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「本当に点、獲りたいんです」。コンバートから1年あまりの元FW。大津DF田辺幸久は“超攻撃型左SB”としてゴールを求め続ける

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大津高の超攻撃型左サイドバック、DF田辺幸久

[1.2 選手権3回戦 日本文理高 0-3 大津高 駒場]

 どうしてもほんの1年前までフォワードだった血が騒ぐ。求めるのは得点の快感。積極的に左サイドを駆け上がり、とにかくゴールを最優先に考える。この日も1アシストを記録したものの、その結果は自身にしてみれば本意ではない。

「もう本当に『ゴールを決めたい』という想いしかなくて、シュートを打ったらたまたまあそこに行ったというだけです。自分で決めたかったですね」。

 前年度ファイナリストの大津高(熊本)に現れた、中体連出身の超攻撃型左サイドバック。DF田辺幸久(2年=菊陽町立菊陽中出身)のアグレッシブさは、サイドアタックに強みを持つこのチームにとって必要不可欠だ。

 実はギリギリのタイミングで戦線に復帰してきた。「左の足首をケガしたんですけど、1回治って、また同じところを痛めてしまって、全然練習できなかったんです。もう東京に入ってきてから練習を始めたので、『これはヤバい』と思って、本当に焦っていました」。練習再開からはまだ1週間も経っていないという。

 ぶっつけ本番に近い形で臨んだ、大津にとっては初戦に当たる2回戦の浜松開誠館高(静岡)戦は、「まだ体力が戻っていなくて、本当にひどくて、何もできなかったので悔しかったです」と本人も振り返るパフォーマンスに。試合はPK戦で競り勝ったものの、田辺にとってはほろ苦い選手権デビューとなった。

 山城朋大監督はこの日の3回戦に向けて、田辺と交わしたやり取りをこう明かす。「実戦を離れていたので、初戦はかなり緊張していましたし、相手のシステム上で自分の前に人がいないという状況で、ちょっと苦労していたので、『こうすればもっとお前の良さを出せるよ』ということは伝えました」。

 初戦で味わった苦労は、良い意味で田辺を解放した。「自分の良いところを試合を振り返って見て、探して、ポジション取りを改めて考えてやったら、今日は結構良いプレーができましたね」。4-4-2でマッチアップする日本文理高(新潟)とのシステムの噛み合わせも相まって、前半から積極的なオーバーラップを幾度となく繰り返す。

 1点をリードして折り返した後半は、その攻撃参加にも一層拍車が掛かると、22分には右SB坂本翼(3年)のクロスから、MF田原瑠衣(3年)のシュートがDFに当たったこぼれ球が、田辺の目の前にこぼれてくる。左足一閃。低い弾道で打ち込んだシュートは、FW小林俊瑛(3年)がわずかにコースを変えたことで、ゴールネットへ到達する。

 すぐさまスコアラーのキャプテンの元には駆け寄ったものの、願わくば自らがゴールへねじ込みたかったという想いは拭えない。切実そうに『本当に点、獲りたいんです』と口にするあたりも、面白いし、頼もしい。両チーム通じて小林と並んで最多タイとなる4本のシュートを放ち、得点こそ奪えなかったものの、「今日は凄くアグレッシブにやってくれたと思います」と指揮官も認める出来で、田辺は勝利の一端をきっちりと担ってみせた。

 今シーズンのプレミアリーグでは、全22試合中20試合にスタメン出場。左サイドからの攻撃参加は、チームの武器の1つとして世代最高峰の舞台でも一定以上の威力を発揮していた。

 ただ、守備面の課題は本人もしっかりと自覚している。「前期は自分のサイドで結構失点してしまっていて、それは監督からも言われていたので、『攻撃参加より守備を改善しないといけない』と思って、守備でまず貢献しようと思ってやってきました。後期から失点も減って、うまく自分が改善できてきているのかなとは感じましたけど、とりあえず守備は『負けたくない』という気持ちだけでやっています。“間合い”とかよくわからないので(笑)」。

 本格的にサイドバックを始めたのは、昨年の冬から。菊陽中時代からフォワードとして鳴らしたが、大津に入学してからは「全然通用していなかったです」という状況を受けて、山城監督の慧眼で新たなポジションへコンバートされると、本来持っている攻撃姿勢が良い形で開花。不動のレギュラーとして、1年間を過ごしてきた。

 山城監督はこの日の試合後、「本人は神村学園の(吉永)夢希とか、飯塚の藤井(葉大)くんとか、ああいった代表選手のところに割って入っていきたいという想いも強いので、『そこでやりたいなら、もっとやらなきゃいけないぞ』と発破を掛けているんです」と期待を込めた言葉を口にしている。

 そのことを伝えると、「あの2人は代表に入っていますし、自分は入っていないので、僕より上の存在だとは思いますけど、自分はプレミアでやってきていて、あの2人はプレミアでやっていないですし、この1年間で積み上げてきた経験は自分の方が上だと思っています」ときっぱり。プレミアでの日常は、確実に田辺の見据える目線を上げてきた。

 次の準々決勝で対峙するのは、インターハイ王者の前橋育英高(群馬)。昨年度の選手権でのリベンジを期すチームであり、バチバチのやり合いになることは約束されているような好カードだ。

「相手は夏の王者になっていますけど、自分たちはビビらず、チャレンジャーとして戦いたいですし、守備でも自分と翼さんの両サイドバックが相手に何もさせなかったら負けないので、しっかり守備でも貢献できるようにしたいですし、その中で攻撃でも良さを出したいです。今日も最初の攻撃参加で、シュートを打ったけど決められなくて、ああいうのを決め切るのが代表になる人だと思うので、その決定力のところですね。本当に点、獲りたいので」。

 スケール感漂うレフティの左サイドバック。常にゴールを目指す田辺のアグレッシブさは、相手がどこであっても、タイムアップのその瞬間まで必ず貫かれるはずだ。

(取材・文 土屋雅史)
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