beacon

[MOM4608]市立船橋MF岡部タリクカナイ颯斗(2年)_コンバート直後のCBでスタメン抜擢のマルチロールが「プラマイゼロ」の決勝弾!

このエントリーをはてなブックマークに追加

市立船橋高の決勝ゴールを挙げたMF岡部タリクカナイ颯斗(2年=柏レイソルU-15出身)(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[1.2 選手権3回戦 市立船橋高 4-1 星稜高 柏の葉]

「もう、取り返すしかない」と思っていた。自らの目の前で決められた同点ゴール。責任を感じないはずがない。高さには自信がある。心の中で念じる。「オレのところに飛んでこい」。キャプテンの蹴ったCKの軌道は、自分を目がけて飛んでくる。

「ニアに来たボールにイメージ通りに触れたので、良かったかなと思います。まずは安心しましたね。失点を取り返せたので、あそこでスタートラインに立ったというか、『またゼロからスタートできるな』という感じでした」

 伝統の堅守を司る市立船橋高(千葉)のセンターバックとしてスタメンに抜擢された、183センチの大型マルチロール。MF岡部タリクカナイ颯斗(2年=柏レイソルU-15出身)が『プラマイゼロ』の決勝ゴールで、勝利の主役を鮮やかにさらっていった。

 
 初戦の高川学園高(山口)戦は後半40分からの途中出場。2回戦の帝京長岡高(新潟)戦は出場機会が訪れず、PK戦で勝利したチームをベンチから見守った。「1回戦、2回戦とあまり試合に出ていなくて、ずっとベンチでウズウズしていた」という岡部は、しかし星稜高(石川)と対峙する大事な3回戦のスタメンに指名される。

「試合前は緊張というよりは、『やっと自分の出番が来た!やってやろう!』という想いが強かったです」という岡部だったが、実際に試合が始まると、その独特の空気感に圧倒される。「ピッチに入ったらだいぶ緊張しましたね。『これが選手権の難しさなのかな』って」。

 チームは前半18分に先制したものの、少しずつ星稜の勢いに押し込まれ始めると、29分には右サイドからのグラウンダークロスで同点弾を献上する。「マークもしっかり付けていたんですけど、自分の前でフリックみたいな感じで触られて、失点した感じでした」。マークに付いていたはずの選手に鼻先で一瞬早く触られてしまったセンターバックの岡部は、そのシーンを悔しそうに振り返る。

 失点直後は「ヤバい……」と気落ちしかけたものの、すぐさまメンタルを立て直す。36分。市立船橋が右サイドで獲得したCK。キッカーのMF太田隼剛(3年)がスポットに立つと、岡部は心の中で念じる。「オレのところに飛んでこい」。

 太田の蹴り込んだキックはイメージ通り。ニアサイドに潜って、頭で流し込んだボールはそのままゴールネットへ弾み込む。

「1失点目はそもそも自分のところでやられたので、『取り返してやろう』という想いがメチャメチャ強くて、その感じでゴール前に入ったら、隼剛のボールが本当に良かったので、自分は触るだけでした。でも、自分のせいで失点したので、“プラマイゼロ”かなと思います」。高さと得点感覚が融合した岡部のファインゴールで勝ち越した市立船橋は、後半にも2点を追加して4-1で快勝。試合の展開を考えても、前半のうちに挙げた“決勝点”が、勝利に与えた影響は絶大だった。


「ずっとフォワードをやっていたんですけど、後期に入ってボランチでスタメンになったり、プレミアの終盤はセンバでスタメンだったり、フォワード、ボランチ、センバは全部やっています。スタッフにも『プロになるならいろいろなところをできないとダメだし、いろいろなことができることを強みにしろ』と言われているので、今は縦ラインは全部やっていますね」と本人も語るように、そもそも今シーズンのスタート時はフォワードが主戦場。センターバックで起用され始めたのは、ごく最近のことだ。

 今大会に入ってからも、ここまでの2試合はDF五来凌空(3年)がセンターバックに入っていたものの、「いろいろなところをできるのが彼の良さでもあったんですけれども、センターバックをやったプレミアの試合や直前の練習試合で良いパフォーマンスが続いていたので、今日もセンターバックで使おうと思いました」とは波多秀吾監督。この日の岡部のプレーもあるいは初見であれば、“本職”だと感じるほどのパフォーマンスだったのではないだろうか。

 ただ、本人はまだフォワードにもやや未練を残しているという。「最初は『フォワードをやりたい』とスタッフにも言いました。だけど、センバでやると決まった以上は、1回私情は捨てて、『チームのためにやろう』という想いになりました。自主練の時間もフォワードをやりたいので、シュート練をやっているんですけど、そうすると『オマエはセンバの練習をしろ』みたいに言われるので(笑)、センバの練習をしています」と明かした笑顔には、まだ17歳のあどけなさが滲む。

 それでも、任されたポジションを100パーセントでやり切るのは、この日本一を義務付けられた伝統あるチームの選手であれば当然のタスク。「スタッフにも『センバらしくなってきた』と言われています」と口にした岡部も、そのことは十分すぎるほどにわかっている。

「嬉しさはある反面、得点以外の内容は自分のプレーもあまり良くなかったので、今日の試合で出た反省を自分の中で1つずつ整理したいですし、スタメンでもサブでもチームの勝利が一番の目的なので、次の試合もチームの勝利に向けて、やるべきことをやるだけだと思います」。

 スタメンでも、サブでも、センターバックでも、ボランチでも、それこそフォワードでも、やるべきことは変わらない。頂点だけを目指す市立船橋のキーマン候補。岡部はここから先もチームの勝利のためだけに、最大限の準備を整えていく。

(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

TOP