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積み重ねてきた「できること」の結晶で手繰り寄せたファイナル切符!早稲田実は国士舘に競り勝って初の全国まであと1勝!:東京A

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早稲田実高は激闘をウノゼロ勝利で制して東京ファイナルへ!

[11.4 選手権東京都予選Aブロック準決勝 早稲田実高 1-0 国士舘高 味の素フィールド西が丘]

 この西が丘は今年のチームの力だけで勝ち獲ったものではない。それこそ去年や一昨年の先輩たちも、脈々と歴史を受け継いできたOBも、すべての力を結集して辿り着いた晴れ舞台だ。でも、そこに立つのは自分たち。だったら、こんな素晴らしいピッチを楽しまない手はないだろう。

「『自分たちにできることをちゃんと積み重ねていこう』ということでやってきて、そこに選手たちはかなり応えてくれていますし、上手くいかない試合もありましたけど、彼らは修正能力や学習能力が非常に高いので、そこでどんどん修正していったんです。こっちが何かを作ったというより、選手たちが自分たちでまとまっていくことができたから強くなっていったのだと思います」(早稲田実高・森泉武信監督)。

 積み重ねてきた『できること』の結晶で堂々のウノゼロ勝利!第102回全国高校サッカー選手権東京都予選Aブロック準決勝、12年ぶりの決勝進出に意気込む早稲田実高と、2年連続のファイナルを目指す国士舘高が激突した一戦は、後半25分にFW竹内太志(1年)が決勝ボレーを叩き込んだ早稲田実が1-0で勝ち切って、初めての東京制覇まであと1勝に迫っている。

 最初の40分間は、比較的静かに過ぎ去った。「前半はシュートも打てていないですし、かといってたくさん打たれたわけではないので、そこも予想通りかなと。もっと相手が押し込んでくるかなと思っていたんですけど、そこまで来なかったですね」と森泉武信監督も話した早稲田実は、最終ラインに右からDF荒木陸(3年)、DF根本渚生(3年)、DF若杉泰希(3年)、DF中嶋崇人(3年)、DFスミス聡太郎(2年)の5枚を並べ、その前には中盤アンカーのMF岩間一希(3年)を置きつつ、機を見て前線のFW久米遥太(3年)にボールを入れて、そこにインサイドハーフのMF西山礼央(3年)とMF戸祭博登(3年)、竹内が前向きに関わる狙いは打ち出すものの、なかなかフィニッシュには繋がらない。

 一方の国士舘はビルドアップと対角のフィードを織り交ぜながら、勝負のポイントは右にMF原田悠史(3年)、左にMF大関流生(2年)を配したサイドハーフの推進力。そこにFW加藤翠生(3年)とFWワフダーン康音(3年)が関わる意識は窺わせるも、「早実さんは凄く守備が堅いチームということで、いろいろな準備はしていたんですけど、要所要所で本当に粘り強くやってきましたね」と上野晃慈監督も語ったように、こちらも決定的なシーンは作り切れず。前半はスコアレスでハーフタイムへ折り返す。

 後半は一転して、双方が好機を作り合う。12分は国士舘。DF前田晴飛(3年)の右FKをファーでワフダーンが折り返し、最後は原田がゴールへ押し込むも、ここはオフサイドという判定。15分は早稲田実。戸祭が右へ振り分け、久米が鋭い突破からピンポイントクロス。飛び込んだスミスのヘディングは枠を襲うも、ここは国士舘のキャプテンを任されているGK大阪竜也(3年)がビッグセーブ。先制には至らない。

 早稲田実は24分にも決定的なチャンス。右サイドで久米が時間を作り、外を上がった荒木のクロスはファーに流れるも、拾った戸祭が中央へ。このこぼれを久米が打ち切った枠内シュートは、しかし大阪がファインセーブで仁王立ち。ここも得点は奪えなかったが、森泉監督は「ゴールは欲しかったですけど、『見事にチャンスを作ったな』という気持ちの方が強くて、そこではむしろ悔しいというより、『同じようなチャンスが来るな』とは思っていました。相手もああいうことがあるとちょっと下がってくれるかなというところもあったので、そういう意味では相手に“牽制球”を投げられたような形かなとは思っていました」と2つの決定機逸を振り返る。

 “牽制球”の効果はその1分後に。25分。中盤のルーズボールを西山が縦に送り、久米が仕掛けたこぼれを拾った西山は、右に流れながら「中の竹内は練習から合わせるのが上手いので、そこを信じて放り込みました」という柔らかいクロス。ファーで待っていた竹内のノートラップボレーが、右スミのゴールネットへ弾み込む。「クロスから来た球をワンタッチで打つのは自分の中でも得意なプレーだと思っています」と胸を張る1年生アタッカーが値千金の先制弾。西が丘にとどろく『紺碧の空』。早稲田実が1点のリードを奪う。



 追い込まれた国士舘も、このままでは終われない。35分。右からDF権藤士貴(3年)が投げ入れたロングスローから、MF込宮空輝(2年)の右クロスにMF秋山基一(2年)が合わせたヘディングは早稲田実のGK高村裕(3年)ががっちりキャッチ。39分。右サイドからワフダーンがクロスを上げ切り、MF勝村亜飛(3年)が打ったシュートはDFに当たって、ふわりとゴールへ向かうも、高村が懸命に飛び付いてファインセーブ。「僕らは1人で行っても止められないところもあるので、とにかく声で繋がって、さらにカバーの部分で周りと繋がる、他人と関わることは結構徹底してやっています」とは若杉。ゴールに鍵を掛け続ける。

 40+2分は国士舘のラストチャンス。大阪のキックに前線へ上がっていたDF伊川侃太郎(2年)が競り勝ち、込宮が強引に持ち込んだシュートは、よけなかった中嶋が身体に当てて、高村が丁寧にキャッチすると、アディショナルタイムも6分を過ぎて、ようやく聞こえたタイプアップのホイッスル。「かなり押し込まれる展開だったと思うんですけど、粘り強く戦っていれば跳ね返せる自信はあったので、みんなで声を掛け合って、繋がりを増やして、耐え抜きました」(西山)。早稲田実が鮮やかなウノゼロ勝利で、初の全国大会出場に王手を懸ける結果となった。


「これしかないかなと。狙い通り、ゲームプラン通りと言えば、ゲームプラン通りですね」と終わったばかりの試合を振り返った早稲田実の森泉監督は、続けて興味深いことを口にする。「これは本当にリーグ戦のおかげというか、やはりこういう守勢のゲームが多くて、『それは弱いとか、負けるということに繋がるのではないよ』ということで1年間やってきました」。

 キャプテンの西山も「向こうにもチャンスがあったと思うんですけど、自分たちがしっかり相手の攻撃を耐えて、粘り強く戦っていれば、絶対に自分たちにもチャンスが来るというのは、チームメイトとも監督とも話していたので、実際にそういう試合展開になって、自分たちが決めるところを決めて、粘って、粘って、ということで、全体的に自分たちがやりたいことができた試合かなと思います」と言い切っている。

 守勢に回るゲームに対して抱きがちな『弱い』や『負ける』というネガティブなイメージを切り離し、そこから繰り出す限られたアタックで決め切る展開を、『自分たちがやりたいこと』としてポジティブに受け入れる。その結果として次々に難敵をなぎ倒し、12年ぶりの決勝まで勝ち上がってきたのだから、彼らの携えてきたマインドの正しさは、彼ら自身が証明してきているというわけだ。

 決勝の相手は國學院久我山高。12年前の決勝でも延長戦で苦杯をなめた因縁の相手でもあり、その実力を考えれば“ラスボス”としては最強のチームだろう。ただ、彼らにも『できること』を丁寧に積み上げてきた自負がある。

「あくまでも僕らは『目標は全国』と言ってきたので、特別なことはせずに、早実らしく、愚直に泥臭く戦って、相手より走って、絶対に勝ちたいなと思います。僕は無失点に貢献することが毎試合の自分の仕事かなと思っているので、無失点にこだわってやっていきたいです」(若杉)」「久我山とは去年3回やっていて、全部負けているので、本当に舞台は整ったかなという感じで、あくまでも自分たちのやることはハッキリしているので、それに向けて着々と準備していきたいと思います。早実サッカー部の方たちが代々歴史を作ってきてくれて、愚直に、堅実に戦うというその姿勢を持って、OBの方たちにも恥じないようにプレーしなくてはいけないですし、その人たちの想いも背負って、あと1試合も絶対に勝って、全国に行きたいと思います」(西山)

 晴れ舞台でも自分たちらしく、愚直に、泥臭く。それが決勝であっても、満員の西が丘であっても、真剣に全国を目指してきた早稲田実のやることは、これまでと何ひとつ変わることはない。



(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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