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富山一高は「縦軸」再認識で不祥事を考える…選手権予選9連覇へあと1勝、結果で信頼取り戻す:富山

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富山一高が県9連覇へ王手

[11.3 選手権富山県予選準決勝 富山一8-0富山中部 高岡スポーツコア]

 9連覇へ視界良好!第102回全国高校サッカー選手権富山県予選準決勝で、富山一高が富山中部高に8-0で大勝した。11月11日に富山県総合運動公園で行う決勝は、富山北部高との対戦になる。

 県内では負けられない、それも圧倒しなければならないとばかりに、トミイチは今年も難なく決勝へと勝ち上がった。主将MF多賀滉人(3年)は、「ゲームプラン通りではなかった。相手が5バックで来たので、武器のウイング2人が消される形になった」と序盤は苦しんだと振り返ったが、それでも前半から着実に得点を重ねた。

 先制は前半11分、FW川原瑠偉(3年)の折り返しからゴール前で混戦が生まれると、FW稲垣禅太郎(3年)が体ごと押し込んでスコアを動かす。その後もサイドの攻撃がケアされた分、ボランチの多賀とMF入江英虎(3年)の2枚が効果的な飛び出しをみせてリズムを作ると、前半終了間際には右CKからまたも生まれた混戦を、今度はFW加藤隼也(3年)が押し込んでリードを2点に広げた。

 そして後半はもう止まらなかった。2分に川原の左クロスを稲垣が落としたところに、走り込んだ入江が右足で蹴り込んで加点すると、11分には稲垣が蹴った右CKにニアに入った加藤が頭で合わせる。同18分にはDF大居優汰(3年)の左クロスから稲垣が頭で合わせて、大勢を決めた。

 さらに前線の選手がごっそりと入れ替わった後半20分以降も攻撃の手を緩めない富山一は、同24分にFW谷柊杜(3年)の右クロスをFW谷保健太(3年)が合わせて加点。同アディショナルタイム2には多賀のスルーパスから抜け出したDF大村笙太(2年)が決めると、2分後には谷保のアシストから谷が決めて8点目。交代選手も機能して、大勝劇に持ち込んだ。

 プリンスリーグ北信越の戦いでもリーグ2位の被失点数と自慢の堅守は健在だが、今年も得点力に課題を持っていた。ただインターハイの直後に福島県で行われたフェスティバルに参加。少数精鋭でハードな日程をこなすことで強化を試みると、尚志高や鹿島学園高ら強豪校と試合を重ねて、世代のトップレベルを体感した。その結果、先日のプリンスリーグでは首位を独走する帝京長岡高(新潟)に勝利するなど、いい流れを作って選手権予選を迎えていた。

 今年初旬、富山一は不祥事により一時活動休止を強いられた。部員のSNS投稿が問題となったもので、名門サッカー部の失態は、社会的な批判を増幅させた。騒動後の今年4月から就任した加納靖典監督は、生徒たちに現部員だけの「横軸」ではなく、OBを含めた「縦軸」の中にいることを再認識させることで、全員でトラブルを解決する方向に持っていったという。元日本代表でOBの柳沢敦氏らが部員を前に話をする機会も作られた。

 秋からは該当の部員も先発メンバーに復帰。当初は部内からも復帰を反対する声があったというが、監督も一緒になって“どぶ掃除”などを行うなど、部内、そして学校内での信頼を少しずつ取り戻していったという。

「必要以上に社会的制裁が高校生に降りかかった。自業自得だけど、そこにはほかの部員もいたはず。そういうのはみんなで背負わないといけないし、叩かれている子たちを支えてあげるとか、あとは許してあげること。今、難しいじゃないですか。1回の失敗を叩いて辞めさせる。学校ってそうじゃないと思うんです。そういう子たちを温かい目で見てあげるもの大事なんじゃないかって。復帰を反対する気持ちも分かるんだけど、許してあげる気持ちが世の中すごく大事になってくるんじゃないかと思っています」

 10年前の第92回大会で富山県勢として初の日本一に輝いた富山一だが、昨年、一昨年と連続して初戦敗退。今年のインターハイでも2回戦敗退となるなど、近年は全国大会で結果を残せずにいる。「トミイチに来たら選手権を勝てると思っていた」と話す多賀も、「甘くなかった」と現実を受け止める。ただ昨年度大会をスタメンで経験した4人が残る今年のチームに自信を持っているのも確か。もちろん、まずは11月11日に行う決勝を突破する必要はあるが、そこは必ず通過点にしないといけない。そして失った信頼を結果で取り戻す。

(取材・文 児玉幸洋)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
児玉幸洋
Text by 児玉幸洋

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