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粘る大成を振り切って10年ぶりの全国へ王手!修徳が紡ぐ「家族の日常」のストーリーはまだまだ終わらない!:東京B

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修徳高は1点差で競り勝って10年ぶりの全国へ王手!

[11.5 選手権東京都予選Bブロック準決勝 修徳高 2-1 大成高 味の素フィールド西が丘]

 その真価は逆境でこそ発揮される。みんなで築き上げてきた自信は、そう簡単に揺らぐ類のものではない。1点差でリードしながら、攻め込まれる時間の続いた終盤が、キャプテンはこの試合で一番楽しかったという。

「ちょっと相手に乗ってこられている時こそ、凄く楽しかったというか、あそこでみんなが『やってやる』という気持ちだったので、そこは『うわ、やられてる…』というよりは、前向きに『ここからもう1回跳ね返して、突き放す!』というところで、みんなもいつも通りできていたと思います」(修徳高・島田侑歩)。

 信頼の絆が引き寄せたファイナルへの切符。第102回全国高校サッカー選手権東京都予選Bブロック準決勝、10年ぶりの全国を目指す修徳高と、“4度目の正直”を期す大成高が激突した一戦は、先に2点を奪った修徳が、大成に1点を返されながらも2-1できっちり勝ち切って、東京制覇に王手を懸けている。

 試合は早くも前半11分に動いた。修徳は右サイドからDF高橋夏輝(3年)がロングスローを投げ込んだ流れから、相手のクリアをMF橋本勇輝(3年)がヘディングで前へ。裏へと抜け出したMF大畑響道(3年)が左足を振り抜くと、ボールはゴールネットへ豪快に突き刺さる。“修徳12年目”の生え抜きアタッカーが一仕事。修徳が1点のアドバンテージを握る。

 次の歓喜も修徳に。21分。DF山口春汰(3年)が左サイドへ完璧なフィード。受けたDF島田侑歩(3年)は「トラップした時点でキーパーとディフェンスラインの間にスペースがあったので、少し速いクロスを上げました」と鋭い軌道を蹴り入れ、ニアに潜ったFW田島慎之佑(3年)がダイレクトで合わせたボールは右ポストを叩くも、こぼれに自ら反応した田島のシュートが今度はゴールネットを揺らす。「最初で決められれば良かったですけど、こぼれにもしっかり対応できました」と笑った10番は、これで3戦連発。2-0。『葛飾の野武士軍団』が突き放す。

「とにかく引かない形で行こうと思ったんですけど、やっぱりちょっと選手たちもビビった部分があって、全員が後手に回ってしまったところからの2失点でしたね」と豊島裕介監督も振り返った大成は小さくないビハインドを負ったものの、少しずつ右にMF伊東恒(3年)を、左にMF塚本類(3年)を配した両サイドハーフへボールが入り始め、そこに2トップのFW宮崎悠斗(3年)とFW舟山陽人(3年)も関わり出したことで、相手陣内でのプレーが増えていく。

 すると、反撃の一手はセットプレーから。28分。キャプテンを務めるMF松井一晟(3年)の好ミドルで奪った左CKは、ショートでスタート。DF小若聖和(3年)のピンポイントクロスに、ファーへ潜ったMF佐藤マイク将史(3年)のヘディングはゴール右スミヘ吸い込まれる。「2点獲られてから、ウチらしさが出てきたと思います」と豊島監督。前半は2-1というスコアで、40分間が終了した。

 ハーフタイムが明けると、3点目を狙う修徳にチャンスが続く。後半5分には左サイドを単騎で運んだFWンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄(3年)が、右足で打ち切ったシュートは枠の左へ。9分にも島田が蹴った左CKから、橋本が枠へ飛ばしたシュートは大成のGK山本琉聖(3年)がファインセーブで回避。さらに20分にもMF小俣匠摩(3年)がFKを蹴り入れ、ここも橋本が放ったフィニッシュは山本が弾き、さらに大畑も叩いたシュートは山本が丁寧にキャッチ。点差は変わらない。

 ここ5年の選手権予選で3度の決勝進出を果たしているものの、まだ届いていない全国出場への飽くなき執念。凌いだ大成は、ここからペースを手繰り寄せる。MF水谷良吾(1年)、MF西嶋蒼良(3年)、FW伊藤雄淳(2年)と次々に切られた交代カードが躍動。22分には舟山の右CKに、ニアへフリーで飛び込んだ小若のシュートは枠の右へ外れるも、デザインされたセットプレーを。25分には決定機。西嶋が左へパスを送ると、収めた水谷は強引に切れ込み、そのまま角度のない位置からシュート。ボールは左ポストを叩いたものの、同点ゴールの可能性を漂わせる。

 ただ、押し込まれ始めた修徳は冷静だった。28分には奮闘したDF平山俊介(3年)とDF富樫匠(3年)を入れ替えると、「守り切って勝とうという感覚はなかったですけど、最後の時間帯は疲れと相手の勢いがあったので、5-3-2に切り替えました」と吉田拓也監督も明かし、「後ろが平山に代わって富樫が入った時点で、もうある程度は『守りに行くぞ』ということかなと思いました」とは田島。終盤は5バックへ移行して後ろの安定を担保しながら、時計の針を着々と進めていく。

「最後は難しい時間も増えましたけど、みんな同じ目標である『勝つ』というところで1つになれていたので、そこは焦ることなく、『自分たちの力を発揮すれば勝てる』というのはわかっていました」(島田)。粘る大成の追い上げもあと一歩及ばず。修徳が1点のリードを保ち切り、10年ぶりのファイナルへと勝ち進む結果となった。



 修徳のキャプテンを託されている島田が口にした言葉が印象深い。「円陣の時とか『ファミリー』という言葉が結構出ていて、修徳中から上がってきている選手も多いですし、小学校からの知り合いや、中学校の時に知り合ったみたいな選手もいて、“第二の家族”というか、もうそんなに会話しなくても結構わかるところまでは来ているので、そこは本当に『ファミリー』という言葉が合っているのかなと思います」。

 スタメンには6人の修徳中出身者が並び、大畑と高橋に加えて、この日のベンチに入ったDF森一真(3年)の3人に至っては修徳FCジュニアの出身。2021年の監督就任以前は修徳FCジュニアや修徳中を指導しており、一番長い選手とは12年近い時間を過ごしてきた吉田監督は、教え子たちへの想いを率直な言葉でこう表現する。

「ここまで勝ってきたことは本当に嬉しいです。でも、やっぱり彼らとの日常がいいんですよ。こういう舞台は興奮するんですけど、あの子たちの魅力は毎日一生懸命やるところなので、優勝できたから良かったとか、優勝できなかったから成し遂げられなかったとかではなくて、彼らとこの3年、6年、12年という時間をこうやって一緒にパッションを持ちながら過ごせて、いろいろな応援をされながらやれていることに、この仕事には本当に素晴らしい価値があって、これ以上のことはないなって」。

「実際には毎日の練習だとか、注目はされないところにストーリーがあって、別にそれを皆さんに知ってもらいたいわけではないんです。でも、それがたとえば記事になることで、彼らの親だったり、関わってきてくれた方々が喜んでくれるので、それは本当にありがたい限りなんですけど、僕としては毎日彼らとぶつかっているので、その時間が終わらないでほしいなって思っています」。

 ただ、彼らとのストーリーをもう少しだけ紡ぐためには、もう少しだけ勝ち続ける必要がある。ファイナルへ向かう想いを問われた吉田監督は、「もうベストを尽くすだけです。逆にここまで来ちゃうと他にはないですよね」と潔く言い切った。

 島田も濃厚な時間を積み重ねてきた自分たちへの期待を隠さない。「自分たちのサッカーをやれば勝てると思いますけど、相手の時間も来ると思うので、そこは耐えながらやりたいですね。修徳の良さは何でもできるところなので、みんながボールを欲しがって、その中でプレーを自分たちで選択してやっていると楽しくなってくるので、決勝も自分たちが楽しめるサッカーをやれればいいかなと」。

 まだ『家族の日常』を終わらせるわけにはいかない。修徳の若き指揮官と選手たちが1週間後に臨むのは、みんなで描いてきたストーリーに“全国編”のページを書き加えるための最終関門。西が丘の舞台で彼らを待っている“東京編”の結末は、果たしていかに。



(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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