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[MOM4501]早稲田実MF竹内太志(1年)_1年生アタッカーが“ノートラップランニングボレー”で先輩たちへの感謝を込めた値千金の決勝弾!

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早稲田実高FW竹内太志(1年=三菱養和SC調布ジュニアユース出身)は値千金の決勝点を奪う!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.4 選手権東京都予選Aブロック準決勝 早稲田実高 1-0 国士舘高 味の素フィールド西が丘]

 チャンスがそう何度も巡ってこないであろうことは、もちろん理解していた。おそらくは1回あるか、ないか。その瞬間のために神経を研ぎ澄まし、その瞬間を逃すまいと準備していた1年生アタッカーの元へ、最高のボールが送られてくる。

「クロスからのシュートは練習からもやっていたので、練習通りでした。クロスから来た球をワンタッチで打つのは自分の中でも得意なプレーだと思っているので、今日はその得意なプレーが出せて良かったと思います」。

 12年ぶりに西が丘の舞台まで勝ち上がってきた早稲田実高で、スタメンを任されている期待のルーキー。FW竹内太志(1年=三菱養和SC調布ジュニアユース出身)がノートラップランニングボレーで沈めた値千金のゴラッソが、チームを東京ファイナルへと鮮やかに導いた。

「大学の早慶戦で1度ここに見に来ていて、『いつかここでプレーしたい』とは思っていましたし、ここでのプレーは夢だったというか、楽しみにしていたので、嬉しかったです」。率直な感想が初々しい。国士舘高と対峙する選手権予選準決勝という大一番。“スタンド”は経験済みだった西が丘のピッチに、この日の竹内は先発メンバーとして足を踏み入れる。

「前半は押されることはわかっていたので、後半の最初の方で自分たちが決めるということを意識していましたし、自分は前線からの守備を意識してやっているのと、あとはゴールを決めることを目標としてやっていました」。前線からプレスを掛け続け、得点の香りを嗅ぎ分ける。やるべきことは明確だった。

 0-0で迎えた後半25分に、“その瞬間”はやってくる。2トップの相方、FW久米遥太(3年)が仕掛けたこぼれ球を、いち早く拾ったキャプテンのMF西山礼央(3年)が右サイドへ持ち出すと、「中の竹内は練習から合わせるのが上手いので、そこを信じて放り込みました」という丁寧なクロスが届けられる。

「西山くんがドリブルで抜け出した時に、ファーのスペースが空いていたので、そこに行ったら出してくれることを信じて走ったら、ボールが自分の思っていたところに来たので、あとは打つだけでした」。落下地点に走り込み、右足のダイレクトボレーで巧みに合わせたボールは、右スミのゴールネットへ吸い込まれていく。

 竹内の今大会3点目となるゴールは、貴重な先制弾。そのままアップエリアへと一目散に駆け寄っていった小柄な体が、あっという間にチームメイトたちの輪の中へ飲み込まれていく。「ボールを捉える力がある子なので、良く決めてくれたと思います」と話したのは森泉武信監督。1-0。均衡は1年生によって破られた。



 1点を追い掛ける国士舘に攻め立てられた終盤。もうその足は思うように動かない。「もう足が攣っていたんですけど、森泉先生からも時間を止めないためにも『立て!』みたいなことは言われていたので、頑張って最後までやり切れたと思います。ゴールシーンのところはまだ大丈夫だったんですけど、75分ぐらいに1回転んだら攣っちゃって、そこから頑張りました」。1点を守るべく、竹内は懸命にピッチを駆け回る。

「最後は国士舘も必死に攻めてきたので、アディショナルタイムの4分は凄く長かったんですけど、チームとしてしっかり守り切れたので良かったと思います」。タイムアップの笛を聞くと同時に、ピッチへ倒れ込む。キャプテンの西山が歩み寄り、攣った右足を伸ばしてもらいながら労いの言葉を掛けられると、途中出場のMF野川一聡(1年)の肩を借りながら整列へ向かう。80分以上戦い続けた体にもう力は残っていなかったが、その右足には確かな感触が残っていた。



 中学時代は三菱養和SC調布ジュニアユースに在籍。「サッカーは続けたいと思っていた中で、文武両道ができる学校に行きたいと思っていて、勉強を頑張って一般受験で入りました」と早稲田実の門を叩くと、インターハイ後の6月からAチームでの出場機会を得て、そのままスタメンに定着する。

「中学の時から身体は大きくなかったんですけど、最近は筋トレもしていて、身体を張るという部分はできるようになってきたかなと思います。あとはスタミナも付いてきたので、それが前線からの守備に繋がってきたのかなと思っています」。少しずつ実戦経験を積み重ね、少しずつ成長を遂げてきた1年生を、先輩たちもハッキリと認め始めている。

 だからこそ、その信頼に応えたかった。「周りにも上手い選手がいる中で、1年生の自分が出させてもらっているということには、責任も感じています。でも、今日は点を獲ってチームを勝たせることによって、そういう責任を果たせたというか、感謝の気持ちを伝えられたと思うので、そこは良かったですね」。この日のゴールが、先輩たちへ向けた最高の感謝のメッセージになったことは言うまでもない。

 早稲田実にとって初めての全国出場に必要なのは、あと1つの白星だけ。竹内は大事な決戦へと想いを馳せる。「決勝は相手が(國學院)久我山ということもあって、ボールを持たれる時間が長いと思うんですけど、その中でも集中力を崩さないで、チームとしても守備から入って、今日みたいにしっかり点を獲って、勝って、全国に行きたいと思います」。

 クールな佇まいに、何かをしでかしそうな雰囲気が宿る。1週間後の西が丘。決勝という大舞台でも、早稲田実の新たな歴史を切り拓くゴールを、竹内は虎視眈々と狙っているに違いない。



(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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