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[MOM4598]神村学園DF有馬康汰(3年)_まるでストライカーの嗅覚。「そこにいた」攻撃的右サイドバックが貴重な追加点!

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2ゴールに絡む活躍を見せた神村学園高DF有馬康汰(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.31 選手権2回戦 神村学園高 2-0 松本国際高 ニッパツ]

 もちろん大事なのはわかっているけれど、守備の役割だけにとどまっているつもりは毛頭ない。行けると思ったら前へ、前へ。自分の感覚を信じて、右サイドを全速力で駆け上がっていく。

「全国大会のゴールは、やっぱり特別でした。自分は普段からあまり得点を決める機会はなくて、あってもアシストぐらいだったので、こういう大きい大会で決められたことは、凄く嬉しかったです」。

 昨年から強豪校のレギュラーを任されてきた、神村学園高(鹿児島)が誇る攻撃的右サイドバック。DF有馬康汰(3年=神村学園中出身)がストライカーばりの“嗅覚”を発揮して、鮮やかなゴールを全国の舞台で奪ってみせた。


 いきなりその攻撃センスが生きたのは、前半8分の先制シーン。最終ラインでのビルドアップから、DF難波大和(3年)のパスを受けた有馬はしなやかな身のこなしで前を向くと、MF大成健人(2年)とのワンツーからFW日高元(1年)へと縦パスを打ち込む。

 その流れからMF新垣陽盛(2年)、FW西丸道人(3年)とパスが繋がり、最後はMF名和田我空(2年)が冷静にフィニッシュ。右で作って、左で仕留める理想的な形でのゴールに、有馬は起点作りできっちりと絡む。

 24分。今度は主役の座をさらう。ここも大成とのワンツーで高い位置まで侵入し、中央へショートパス。西丸が右へ捌く間にそのままニアサイドまで潜り込むと、大成のクロスをDFがクリアし損ねたボールが、目の前に転がってくる。

「前に上がっていくのは自分の持ち味ですし、ペナルティエリアに侵入したら、良い形でボールがこぼれてきたので、あとは決めるだけでした。スペースが空いていたので、『ここは上がっていこう』と思って、行きました」。ポジショニングも、こぼれ球への反応も、まるでストライカーのような一撃。「そこにいた」右サイドバックが挙げた追加点で、神村学園のリードは2点に変わる。

 後半はなかなか3点目を奪えずにいると、徐々にゲームリズムは松本国際へ。「後半は前に上がる回数も少なくなったので、そこはちょっとチームとして改善しないといけないですね」と話した有馬も、前半に比べて守備に回る時間が長くなっていく。それでも失点は許さずに、終わってみれば2-0の完封勝利。攻守で躍動した右サイドバックの存在感が、80分の中で際立った。


 最上級生となった今シーズンは、チームとしても初参戦のプレミアリーグの開幕前に負傷離脱を強いられたが、神村学園はインターハイによる中断に入るまでの8試合で5勝をマークするなど、好調をキープ。「自分がいない中で結果が出ていたので、『ちょっとヤバいな』という焦りもありました」という有馬は、筋トレや食事の量を増やしたことで体重も2キロ増加。ケガをしない身体づくりに取り組んだ。

 7月にはようやく戦線復帰。「3か月ぐらい離脱したので、身体もちょっと重くて、復帰してからもなかなか調子は上がらなかったんですけど、夏を過ぎてからちょっとコンディションも戻ってきて、自分の力を出せるようになったと思います」と自身のパフォーマンスには手応えを得ていたものの、対照的にチームの調子は下降線をたどり、残留争いへ巻き込まれることになる。

「前期はチームの調子が良かったのに、自分が復帰してから全然勝てなくなったので、『自分のせいなのかな』という責任も凄く感じていました」という有馬は、それでもスタメンで奮闘し続け、チームも1試合を残して残留が確定。12月開催となった選手権の県予選でも水準以上のパフォーマンスで、全国出場の大事なピースを担ってきた。


 選手権には小さくない“借り”がある。昨年度の大会にも右サイドバックのレギュラーとして臨んだ有馬は、3試合にスタメン出場。準々決勝で青森山田高(青森)に競り勝った試合も、準決勝で岡山学芸館高(岡山)にPK戦で敗れた試合も、ピッチの中で経験した。

「青森山田戦も印象深いですけど、一番は準決勝ですね。学芸館との試合は相当悔しかったです。打ち合いになって、逆転したのに、すぐにまた点を獲られて、PK戦で負けたので、後ろの選手の責任だなとは凄く感じました。それだけに今年は日本一への想いはかなり強いです」。まずは1つ1つ丁寧に勝ち上がることが大前提。その上で国立競技場での“2勝”を真剣に目指している。

 ヒリヒリするような雰囲気の中で戦う選手権は、ここからも常に決勝戦のような緊張感が続いていく。ただ、有馬はより実力が問われる3回戦以降に向けて、自分が果たすべき役割を明確に捉えているようだ。

「1対1のところでは絶対に負けないようにしたいです。そこで負けなければ失点はないと思いますし、全国に来たら相手の左サイドはとにかく上手い選手が多いので、それにどんどん対応して、粘り強く戦いたいと思います。やっぱりまずは失点しないことですね。ウチの前線にはタレントがたくさんいますし、『絶対に点を獲ってくれる』と信じているので」。

 狙うのは、昨年度以上の成績だけ。まずは国立競技場のピッチに舞い戻り、今度こそはファイナルへの進出権を手繰り寄せるべく、有馬は迷うことなく颯爽と、右サイドを駆け上がり続ける。

(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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