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追求するのは「自分との戦いに挑戦すること」。スタンドを沸かせた「諦めない」松本国際の勇気と躍動感

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松本国際高は奮戦及ばず。(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[12.31 選手権2回戦 神村学園高 2-0 松本国際高 ニッパツ]

「『諦めない』ということは、リードされていても試合を捨てないというようなことではなくて、自分の限界に対して、心が挑戦していくことが『諦めない』ということなんです。だから、『絶対に諦めるなよ』ということは本当に口酸っぱく言ってきました。そこが今日の選手たちに求めた部分で、つまりは『自分との戦いに挑戦すること』ですよね」。

 チームを率いる勝沢勝監督は、試合後にこう語っている。優勝候補の一角とも評されている強豪相手に、真っ向勝負を挑んだ松本国際高(長野)の勇気と躍動感は、大いにスタンドを沸かせるだけの魅力に満ちあふれていた。


「自分たちは本当の狙いで言ったら、もっと高い位置でプレスを掛けて、ボールを引っかけて、ショートカウンターを狙いたかったんですけど、相手が上手かったので、そこでボールをうまく取れない時間が長かったですね」。

 キャプテンを託されているDF鈴木侑斗(3年)が前半の40分間をそう振り返る。彼らにとっては初戦となる、2回戦の相手は神村学園高(鹿児島)。年代別代表の選手も顔をそろえ、大会屈指のタレント集団として知られる難敵に対し、立ち上がりこそアグレッシブな姿勢を打ち出したものの、8分と24分に失点を許し、2点のビハインドを負って、後半へと折り返す。

 ハーフタイム。松本国際のロッカールームでは、指揮官から檄が飛ぶ。「『とにかくプレスバックに一番心が現れるぞ!』と。ハーフタイムはそれを全力で言いました。そこにチームの弱い心が出るから、『戻れ!全力で戻れ!』と。前半の1点目はそれがなかったからで、攻守の切り替えとプレスバックで戻ることをしっかりやれば、そんなに簡単にやられないと話しました」(勝沢監督)。


 まずは、守備陣が魅せる。6分に神村学園のストライカー、FW西丸道人(3年/仙台内定)が放ったシュートには、3人のDFが身体で飛び込み、DF城元諒星(3年)が執念のブロック。12分にもカウンターからフィニッシュまで持ち込まれるも、ここは鈴木がシュートブロック。右からDF長崎大吾朗(3年)、DF渡邊智紀(2年)、城元、鈴木で組んだ4バックに、GK高尾一輝(3年)も加えた守備陣の集中力は、前半以上に研ぎ澄まされていく。

 攻撃陣も呼応する。この日最大の決定機は30分。右サイドでパスを受けた途中出場のMF佐々木晄汰(3年)が、少し中央へ潜りながらディフェンスラインの裏へラストパス。走ったFW元木夏樹(3年)のループシュートはわずかにゴール右へ外れたが、このチャンスを機に「普段からどんな状況でもサッカーを楽しむヤツら」と鈴木も言及する松本国際のアタッカー陣へスイッチが入る。

 34分。FW下野成偉人(3年)のキープから、佐々木のカットインシュートは枠の上へ。37分。左サイドを完璧なパスワークで崩し、MF関泰洋(2年)の折り返しはわずかに中央とズレたものの、ビッグチャンスの一歩手前まで。40+1分。元木が果敢なプレスでボールを奪い切り、下野のシュートはDFのブロックに遭うも、得点への期待値が上がっていく。

「日常のトレーニングの質を上げない限り、レベルは上がらないし、上手くならないと思っているので、1つパスして走るとか、受けるとか、守備の寄せとか、ハードワークとか、ほんのちょっとの些細な細かいところをずっと追及して、徹底して積み重ねてきました」(勝沢監督)。ファイナルスコアは0-2。勝利には手が届かなかったが、特に後半はトレーニングが透けて見えるような奮闘が印象的だった。


「勝負の世界なので、『よく頑張ったけど負けたよね』という部分はあります」と話した指揮官は、続けて「ただ、後半は自分たちのサッカーをやろうとして、繋いで、崩してと、まったく押し込まれて何もできなかったわけではなかったですよね。いろいろな人から聞くと『神村学園はとんでもない相手だ』と。大敗しているチームの話もいっぱい聞いていたんですけど、やれないことはないんじゃないかと感じましたね」と一定の手応えも口にする。

 選手権に対する捉え方に関しても、勝沢監督の言葉が興味深い。「長野県大会に勝って、この選手権に向かうまでの期間が、生徒をものすごく成長させてくれました。ちょっと組み合わせが決まるのは遅かったですけど、神村学園という強豪校に決まったところで目標設定を明確にして、『どうやれば勝てるんだ?』と考えて取り組む過程こそが、選手権の最大にして一番の良さかなと思っているので、そこに向かって生徒たちはよく頑張ったと思います」。

 キャプテンの鈴木も『選手権に向かうまでの期間』に、チームの成長を感じていたという。「やっぱり県外に練習試合に行くと強度やスピード感が全然違うんですけど、全国出場が決まってから、相手が鹿児島県代表ということで、対戦相手が具体的に決まっていない中でも、九州のチームはスピード感も強度も全国の中でも高いチームが多いと思っていましたし、そこをより求めてやっていった中で、0-2は決して良い結果ではないかもしれないですけど、自分たちなりに戦えた結果だったかなとは思っています」。


 昨年度の大会では、1回戦で米子北高(鳥取)に1-2で惜敗。今回も初戦敗退を突き付けられたものの、チームとして積みあがっているものは間違いなくある。鈴木はこの2回の全国大会で味わった経験が、さらなる躍進を目指す礎になっていくことを信じている。

「自分たちは去年の米子北戦の負けから始まって、強度というのをベースに1年間やってきた中で、神村さんは強度に加えて上手さもあったので、よりもっと強度の軸のレベルを2段階ぐらい上げて、それに上手さとスピード感を加えないといけないんだなと感じました」。

「その課題を1年生と2年生には引き継いでもらって、自分も伝えられることはこの高校生活の残りの時間で伝えていきたいですし、後輩たちには来年もこの舞台に帰ってきて、全国で1つでも多く勝てるように頑張ってもらいたいと思います」。

 積み重ねてきたもの対する大きな自信と、積み重ねていくべきものに対する大きな期待。2023年のチームが証明してきた確かな進歩は、松本国際の歴史に新たな1ページをはっきりと、力強く刻んだはずだ。

(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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