒すためには、前から行かないとダメという結論になった」

 かつて清水エスパルスや新潟シンガポールなどでプレーした経験を持つ指揮官が振り返ったとおり、この日の近江は立ち上がりから昌平相手にアグレッシブなプレスを仕掛け、拮抗した展開に持ち込んだ。布陣は5-4-1で組むも、ただ自陣に引くというわけではなく、相手のバックパスにも積極的なチェイシングを敢行。自由にボールを動かせない守備を展開し、サイドからのカウンターでは何度かチャンスもつくった。

 11月下旬に組み合わせが決まり、12月上旬にプリンスリーグ閉幕して以降、約3週間かけて準備してきた戦法。「昌平さんだから何かを変えるというのは特になく、守備の狙いとかマイボールのところを微調整しながらやってきた」と、攻守における基本システムは変えることなく、新チームで積み上げてきたスタイルを土台に戦った。そしてその結果、やや押し込まれる時間帯はありながらも、前半0-0でハーフタイムを迎えた。

 後半に入ってもそうした姿勢は変わらず、開始15分でセットプレーのこぼれ球からスーパーミドルを叩き込まれて失点を喫したものの、21分に交代起用のMF瀧谷陽斗(3年)がペナルティエリア内をドリブルで切り裂き、ゴール前に人数をかけた波状攻撃からウイングバックのMF鵜戸瑛士(2年)が決めて同点。単に0-0の時間を長くするというだけでなく、一度ビハインドになっても取り返せたのは、入念な準備と勇敢な姿勢の賜物だった。

 ところが後半34分、最後はアクシデントが明暗を分けた。ボランチのMF川島優人(3年)が負傷によってピッチを離れ、一時的に10人になっていた時間帯のこと。昌平の最終ラインを起点とする縦パスの連続で中央を破られ、昌平FW伊藤風河(3年)に強烈なシュートを叩き込まれた。試合後、指揮官は沈痛な表情でその場面を振り返った。

「ボランチの選手がいなくなったので、トップ下をギュッと下げて5-3-1みたいな形にしたけど、そこが締めきれずに入られてしまって、そこから一発ズドンで刺されてしまった。あれに関しては悔やまれる。交代した選手もロッカーで泣いていたし、トレーナーも泣いていたけど、もっと強く言っておけばよかった。もったいない。悔やまれる」

 その後はリスクをかけた攻撃で反撃を試みたが、技術に裏打ちされた昌平のボールキープに苦しみ、最後はカウンター攻撃を受けて3点目を献上。初出場で1回戦突破を果たした2020年度大会、当時1年生のFW福田師王の一発に沈んだ神村学園高戦に続き、またしても2回戦で強豪相手に涙をのむ形となった。

「ここで2年前にも神村にいい試合をしていたんですけど、やっぱり勝たないと……」。強豪撃破という目標が明確であっただけに、指揮官はユーモアを交えながらも悔しそうに思いの丈を語った。

「昌平さん、そして次に前育(前橋育英)さんが上がってくるなと思って、この2試合だけはめちゃくちゃ準備してきたんです。その次は順当に行ったら大津さんが上がってくるんでしょうけど、選手たちにもそこまでは知らん!と(笑)。でもこの2試合は本気で取りに行くぞと。ここの2つを倒したらめちゃくちゃインパクトがある。インパクトを与えに来たので……」

 さらに言葉は続いた。「選手たちは勇敢に戦ってたんですよ。すごく勇敢に頑張っていたし、そこは良かったんですけど、勝たせられなかったので私の責任です」。この新チームで選手たちと戦いを共にしながら、かつてのシーズンにはなかったほど涙腺を刺激されていたという指揮官。その熱量は3年生たちの頑張りに感化されたものだったという。

「今年のチームは技術的なところでは粗さがあったんですけど、すごくまとまって、いい雰囲気でサッカーに取り組んでましたね。とても前向きで。シーズンが始まってから、それをずっと毎日コツコツやってたんですよ。そうしたら夏以降グッと伸びてね。あらためて日常の1セッションのトレーニング、1日のトレーニングを一生懸命やればこうやって成長できるんだなと彼らに教えてもらいました」

 そんな思いから、試合後のロッカールームでは選手たちの健闘を称えた。

「正直、僕らこの2試合だったので昌平の試合をめっちゃ見てきたんですね。その中のどの試合よりもかなり追い詰めるところまで行けたんですよ。だから『お前らよくやったよ!』って話をして。そうしたら泣きそうになってね……」

 それでも最後は明るく終えたという。「そしたらGKのヤツが『もうちょっとこのメンバーでしたかった!』って言うんでね、『じゃあ明日、練習試合組んでやるよ!』って。『そうじゃないんすよ!』って言われたんですけど、前育まで勝つ予定やったからグランドは取ってあるんで(笑)」(前田監督)

 唯一の得点を決めた鵜戸をはじめ、この日の先発には2年生が4人。ベンチも7人を下級生が占めており、強豪撃破への挑戦は次の世代に受け継がれる。前田監督は「うまくいかないもんです。ちょっとずつ次のステージ、次の景色を見たかったんですけど、甘くない。滋賀に帰って鍛えて、また帰ってきたい」とリベンジを誓った。

(取材・文 竹内達也)
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