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楽しく攻めて、力強く守った完勝劇。切り替えの強度とスピードで前橋育英を圧倒した神戸弘陵が全国16強!

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神戸弘陵高は堂々の3回戦進出!(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[12.31 選手権2回戦 神戸弘陵高 2-0 前橋育英高 ニッパツ]

 エンジのユニフォームが三ツ沢のピッチを支配する。躍動感あふれる攻撃に、素早い切り替えと、逞しく崩れない守備。彼らが繰り出すその一つひとつのプレーには、積み重ねてきた自信がみなぎっていた。

「正直非常に嬉しいです。前橋育英さんも良い選手がいて、歴史のある良いチームなので。ただ、僕は自分のチームの選手に自信を持っているので、選手たちも強敵相手に自信を持ってプレーしてくれた結果だと思っています」(神戸弘陵高・谷純一監督)。

 攻守の強度で力強く上回った、見事な完勝劇。第102回全国高校サッカー選手権は31日、各地で2回戦を行い、ニッパツ三ツ沢球技場の第2試合では神戸弘陵高(兵庫)が、96回大会で日本一を経験している前橋育英高(群馬)を2-0で撃破。1月2日の3回戦では神村学園高(鹿児島)と対戦する。


 序盤は繋ぐ前橋育英、縦に速い神戸弘陵という構図が浮かび上がる中で、先にチャンスを掴んだのは後者。前半7分。左サイドでMF佐波昂大(3年)が仕掛け、DF藤本達真(2年)のクロスに、FW馬場悠平(3年)がヒールで合わせたシュートは前橋育英のGK雨野颯真(3年)にキャッチされるも好トライ。10分には決定機。FW北藤朔(3年)が果敢なボールカットから、左サイドをドリブルで運びながらフィニッシュ。ボールはクロスバーに弾かれ、詰めた馬場のヘディングも枠の右へ逸れたものの、勢いよく神戸弘陵が立ち上がる。

 一方の前橋育英もドイスボランチのMF石井陽(2年)とMF篠崎遥斗(3年)を中心にボールを丁寧に動かしていく中で、15分にはセットプレーのチャンス。右からDF山田佳(2年)がCKを蹴り込むと、飛び込んだDF斉藤希明(3年)のヘディングはわずかに枠の右へ。18分にも果敢なインターセプトから、そのままドリブルで運んだDF青木蓮人(2年)のシュートはクロスバーを越えたが、こちらも先制への意欲を滲ませる。

 20分に試合を動かしたのは、神戸弘陵のセットプレー。左サイドで手にしたFK。キッカーのDF阪上聖恩(2年)が丁寧に蹴った軌道はGKのパンチングに遭うも、こぼれを右から馬場が折り返すと、身体を投げ出した藤本のダイビングヘッドがゴールネットへ吸い込まれる。1-0。兵庫王者がまずはアドバンテージを手にする。

 追い掛ける展開となった前橋育英は、「相手も人数を掛けてボールにプレッシャーを掛けてきたので、そこをワンタッチ、ツータッチで逃がせない時間が本当に多かったです」と石井も話したように、シビアなゾーンに侵入しかけても相手の素早いプレッシャーに潰される回数も多く、前線のFW佐藤耕太(2年)とFWオノノジュ慶吏(2年)も孤立気味に。前半のうちにFW大岡航未(1年)を投入したものの、なかなか流れは変え切れず、逆に31分には神戸弘陵もカウンターから決定機。北藤のシュートは懸命に戻った篠崎がタックルで防ぎ、山田が何とかクリアしたものの、前半は切り替えの早さで上回った神戸弘陵が1点をリードして、ハーフタイムに折り返す。


 大事な次の得点も、奪ったのは神戸弘陵。後半12分。高い位置で相手のビルドアップに佐波がプレッシャーを掛け切ると、こぼれ球をMF大井孝輔(3年)は左から丁寧に中央へ。GKの位置を確認していた馬場は、完璧なループシュートをゴールへ送り届ける。「相手のディフェンスがちょっとタッチをミスした時に、自分がフリーだったことはわかっていたので、パスを出してもらえれば決める自信はありました」というエースはこれで2戦連発。2-0。点差が広がった。

 守備面でも神戸弘陵の出足は鋭い。「入れ替わりが多いチームだったので、受け渡しの声だったり、付いていく声だったり、裏に抜けていく時の声を、守備ラインはしっかり掛けられていたと思います」と語ったキャプテンのDF岡未來(3年)とDF柴尾美那(3年)のセンターバックコンビを中心に、最終ラインのチャレンジアンドカバーはほぼノーミス。攻撃から守備へのトランジションもスムーズに、ボールを失ってもすぐさま取り返す一連がピッチのそこかしこで生まれていく。

「普段はそこまで焦らないんですけど、失点した直後はみんなに多少は焦りがありましたね」と篠崎も振り返った前橋育英は、MF黒沢佑晟(2年)やMF斎藤陽太(3年)と攻撃的なカードを切っていくものの、流れの中からはチャンスを作り切れず。37分にペナルティエリアのすぐ外でMF平林尊琉(1年)が獲得したFKも、篠崎が直接狙ったキックはわずかにゴール右へ。どうしても1点が奪えない。

「前橋育英さんが相手だったということで、引き出してもらった部分もあると思うので、この強度の中でゼロに抑えるゲームができたことで、一発勝負の大会ですけれども、この試合でまたチームが1つ強くなったかなと思います」(谷監督)。攻守に躍動した神戸弘陵が、盤石の試合運びで2-0と完封勝利。4大会ぶりとなる全国16強へと勝ち上がった。


 試合後に谷監督が話していた言葉が印象的だ。「『全員攻撃、全員守備』なんて言葉がありますけど、自分のゴールに近い選手は、ゴールを守るためにいるわけですし、相手ゴールに近い選手は、ゴールを獲るためにいるわけで、その間にいる選手はそれを繋ぐための役割であって、僕はそういうふうに生徒たちに伝えていますので、しっかりとそれぞれのポジションの役割を果たしてくれたかなと思っています」。

 確かに神戸弘陵の選手たちは、それぞれの役割がよく整理されているように見える。明らかに攻撃に特化しているようなアタッカーたちも、プレスバックや切り替えをサボらず、ディフェンスラインもサイドバックの攻撃参加は言うに及ばず、2人のセンターバックもセットプレーではゴールへの意欲を隠さない。チーム全体の攻守に対する積極性は、全国の舞台でも存分に披露されていると言っていいだろう。

 1つのターニングポイントは、インターハイの初戦で青森山田高に敗れた試合だったようだ。一定の自信を持って挑んだ一戦は、1-3の完敗。「山田との試合で『切り替え、球際、ヘディング』というところが全国では全然通用しないということを感じましたし、全国で勝ちたかったら山田の基準に持っていかないと勝てないと思いました。あそこでみんなが誰かから言われたことではなくて、肌で経験できたというのが大きくて、そこで意識を変えられたかなと思います」と岡も言及するように、実際に体感した全国トップレベルが絶対的な基準になった。

 とりわけ意識したのは、切り替えの強度とスピード。「もともとそこまで切り替えが遅いイメージはなかったんですけど、やっぱり全国を経験すると『遅いのかな』と感じました。でも、そういうところは意識で変えられる部分で、毎回の練習や毎回の試合ごとに声を掛け続けることによって、みんなの頭の中に残ったりするので、それで意識が高くなったかなと思います」(岡)。インターハイ以降のトレーニングへ真摯に向き合ってきたことで、彼らは全国でも戦える力強さを培ってきた。

 着実な成長はこの大会でも進行中だという。「僕もこの大会に入ってビックリしているというか、ウチの選手は凄いなと思っているのは、今年は県内でまったく負けていなくて、リーグ戦もプリンス2部から1部に上がって、というところで、この年代の子供たちは何かをきっかけに自信を掴むと、これだけ思い切って仲間を信じてプレーできるんだなと。この大会も1回戦、2回戦と強豪とやった中で、無失点で、得点も獲れているということで、僕自身も選手には良い経験をさせてもらっています」(谷監督)。

 次の3回戦で対峙する相手は、大会屈指のタレント集団として知られる神村学園高(鹿児島)。もちろん強敵であることは言うまでもないが、今の神戸弘陵には勝利を重ねるごとに纏ってきた、確かな自信がある。

「神村学園は名前のあるチームですけど、そこで逆に勝ったら自分たちの名前も売れていくと思うので、そういうメンタルでやっていきたいと思います」(馬場)。機は熟した。30年ぶりとなる全国8強のその先も見据える神戸弘陵の進撃は、果たしてどこまで。

(取材・文 土屋雅史)

土屋雅史
Text by 土屋雅史

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