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「来年になったらお前だぞ」福田師王が“次期エース”FW西丸道人に求め、受け継いできたもの

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FW西丸道人(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.7 全国高校選手権準決勝 神村学園高 3-3(PK1-4)岡山学芸館高 国立]

 神村学園高にとって史上初の決勝進出をかけた運命のPK戦、今大会でブレイクを果たしたFW西丸道人(2年=神村学園中)のキックは無情にも右ポストに弾かれた。

 3回戦の日大藤沢高戦でもPKを成功させており、決める自信は大いにあった。しかし、国立競技場がもたらす重圧か、相手GKの動きに右足の感覚がわずかに狂わされた。「PKは得意だけど、日藤戦で蹴っていたので相手も対策をしてきて、対策された瞬間に蹴るコースがズレた」。後悔が残ったのはキックの精度ではなく精神的な自信。「最後に自分を信じてあげられなかったので、メンタルの未熟さがあった」と悔やむしかなかった。

 2年生ながらトップ下の主力に座った今大会。西丸は初戦・山梨学院戦で勝利に導く決勝ヘッドを決めると、前回王者・青森山田に挑んだ準々決勝でも同点ゴールを含む2得点に絡み、逆転勝利に大きく貢献した。最後の準決勝では悔しい結末に終わったが、今大会でのブレイクを経て、日本一へ再挑戦となる来季はさらに中心選手としての活躍が期待される。

 そんな西丸は「自分しかいないなと感じていたので、今さら俺がやんなきゃというのはあまりない」と強気に宣言。ビッグマウスにも思えるような決意だが、それほど強い意気込みの裏には、これまで絶対的なエースを担ってきたFW福田師王(3年)にシーズン中から伝えられてきたメッセージがあったという。

「試合中から常に師王さんから『FWである俺が勝たせるしかないし、それは来年になったらお前だぞ』と言われていたので、それから彼とプレーしている時も、なるべく自分でやるという自覚を持つようにしていました」

 福田が西丸に伝えていたのは「エースの俺に任せろ」という要求ではなく、「来年のエースはお前だぞ」という自覚。自身が卒業した後のチームのことも見据え、自身の活躍の機会が限定されるとしても、後輩たちの成長を促そうとしていたのだ。

 思えば準々決勝の青森山田戦、西丸は福田のフリーランを囮にゴールを決め、「自分が師王さんにパスを出すのは簡単。でも、それだと来年の自分の成長につながらない。スーパースターをおとりに使ったり、スーパースターができないようなプレーも目標にしている。遠慮は考えていない」と言い切っていた。そのようなメンタリティーは、福田から要求されていたものだったようだ。

 そうした先輩からの財産は福田からだけでなく、MF大迫塁(3年)やMF笠置潤(3年)らさまざまな選手から受け継がれている。「やっている人しかわからないけど、塁さん、師王さん、2人だけじゃなくて、彼らがいると安心感が変わる」。西丸が目指すのは、先輩のような「目に見えなくても感じるものを後輩に与えられるプレーヤー」。勝利に導くゴールやアシストだけでなく、チーム全体に安心感を与えられる存在になるつもりだ。

「大人だなと感じるし、やっぱり余裕がある選手だからこそ結果を残してきたと思う。そういう意味でまだまだ自分たちは物足りない」

 新シーズンは偉大な先輩に報いることのできるような1年に。「彼らが残してくれたものはすごく大きいし、目に見えない、自分たちにしかわからないものをたくさん残してくれた。彼らの思いをしっかり受け継いで、卒業した3年生がまた違う形で幸せになれるように自分たちが与えていかないといけない」。

 決意を語った西丸は「3年生とここに必ず帰ってくると約束したので、自分が来年またこのステージに帰ってきて、次は点を決めて、必ず決勝に行って、優勝できるように頑張りたい」と日本一の目標を明言し、国立競技場を後にした。

(取材・文 竹内達也)
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