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[MOM4511]堀越MF仲谷俊(2年)_10か月近い戦線離脱から帰ってきた司令塔が「いつも通り」の無回転FKで感謝のゴラッソ!

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堀越高MF仲谷俊(2年=ジェフユナイテッド千葉U-15出身)は衝撃の無回転FKで先制弾!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.5 選手権東京都予選Bブロック準決勝 堀越高 2-1 日大三高 味の素フィールド西が丘]

 自信はあった。小さい頃から数え切れないぐらい蹴り込んできた得意のキック。ボールをセットし、1つ深呼吸。「いつも通り。いつも通り」。気持ちを落ち着けて、いつも通りの助走から、いつも通りの角度で、あとはいつも通りに右足を振り抜くだけだ。

「自分は小さい頃から無回転を蹴れていて、去年も蹴っていた中で、あまりゴールに結び付かないようなFKが多かったんですけど、今年に入ってからもずっと練習してきたので、練習通りに蹴ることのできたFKが入って良かったです」。

 14番を背負った、2年ぶりの全国出場を狙う堀越高のコントロールタワー。MF仲谷俊(2年=ジェフユナイテッド千葉U-15出身)が繰り出した完璧な無回転FKが、西が丘のスタンドに特大の衝撃を連れてきた。

 日大三と激突したセミファイナル。この日も1.5列目の位置でスタメンに指名された仲谷は、ようやくやってきた晴れ舞台の高揚感に包まれながら、綺麗な緑の芝生へと歩みを進めていく。

 いきなりの見せ場は前半7分に訪れる。ペナルティエリアの少し外で自ら獲得したFK。ゴールまでの距離は約25メートル。左利きのキッカーにとっては絶好の位置と言えそうなピッチ右寄りの場所ではあったが、右利きの仲谷はもうとっくに覚悟を決めていた。

 短い助走から右足で押し出すように蹴ったキック。ボールは相手のカベの前に立てヒザを突いていた2人のチームメイトの頭上を通過すると、そのまま左スミのゴールネットへとパーフェクトな軌道を描いて突き刺さる。スタジアムもどよめくスペシャルなゴラッソ。仲谷は一直線にバックスタンドの応援団の元へと駆け出し、みんなと歓喜を共有したが、あるいはこんな瞬間を迎えることは、半年前であれば想像できなかったかもしれない。

 堀越の門を叩いた昨シーズン。仲谷は1年生ながらすぐにレギュラーポジションを確保すると、インターハイ予選で國學院久我山高と激闘を繰り広げた一戦でも、プレースキッカーを務めながら中盤で奮戦。試合には敗れたものの、その堂々としたプレーが印象に残っている。

 10月に開催された国体にも東京都選抜として参加するなど、確実に存在感を高めていった矢先に、仲谷の名前は堀越のメンバーリストから消える。その理由は右足甲の疲労骨折。手術が必要な重傷だった。

 続くのはリハビリの日々。「やっぱりサッカーがなくなってしまうと、自分の生活もどこかで『サッカーがないからいいや』となってしまうんですよね」。なかなか先の見えない状況に焦りがなかったはずがない。

 ただ、少しずつ今の自分に与えられた時間の使い方を、より深く考えるようになる。「ずっとチームの試合を外から見ていたんですけど、『自分がここに入ったら何ができるのか?』ということを考えながら、自分は『左足をもうちょっと使えたらいいかな』と思っていたので、リハビリ期間は左足を磨くことを考えていました」。

 ようやく復帰のめどが立つと、チームを率いる佐藤実監督はまだ復帰する前の段階で、仲谷をトップチーム(A1)へと引き上げる。「まだ復帰していない時からすぐに監督にA1に上げてもらっていたので、その期待に応えられないとダメなんです」。

 監督の期待を、チームメイトの期待をひしひしと感じながら、この選手権が始まる少し前に戦線復帰。この日の西が丘での一戦が、試合に出ることが叶わなかった時期に自分を支えてきてくれた人へ感謝を示す格好のステージだということは、十分すぎるほどわかっていた。その大一番で完璧なゴラッソを披露するのだから、やはり“持っている”選手なのだろう。



 佐藤監督は「ずっとケガをしていて、まだコンディション的にも全然戻っている感じではないですね。ただ、キックとかポテンシャル自体は持っていますし、基本的に元気が良いので、ああいう元気もチームにとっては大事かなと。みんなが弱気になっていても、『大丈夫だよ。行けるよ』と全然根拠も何もないのに言っちゃうと(笑)。でも、高校生なのでそれぐらいでいいかなと思っています」と仲谷について言及している。

 もちろん本人も、自分のパフォーマンスに納得が行ってないのは明らかだ。「最後まで結構頑張って走っていたんですけど、自分もセカンドボールの回収が遅くなってしまって、大きく跳ね返せなかったことが、相手ペースになってしまった原因かなと思います」。得点を決めたからといって、それに満足するような様子は微塵もない。

 ボールを蹴ることのできる喜びは、間違いなく以前より増している。「正確に言うと10か月ぐらいはサッカーから離れていて、こんなにサッカーから離れたことは今までの人生の中でもなかったです。だから、今はメチャメチャ楽しいですね」。

 1週間後の決勝。あるいはこの日以上に注目の集まるステージになることが予想されるが、もうそこで躍動するイメージはできている。「今日は反省する部分が多いと思うんですけど、悪かったところを反省して、次の試合の土曜日までにそこを直せるように頑張っていきたいと思います。決勝でもゴール、決めたいですね」。

 ようやくサッカーのできる日常に帰ってきた、堀越が誇る背番号14。再び足を踏み入れる来週の西が丘のピッチで、憧れの全国切符を掴み取るため、仲谷は“いつも通り”しなやかに、その右足を振るい続ける。



(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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