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10番背負う主将が大会直前に負傷離脱…徳島市立DF山本煌大「彼の思いも背負いながら、楽しくできた80分間だった」

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キャプテンマークを巻いて初戦を迎えた徳島市立高DF山本煌大(3年)(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[12.29 選手権1回戦 明秀日立高 2-0 徳島市立高 等々力]

 大会直前に衝撃が走った。徳島市立高(徳島)の10番を背負い、キャプテンマークも託されるFW笠原颯太(3年)が負傷。チームは大黒柱を欠いて、全国の舞台に挑むこととなった――。

 アクシデントに見舞われたのは、初戦の5日前だったという。「プレーできないわけではなかったけど、今年1年間はいつ折れるか分からないリスクがある中でやってきた。元々ヒビが入っている状態だったが、この間の日曜の試合で踏み込んだ際に骨折してしまった」。河野博幸監督が説明したように、笠原は右ジョーンズ骨折(第5中足骨疲労骨折)で離脱を余儀なくされた。

 笠原の負傷直後、チームには重い空気が漂ったという。選手権初戦でキャプテンマークを巻いたDF山本煌大(3年)は「彼は泣いていた」と振り返る。しかし、大会初戦を直後に迎えるため、負傷した笠原はその後、気丈に振る舞おうとしたようだ。

「笠原はキャプテンという立場を自覚していた。だから、チームのためにずっと笑顔でいようとした。本人は相当つらかったと思うけど、チームの動揺を少しでも減らそうと、『楽しんでこい』『お前たちならできる』と笑顔で声をかけてくれた」

 キャプテンの姿勢に、チームも下を向かずに前を向いた。「彼が試合に出られなくなってしまったという事実は変わらない。だから、『笠原のために』という気持ちを共有し、『どれだけしんどくても笠原のことを思い出したら走れるはずだ』と意思統一して、『彼のために』という気持ちで頑張ろうとした」(山本)。

 迎えた選手権初戦。相手は総体を制した明秀日立だった。しかし、徳島市立は臆することなく、夏の王者に立ち向かう。特に前半はテンポ良くボールを回し、相手を押し込み続けた。決定機も生み出したが明秀日立の粘り強い守備にも遭って得点を奪えず。すると、後半に2失点を喫して0-2の完封負け。初戦敗退となった。

 CBの一角に入って奮闘した山本は「前半は自分たちのペースで試合を運べていたので、前半で1点取れていたら違う流れになっていたかもしれない」と語りつつ、「でも、そこで決め切れないのが今のチームの甘さだった」と現状を受け止める。それでも、大会直前のアクシデントにも前を向き、戦い抜けたことに「キャプテン(笠原)の思いも背負いながら、楽しくできた80分間だったと思う」と充実した表情も浮かべた。

 この日のスターティングメンバ―には5人の2年生が名を連ねており、ベンチにも多くの下級生が入った。だからこそ、来年以降のチームに期待を寄せる。「来年も良い選手が残っている。今日の試合も半分は下級生のメンバーだった。この舞台を経験するだけでなく、悔しさも味わっているので、来年はもっと強くなって帰ってきてくれるはずです」との思いを述べた。

 そして、スタンドから見守った笠原のサッカー人生も続くようだ。河野監督が明かす。「彼なら一人で前に行けたので、今日おらんかったのはしんどかった」と苦笑しながらも、「笠原自身は大学でもサッカーを続けます。復帰まで3か月くらいはかかると思いますが、そこからまた先に進んでほしい」と1年間チームをけん引し続けたキャプテンに“最後のエール”を贈った。

(取材・文 折戸岳彦)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
ゲキサカ編集部
Text by ゲキサカ編集部

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