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勝敗を分けた「3点目」を巡る攻防。絶対的キャプテン不在の帝京三はスタンドを沸かせる2ゴールも無念の初戦敗退

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帝京三高の無念は後輩たちに引き継がれていく。(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[12.29 選手権1回戦 帝京三高 2-3 初芝橋本高 駒沢]

 後半35分。完璧な流れから、完璧なゴールが生まれると、スタジアムの雰囲気は一変する。スコアは2-3。あと1点を期待する空気感が、スタンドにも充満する。必死に攻める白いユニフォームの選手たち。最終盤の39分。ビッグチャンスを掴んだものの、シュートは枠の右へ逸れていく……


「こういう雰囲気の選手権は久々なので、冷静にやろうとはしていたんですけれども、前半でちょっとバタついてしまいましたね」。最初の40分間をそう振り返るのは、チームを率いる相良和弘監督。8年ぶりに冬の全国へ帰ってきた帝京三高(山梨)は、立ち上がりからなかなか硬さがぬぐえない。

 最初の失点は前半5分。相手のFKの流れから、強烈なシュートがクロスバーに当たった跳ね返りに、ディフェンス陣も反応しきれず、頭で押し込まれてしまう。次の失点は14分。これもFKから中央でマークを掴み切れず、相手にフリーでヘディングを許し、ゴールを陥れられる。

「相手はセットプレーがストロングポイントだというところもあったと思うので、それで獲られてしまったところで、バタついちゃったかなと」(相良監督)。それでも2点を追い掛ける展開の中で、中盤センターのMF櫻井元舟(3年)とMF西澤篤成(3年)がボールを引き出し、リズムを創出。右ワイドのMF秋間翔太(3年)、左ワイドのMF朝比奈漱(2年)も使いつつ、少しずつ攻撃の芽が出てくる。 

 ところが、3失点目も前半のうちに。33分。中央でパスカットされた流れから、サイドアタックを食らい、ヘディングで仕留められる。「焦って点を獲りに行って、真ん中に付けてカウンターというところが出てしまったので、3点目が痛かったかなと思います」と相良監督。スコアは0-3。小さくないビハインドを負って、ハーフタイムへと折り返す。


 帝京三の指揮官は前半の展開を「結局3失点以外はそんなにピンチというピンチはなかったので、その3本のところでやられてしまった」と捉えていた。「冷静さを欠いていましたし、自分たちのやりたいことを統一できていなかったので、1つ間を置いて、もう1回サイドにどうポイントを持っていくかを修正しました」。もう失うものは何もない。腹をくくって、選手たちは後半のピッチへと向かっていく。

 大きな勇気を得たのは、後半22分の追撃弾だ。途中出場のMF嶋野創太(3年)が右サイドで起点となり、MF小澤波季(3年)のキープから、右サイドバックのDF福司楓馬(3年)は華麗なステップで2人を置き去りに。そのまま左足で打ち切ったシュートは、ゴールネットを鮮やかに揺らす。沸き立つ帝京三の応援席。まずは1点を返す。

 守備陣も奮戦する。25分には相手の決定的なシュートを、守護神のGK近松煌(3年)が超ビッグセーブで回避。28分にも近松が飛び出し、無人のゴールへ放たれたシュートを、懸命に戻ったDF原田飛鳥(3年)はオーバーヘッドでスーパークリア。以降もキャプテンのDF大野羽琉(3年)とDF押田良翼(3年)のCBコンビを中心に、失点を許さずゲームを進めると、終盤にスペシャルな一撃が飛び出す。

 35分。大野が縦に鋭く付けたパスを、小澤はきっちり収めてスルーパス。右サイドを飛び出した嶋野がグラウンダーで折り返したボールを、FW遊佐凜太朗(3年)が確実にゴールネットへ送り届ける。相良監督もハーフタイムに話した、“サイドのポイント”から完璧なフィニッシュ。いよいよスコアは1点差に。

 スタンドが揺れる。帝京三が攻めるたびに、どよめく観衆。まるでホームのような空気感の中、39分にビッグチャンス。MF桒原一斗(3年)に続いて途中投入されたMF山岡陸翔(2年)が浮かせたパスを、嶋野がノートラップで叩いたシュートは枠の右へ逸れていく……

「何とか引き分け、PKまで行ければとは思ったんですけど、なかなかそこまでは届かなかったです。要するに3点目なんですよね」。獲られてしまった3点目と、獲り切れなかった3点目。相良監督の口にした『3点目』は、まさにこの80分間の勝敗を大きく分けるキーポイントだった。


 帝京三はこの初戦を前に、思わぬ事態に見舞われていた。チームの心臓部を司るボランチであり、キャプテンとして精神的支柱も担うMF辻友翔(3年)が、12月18日に行われたプリンスリーグ関東2部参入戦で退場処分を受けたため、直近の公式戦に当たるこの日の初戦は出場停止に。絶対的な中心選手を欠いて、大事なゲームを迎えていた。

 いろいろな意味でいつもとは違う環境の中で、喫した前半の3失点。そこまでの流れを考えれば、試合が壊れてしまってもおかしくない展開だったが、彼らは逞しくメンタルを立て直し、鮮やかに2点を返し、スタンドを巻き込むぐらいのエネルギーを、この大舞台で堂々と披露してみせた。「最後までよくやってくれたかなとは思います」。相良監督は静かに選手たちの奮闘を労った。

 キャプテンとともに“次の試合”を戦うことは叶わなかったが、駒沢のスタンドに詰めかけた観衆を魅了した2つのゴールは、彼らが全国の舞台に残した確かな足跡。8年ぶりに帰ってきた全国で、わずかに届かなかった『3点目』を追求する帝京三の新たな課題は、後輩たちに託されていく。

(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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