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[MOM4600]神戸弘陵DF岡未來(3年)_2試合連続完封は意識改革の賜物。チームへの忠誠心と控えめな野心を携えた頼れる主将の絶対的存在感

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神戸弘陵高を束ねるキャプテン、DF岡未來(3年=川西市立東谷中)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.31 選手権2回戦 神戸弘陵高 2-0 前橋育英高 ニッパツ]

 2試合で6ゴールと爆発している攻撃陣に注目が集まるが、やはり2試合で連続完封を達成している守備陣の奮闘も見逃せない。中でもキャプテンマークを左腕に巻いたディフェンスリーダーが醸し出す安定感は、間違いなくこのグループの大きな“幹”だ。

「全国常連である仙台育英と、全国優勝も経験したことのある前橋育英と、その2チームをゼロで抑えたということは、ディフェンス陣にとっても自信になります。でも、これはやってきたことがしっかり出せているからなので、次の試合もやったらあかんこととやるべきことをハッキリさせたいですし、失点をゼロで行けたら負けないと思うので、そこにこだわってやっていきたいと思います」。

 冷静と情熱を兼ね備えた、クレバーな主将。神戸弘陵高(兵庫)を逞しく束ねるDF岡未來(3年=川西市立東谷中出身)のリーダーシップは、さらなる上位進出をしたたかに狙うチームに、揺るがぬ1本の太い軸を通している。


 何度も口にしたキーワードは、『球際、切り替え、ヘディング』だ。それを実感したのはインターハイの初戦で、今季のプレミアリーグ王者となった青森山田高(青森)と対峙した一戦。1-3と敗れた試合の中で、大きな差を感じたのがその部分だった。

「山田との試合で『切り替え、球際、ヘディング』というところが全国では全然通用しないということを感じましたし、全国で勝ちたかったら山田の基準に持っていかないと勝てないと思いました。でも、そこは意識で変えられる部分なので、練習でも試合でも毎回ずっと声を掛けたりしてきたことで、そういうところの意識は上がってきたと思います」。

 何となくはイメージしていても、実際に体感するのとしないのでは大きく違う。“青森山田”という絶対的な基準を得たことで、以降のチームの着実な進化を、岡も敏感に察知しているという。「やっぱりあそこでみんなが誰かから言われたことではなくて、肌で経験できたというのが大きくて、そこで意識を変えられたかなと思います」。

 今大会は初戦で仙台育英高(宮城)に4-0と快勝を収め、迎えた2回戦の相手は前橋育英高(群馬)。プレミアリーグに在籍しており、昨年度のインターハイでは日本一に輝いた強豪だが、神戸弘陵のやるべきことは明確だった。

 この日の守備面での留意点を、岡はこう明かす。「入れ替わりが多いチームだったので、受け渡しの声だったり、付いていく声だったり、裏に抜けていく時の声を、守備ラインはしっかり掛けられていたと思います。なので、間に入ったボールもボランチが先に触れましたし、背後へのボールもあまりやられていなかったので、そういう処理はみんなでうまくできていたのかなと思います」。

 前半のうちにセットプレーから先制すると、後半に入っても高い位置でのボールカットから追加点。攻撃陣が躍動する一方で、守備陣もアジリティの高い選手が揃う前橋育英のアタッカーたちに自由を与えない。終わってみればほとんど決定機を作られることなく、難敵相手に無失点勝利を完遂。その中心を担った岡の存在感は、やはり絶大だった。

 それでも、試合後には反省点が口を衝くあたりにも、このキャプテンのあくなき向上心が滲む。「守備の部分ではゼロに抑えられているんですけど、ちょっとした細かいミスがあることは自分の中で感じているので、そこも試合を追うごとに成長していきたいですし、まだ『こういうプレーをしてくるんだな』と試合中に気付くこともあるので、そういうところでも成長していかないと優勝はできないと思うので、一喜一憂せずに1つ1つのプレーを見つめ直していきたいと思います」。

 とはいえ、もちろん岡だって野心を秘めていないわけではない。個人として選手権に懸ける想いも、本人はこう明かしている。「チームというより個人の目標としては、プロに行くような選手を止められたら、どの試合も失点ゼロで抑えられたら、もっともっと注目されると思うので、僕もプロを目指している中で、将来の自分のためにもなるのかなと。もちろんチームが勝つことが一番ですけど、自分が相手の良い選手を抑えたらチームも負けないと思いますし、そこの目標を持ちながらやっていきたいです」。

 もともと左サイドバックも兼任しているだけに、攻撃への意欲も十分。次々と得点を重ねるチームメイトの躍動に、自身の結果ももちろん狙い続けている。「ゴールは獲りたいと思っているんですけど、やっぱりゼロで抑えたい気持ちの方が強いですし、今年は自分より前の選手の方が点を獲れると思うので、そこは任せながらも、あわよくばセットプレーやカウンターで点が獲れたらなという感じです」。謙虚な物言いも、ある意味ではこの人らしい。

 3回戦の相手は神村学園高(鹿児島)。大会注目のアタッカー陣が揃う優勝候補だが、岡には怯むつもりなんて微塵もない。「名前という部分では有名な選手が多いと思うんですけど、『やってやろう』と思っている選手もウチには多いので、そこを倒したらもっと注目されますし、一気に弘陵の名前も知られると思うので、全然腰が引けるつもりはないですね。どんな相手でも自分たちらしいサッカーを出して、ベースの部分を徹底できれば、絶対勝てると思うので、そこをもう1回見つめ直して、次の試合も戦っていきたいと思います」。

 絶対的なチームへの忠誠心と、控えめな野心を携えた、頼れるキャプテン。新たな歴史を打ち立てるための未来は、自分の力で切り拓く。神戸弘陵の最終ラインには、いつだって岡が凛とした姿勢で、そのど真ん中に立ち続けている。

(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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