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開始32秒で先制の“想定外”も「早実のサッカー」完遂!早稲田実が國學院久我山を撃破して愛と感謝に満ちた初の全国切符!:東京A

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早稲田実高はゲームプラン完遂で初の全国切符!

[11.11 選手権東京都予選Aブロック決勝 國學院久我山高 0-2 早稲田実高 味の素フィールド西が丘]

 ボールは9割近く持たれていた。後半は1本のシュートも記録していない。でも、完勝だ。4000人近い観衆を集めた西が丘のフィールドで、彼らは微塵も恐れることなく、今まで積み上げてきたものに自信を持って、堂々と『早実のサッカー』を戦い抜いたのだ。

「今日に関しては『この早実のディフェンシブな、愚直なサッカーというものを見せることを楽しみなさい』と。『早実のサッカーを表現することを楽しもう』と。それを昨日から子どもたちに言ってきたので、彼らも肩の荷が下りたような形でできたのかなと思います」(早稲田実高・森泉武信監督)。

 自分たちのサッカーを完遂して、初の全国切符。第102回全国高校サッカー選手権東京都予選Aブロック決勝、連覇を狙う國學院久我山高と、“3度目の正直”を目指す早稲田実高が激突した一戦は、前半で2点を先行した早稲田実が國學院久我山の猛攻を無失点で凌ぎ切り、2-0で勝利。3度目の決勝挑戦で、創部以来初となる全国大会出場を逞しく手繰り寄せている。

 衝撃の先制点はわずか開始32秒で。前半のファーストアタック。右サイドの深い位置でFW久米遥太(3年)が時間を作り、上がってきたDF荒木陸(3年)が中央へクロス。相手のクリアを拾ったMF岩間一希(3年)がミドルを放つと、足元へ入ったボールを巧みにトラップしたFW竹内太志(1年)のシュートは左ポストの内側と右ポストの内側を叩いて、ゴールの中へ転がり込む。まさに電光石火。「決勝でもしっかり点を決めて、チームを勝たせたいと思っています」と意気込んでいた1年生アタッカーの2戦連発弾。早稲田実がいきなり1点をリードする。

早稲田実は1年生FW竹内太志(8番)が開始32秒で先制弾!


「幸先良く点が獲れたところは逆にちょっと想定外でしたけど、こういう可能性はあると思っていました。なので、まったくの想定外というよりは、ちょっと期待していた想定かもしれません」と早稲田実を率いる森泉武信監督。逆に完全な想定外の幕開けを強いられた國學院久我山は、いつも通りセンターバックのDF普久原陽平(3年)とDFスコット颯真ニコラス(3年)からボールを動かし、右のFW小宮将生(3年)、左のFW菅井友喜(3年)の仕掛けからチャンスを窺う流れを創出。13分には小宮が蹴った右CKに、普久原が合わせたヘディングは枠の左へ外れたが、ドリブルとパスワークを駆使して、じわじわと相手を押し込んでいく。

 ところが、次の得点を記録したのも早稲田実。27分。中盤でルーズボールを拾ったMF戸祭博登(3年)がグングン運び、竹内が右へ展開。ここも上がってきた荒木のクロスから、ファーでDFスミス聡太郎(2年)が放ったシュートは相手DFに当たったものの、跳ね返りに反応したMF西山礼央(3年)は左足一閃。軌道は左スミのゴールネットへ一直線に突き刺さる。「今日は左足で決めるイメージができていたので、意外と落ち着いていました」というキャプテンが挙げた追加点。早稲田実が2点のアドバンテージを手にして、前半の40分間は終了する。

「『負けることを考えるな』と。『勝つことだけを考えてやれ』と。勝負事というのは起きうることをすべて受け入れないとダメなわけで、もう0-2になったんだから、それを受け入れて後半頑張りましょう、という話をしました」と李済華監督も話した國學院久我山は、後半も攻める。中盤ではMF近藤侑璃(2年)がボールを丁寧に捌き、10番を背負うMF山脇舞斗(3年)は得意のドリブルで前へ。途中投入されたFW佐々木登羽(3年)、FW佐々木羽遥(3年)、FW高井琉士(3年)も果敢に仕掛けるが、決定的なシーンまでは作り切れない。

 早稲田実は、落ち着いていた。「久我山さん相手に2点差は全然引っ繰り返る力関係だったと思うので、2点目が入ったのは精神的なプラスはありましたけど、そこで浮かれ過ぎずにチームとして引き締められました」と5バックの中央を任されているDF若杉泰希(3年)が話せば、「自分たちが先制するのも、先制されるのも想定していたので、『どんなことがあっても自分たちの戦い方を発揮しよう』ということで、みんなで声を掛け合ってやっていました」と西山。きっちり耐えながら、前線の久米と竹内の2トップでカウンターという狙いを徹底。実際に26分には「いかにワンチャンスをゴールに直結させるか、チームを助ける基点になれるか、ということはいつも考えています」という久米が単騎で運び、あわやというシーンも。一刺しできる“武器”を懐に忍ばせつつ、高い集中力を保ち続ける。

 24分は國學院久我山。山脇がドリブルからシュートまで持ち込み、こぼれをFW高梨通晴(3年)が狙うも、ここは早稲田実のGK高村裕(3年)がビッグセーブ。30分も國學院久我山。右サイドバックのDF下塩入俊佑(3年)のクロスから、佐々木登羽がトライしたオーバーヘッドは枠の左へ。34分も國學院久我山。近藤の右ロングスローに佐々木羽遥が飛び付いたヘディングは、高村が丁寧にキャッチ。右から荒木、DF根本渚生(3年)、若杉、DF中嶋崇人(3年)、スミスと並んだ5バックは、左右のスライドも跳ね返すパワーも出色の出来。「全員で集中してやれていたのかなとは思います。今日はみんなかなり気合も入っていましたし、『この2点で絶対に全国に行くんだ』という気持ちでやれたのは良かったかなと」(若杉)。2点という点差を後ろ盾に、冷静に、着々と、残り時間を消し去っていく。

 40分も國學院久我山。左サイドから佐々木羽遥が入れたクロスに、スコットが打ち切ったヘディングは、しかし右のポストを直撃。どうしても1点が遠い。そして、3分間のアディショナルが過ぎ去ると、タイムアップを告げる笛の音が西が丘の空に吸い込まれる。「頭の中はボーッとしています。嬉しいを通り越しているような感じですね」(森泉監督)。大願成就。2-0で力強く勝ち切った早稲田実が、驚異の全5試合無失点で東京制覇。森泉監督就任24年目でとうとう掴んだ冬の全国大会出場を、エンジのスタンドとともに喜び合う結果となった。



 試合後。早稲田実の選手たちからは感謝の言葉ばかりが零れ出る。「試合に出ているのは11人ですけど、11人の力だけでは到底こんなところまでは来れないので、試合が終わった瞬間は両親やスタンドで応援してくれた学校の生徒たちもそうですし、スタンドで見ていた部員も、ベンチでサポートしてくれたメンバーも、森泉先生を筆頭にしたコーチ陣の先生も、自分がケガをしていた時に処置してくれたトレーナーさんも、本当にいろいろな人への感謝が浮かびました」(若杉)「率直に感動したんですけど、スタンドの応援もあってここまで来れましたし、コーチ陣やトレーナーの方もメチャメチャ尽力してくれていたので、本当に感謝したいですね。最高の気分です」(久米)。

 キャプテンの西山は、シーズンを戦っていく中でチームに起きていった変化をこう説明する。「僕たちは『自分たちが全国に行きたい』という想いを新チームの発足時から持っていたんですけど、1年間を通していろいろな経験を積んでいくうちに、いろいろな人の想いを背負っていることも、いろいろな人たちから期待されているんだということもわかってきたので、『みんなのために全国に行くんだ』とだんだんと気持ちが変わってきたんです。今まで早実の歴史を作ってきてくれたOBだったり、自分たちをここまで育ててくれた親やクラブチームのコーチ、そのチームメイトは自分たちに大きな影響を与えてくれた人たちなので、感謝しています」。周囲の想いが感謝に変わり、そのエネルギーがピッチに満ち満ちる。この日の試合を見ていれば、早稲田実に訪れた『感謝の循環』にも納得だ。

「今日は『早実のサッカーを見せよう』ということと、『最後に勝とう』ということを言ってきて、それは12年前もラスト3分で久我山さんに引っ繰り返されていますので、そこのところで『最後に勝とう。試合終了まではプロセスだ。それで勝った時にみんなで結果を分かち合えるかどうかだ』と言って送り出しました」(森泉監督)。

 2011年度の高校選手権東京都予選Bブロック決勝。この日と同じ國學院久我山を相手にした早稲田実は、延長前半に勝ち越しながらも、残り3分からの大逆転劇でその手から全国切符が滑り落ちた。それから12年。「もしかしたら全国には行けないのかなと思ったこともたくさんあります」という指揮官は、それでも諦めず、目の前の選手たちを信じ、いつも前を向いてきた。

 試合後の勝利監督インタビュー。目は赤く、少し言葉が詰まる。「ちょっと泣くのはカッコ悪いなと思っていたんですけど、たまたまこっちのメインスタンドで、バックスタンドの応援に入れなかった卒業生がユニフォームを着ているのが目に入って、彼らがすごく喜んでいたのを見て、ちょっとウルッと来てしまいましたね」。

 応援団の前で情熱の指揮官が3回宙を舞う。「もともと決めてはなかったですけど、森泉先生へ結果で感謝を返すというか、『全国に連れていきたい』という強い想いがあったので、それが自然と胴上げという形に現れたのかなと思います」(西山)「今日に関しては『こういう日も来てくれたなあ』と本当に選手に感謝しています」(森泉監督)。24年間の積み重ねは、こうして1つの結実を迎えた。

表彰式に臨む選手たちを見つめる早稲田実の指揮官、森泉武信監督


 ここからは全国を戦うための準備が待っている。「本当に失うものはないですし、思い切ってやれる立場にはあると思うので、全国に出ても恥ずかしくないように、良い準備をしっかりしたいです」と話した久米の口調にも、自分たちへの期待が滲む。

「正直な話、『全国大会でこう戦うぞ』というものは持っていませんけど、やはりこういうチャンスを戴いたので、そのチャンスに応える意味でも、この1年間は彼らが自分たちで作ったテーマとして『日々前進』ということでやってきましたので、もう一歩前進して、一戦一戦自分たちのスタイルを貫きたいと思います」(森泉監督)。

 愛と感謝の東京制覇。貫くのは『早実のサッカー』。ここから未知なるフェーズへと足を踏み入れていく早稲田実を、全国のピッチが待っている。



(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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