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[MOM4526]早稲田実MF西山礼央(3年)_「左足で決めるイメージ」の予感的中!冷静なキャプテンがファインゴールで初の全国を手繰り寄せる!

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早稲田実高不動のキャプテン、MF西山礼央(3年=ジェファFC出身、7番)が自らのゴールに歓喜の笑顔

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.11 選手権東京都予選Aブロック決勝 國學院久我山高 0-2 早稲田実高 味の素フィールド西が丘]

 そのボールがこぼれてきたのは偶然ではない。日常の練習からあらゆる可能性を想定して、地道にトレーニングを重ねてきたからこそ、この大事な試合で気まぐれな球体は、キャプテンの足元へと転がることを選んだのだ。

「相手に当たったボールのこぼれを拾ったシュートだったと思うんですけど、綺麗にゴールが決まるとはそもそも思っていないですし、そういう最後まで詰める部分だったり、どんな時でもゴールへ向かう姿勢は日頃の練習から、練習試合からずっとやっていたので、その成果が1つ現れたのかなと思います」。

 早稲田実高を力強いリーダーシップで束ねてきたナンバー7。MF西山礼央(3年=ジェファFC出身)が“予感通り”に左足で叩き込んだゴールが、チームの新たな歴史の扉を力強くこじ開けた。

 初めての全国大会出場の懸かるファイナル。早稲田実の相手は國學院久我山高だ。「久我山とは去年3回やっていて、全部負けているので、本当に舞台は整ったかなという感じです」と準決勝の試合後に話していた西山は、ジェファFC時代のチームメイトでもある相手のキャプテン、DF普久原陽平(3年)とコイントスで握手を交わし、決戦のキックオフを迎える。

 開始32秒。いきなりFW竹内太志(1年)のゴールで、試合は幕を開けてしまう。逆に浮足立ってもおかしくない状況に、それでも西山は冷静だった。「いろいろな展開を想定していて、自分たちが先制するのも、先制されるのも想定していたので、『どんなことがあっても自分たちの戦い方を発揮しよう』ということで、自分たちが1点決めても落ち着いて、みんなで声を掛け合ってやっていました」。

 すると、キャプテンの元に千載一遇の追加点機がやってくる。27分。右からDF荒木陸(3年)がクロスを上げると、ファーに流れたボールをDFスミス聡太郎(2年)がシュート。相手DFに当たったボールが目の前にこぼれてくる。

「僕は左足でゴールを決めることが多いんですけど、今日は左足で決めるイメージができていたので、意外と落ち着いていました」。左足で叩いた軌道は、左スミのゴールネットを鮮やかに貫く。「今日は決められるかもと感じていました。イメージ通りでしたね」と笑った西山が魅せた“予感通り”のファインゴール。早稲田実はわずか2本のシュートで、2点のリードを手にしてみせる。

 ハーフタイム。高揚してしまうようなシチュエーションにも、やはり西山は冷静だった。「『ここまでも自分たちの想定内の戦いだし、ここから相手が猛攻撃をしてくるけど、それを跳ね返すだけではなくて、攻めに行くことも必要だ』というのはハーフタイムで話しました」。試合を決める3点目を獲りに行くことを確認して、後半のピッチへと向かっていく。

 ボールを持たれ、ドリブルで運ばれ、パスワークで揺さぶられる。だが、早稲田実のやることは変わらない。「大変ではあったんですけど、僕たちもずっと声は出していましたし、みんなのプレーも調子も本当に良かったので、決められるという予感はあまりなかったですね」と後半を振り返る西山だが、そこにはやはり自身が決めた“2点目”のポジティブな影響があったことは見逃せない。

「2点目を獲れたことで、気持ちの面でもチームが冷静さを保てたと思いますし、アレがもし1点差だったら、1点を獲られてしまったらどうなるかわからないというところで、2点目でゲームを落ち着かせられたのかなと思います」(西山)。高い集中力で國學院久我山の攻撃を凌ぎ続けると、その耳にタイムアップのホイッスルが聞こえてくる。

「率直に嬉しかったのもそうなんですけど、やっぱりサポートしてくれた人たちへの感謝、部員やOBの方々への感謝というのが真っ先に頭の中に浮かんできて、その人たちの期待に応えられる試合をして、結果という面でも表現できて本当に良かったなと思いました」。試合終了直後には少しだけ涙を見せたキャプテンも、応援してくれた部員やOBと『紺碧の空』を歌い上げた頃には、すっかり笑顔でチームメイトたちと東京制覇の余韻に浸っていた。



「僕は1年からずっと試合に出させてもらっていて、僕以外にも1年から出ていた選手がこの学年は多いんですけど、そういう経験をさせてもらっているからこそ、それを生かして結果を残さないといけないなというのは強く思っていました」と話す西山、FW久米遥太(3年)、MF戸祭博登(3年)、DF若杉泰希(3年)は1年時からのレギュラー。もともと期待されてきた代ではあったものの、シーズンが進んでいく中でその目標の主語は『自分たちが』から『みんなのために』に変わっていったという。

「僕たちは『自分たちが全国に行きたい』という想いを新チームの発足時から持っていたんですけど、1年間を通していろいろな経験を積んでいくうちに、いろいろな人の想いを背負っていることも、いろいろな人たちから期待されているんだということもわかってきたので、『みんなのために全国に行くんだ』とだんだんと気持ちが変わってきたんです。今まで早実の歴史を作ってきてくれたOBだったり、自分たちをここまで育ててくれた親やクラブチームのコーチ、そのチームメイトは自分たちに大きな影響を与えてくれた人たちなので、感謝しています」。

『みんなのために』と抱いてきた目標は、最高の形で達成することができた。渇望していた全国大会。もちろん周囲への感謝の気持ちは持ち続けながら、何より『自分たちが』行きたかった晴れの舞台で躍動するイメージを、西山はもうとっくに持っているようだ。

「自分は全国レベルの大会というのをまだ経験したことがなくて、相手のレベルがどんな感じなのかとか、どういう雰囲気なのかとかは想像できないんですけど、自分たちにできるのは、自分たちの戦い方を発揮することで、愚直に、堅実に、1つ1つやることだと思うので、この東京都大会と同じで一戦一戦に集中して、一歩ずつ勝ち上がっていけたらなと思います」。

 全国の強豪相手に劣勢を強いられたとしても、このキャプテンの率いるチームにはきっと少しのブレもないはずだ。愚直に、堅実に、目の前のことを1つ1つやり切るだけ。みんなのために、そして自分たちのために、早稲田実が、そのチームを牽引する西山が突き進む冒険は、まだまだ終わらない。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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