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サイドハーフ、ボランチ、サイドバックをこなすスーパーポリバレント。昌平MF前田大樹が秘めるのは圧倒的なチーム愛

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昌平高が誇るスーパーポリバレント、MF前田大樹(3年=FC LAVIDA出身)

[11.14 選手権埼玉県予選決勝 昌平高 2-0 浦和南高 埼玉]

 サイドハーフ。ボランチ。そして、サイドバック。試合が始まってみないと、この男がどのポジションで出てくるかは予想が付かない。だが、確実にわかっていることは、今のチームのスタメンリストには、どんなゲームでも必ずこの18番の名前が書き込まれることだ。

「どこのポジションになっても本質的な部分は変わらないかなって。ゴールを守るために、ゴールを獲るために、試合の中でポジションを変えていくことは変わらないと思うので、どこをやるかで多少立ち位置は変わるんですけど、やるべきことは大きく変わらないですね」。

 圧倒的なチーム愛を心に秘めた、昌平高が誇るスーパーポリバレントプレーヤー。MF前田大樹(3年=FC LAVIDA出身)は1日でも長くこの仲間たちと一緒にプレーするため、どんなポジションでも120パーセントでやり切り続ける。

 その“打診”は唐突にやってくる。高校選手権予選を間近に控えた10月中旬。プレミアリーグの前橋育英高戦を週末に控えたタイミングのことだった。「日野口(廉)先生から『大樹、サイドバックどう?』みたいに聞かれたので、『やれるならやってみたいです』と言って、1回右サイドバックをやってみたら、なんかちょっと普通にできたんですよね」(前田)。

 チームは前橋育英戦で完封勝利を収めると、選手権予選の初戦となった細田学園高戦でも前田は右サイドバックでスタメン出場。この一戦で延長戦の末に勝利を収めると、準決勝の武南高戦では、左サイドバックとしてピッチに送り出される。

「初戦は『大樹が右の方がやりやすいかな』と思って、右サイドバックで使ったんですけど、逆に(田中)瞭生が左で少し窮屈そうにやっていたので、左右をチェンジしたんです」と話すのは村松明人コーチ。もともと右サイドバックのレギュラーだったDF田中瞭生(3年)のポジションを元に戻した格好だが、このあたりにも前田のポリバレントさに対する信頼が窺える。

 この準決勝の7-2という大勝を受け、全国出場の懸かった浦和南高とのファイナルも、前田は再び左サイドバック起用。「サイドバックなので上がり過ぎるとカウンターも食らいますし、行き過ぎると怖いのもあって、預けるところは預けたりしていました」とまずは守備を念頭に置きつつ、ごくごくスムーズにゲームへ入る。

 ただ、もともと備えている攻撃性は隠し切れない。「『ボールを受けたら仕掛けよう』と考えていたので、思い切って1回行ってみたらクロスまで行けたので、『ああ、行けそうだな』って」。時折スルスルとサイドを駆け上がり、チャンスに絡むシーンも作り出す。

 前半28分には右サイドバックの田中が先制ゴールを挙げたが、それを見た前田の感想が面白い。「もちろん自分も点は獲りたかったですけど、チームが勝てば問題ないので、瞭生のゴールも悔しくはなかったですよ。『サイドバックでも点は獲れるんだな』って思いました(笑)」。

 後半にも1点を追加した昌平は、浦和南を2-0で下して全国切符を獲得。「僕たちは全国優勝が目標なので、ホッとしたくらいです」と口にした前田も、左サイドバックとしてフル出場で勝利に貢献。埼玉制覇をチームメイトとスタンドの応援団とともに笑顔で喜んだ。

優勝後の集合写真。前田(18番)の左隣が右サイドバックの田中瞭生(5番)


 そもそも中学時代を過ごしたFC LAVIDA時代は、サイドハーフやトップ下が主戦場。昌平入学後もそのポジションで勝負していたが、今シーズンからボランチにトライしているという。

「今年に入って新チームになった時に、1回練習でボランチをやる機会があって、『これはチャンスだな』と思って結構頑張ったら、『大樹、ボランチあるんじゃないか』みたいになったんです(笑)。ボランチも自分の色を出せるように頑張ろうと思ってきて、やり始めた頃よりボールの持ち運びはできるようになってきたと思います」と話していたのは9月下旬のこと。その1か月後にはさらに新たなポジションを任されたものの、そのコンバートもポジティブに受け入れたようだ。

「最近はサイドバックも注目され始めている感じがあるじゃないですか。だから、やってみるかと言われた時にも『やってみたいな』と思いましたし、普通にサイドに張ってオーバーラップするだけじゃなくて、いろいろなこともやってみたいなとは考えていたんですけど、自分が急に中を取ったりして、チームのやり方を崩すのは違うと思うので、相手を見ながらという感じですね。今はサイドバックが楽しくなり始めてきています」。

 村松コーチはFC LAVIDA時代から6年間に渡って指導してきた前田について、こう言及している。「大樹はボランチをやっているだけあって、360度を見ながらやれる子なので、サイドバックも違和感なくやれていますね。攻撃で左足のクロスとかの課題はありますけど、それ以外の部分は気にならないですし、よくやっていると思います」。どうやらしばらくはサイドバックでの起用もありそうだ。

 前田がFC LAVIDAに入団したきっかけは、小学生時代に所属していたFC白岡南の1年先輩に当たる荒井悠汰(FC東京)が一足先にプレーしていたからとのこと。最初はスクールからの加入だったが、とにかくチームとチームメイトがすぐに大好きになってしまったという。

「悠汰が入ると聞いたので、僕もすぐにLAVIDAに入りたくなって、それでスクールから入ったんですけど、LAVIDAには面白いヤツが多かったですし、みんな仲が良くて、サッカーもサッカー以外も楽しかったんです。それで高校生になったら、そのメンバーが学校でも一緒じゃないですか。だから、メチャメチャ楽しくて、とにかく練習以外も楽しくて、『このメンバーで絶対に勝ちたい』という想いはメチャメチャあります」。

 それを聞けば、この日の勝利を受けて真っ先に思ったという感想も納得だ。「プレミアの最終節が12月3日で、全国大会は12月の終わりからなので、まずは2,3週間ぐらい練習できる時間が伸びたことがメッチャ嬉しいです!でも、もう全国大会の前にあるプレミアに向けて次の練習から切り替えて、日々のトレーニングを大事にして、トレーニングで成長して試合、というサイクルを続けていければいいかなと思います」。

 昨年はピッチの外から見つめていた全国の舞台。前田は最高の仲間とともに戦う、高校最後の大会に思いを馳せる。「やりたいプレーはどこのポジションかによりますけど(笑)、そのポジションで勝利に貢献できるようにしたいですし、もしサイドバックだったら、今日のパフォーマンスを最低ラインにして、もっと攻撃で貢献したいですし、チャンスを作りたいですね。守備も今日は一応無失点でしたけど、1対1でクロスを上げられたシーンもあったので、そういうところに練習からもっとこだわってやれればいいかなと思います」。

 圧倒的なチーム愛を心に秘めた、昌平が誇るスーパーポリバレントプレーヤー。あらゆるポジションをハイクオリティでこなし続ける前田の存在は、明確に日本一を目指すチームにとって、絶対に欠かせない。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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