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2回戦のPK失敗に「今日は自分が取り返そう」と定めた決意。市立船橋DF内川遼が得意の左足で強烈な先制弾!

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豪快なゴールを挙げた市立船橋高DF内川遼(3年=Wings U-15出身、3番)(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.2 選手権3回戦 市立船橋高 4-1 星稜高 柏の葉]

 コースは見えた。タイミングもバッチリ。あとは思い切って振り抜くだけ。対峙したGKは不運と言うしかない。持っている男の、持っている左足が、とうとう炸裂してしまったのだから。

「自分の中では、相手に当たったところもあったので、ちょっとラッキーなゴールかなという感じもあったんですけど、結構押されている展開の中だったので、流れを変えるゴールになったかなと思います」。

 圧倒的な左足のパンチ力と精度を併せ持つ、市立船橋高(千葉)が誇る攻撃的左サイドバック。DF内川遼(3年=Wings U-15出身)の強烈なシュートが、チームに大きな先制点をもたらした。


 星稜高(石川)と激突した3回戦。前日の能登半島地震の影響もあり、背負うものの大きな相手の勢いは、内川も敏感に察していた。「自分たちも『相手は凄い勢いで来るぞ』というふうに話していて、それに飲まれないように普段以上の勢いを意識して入ろうというところもありました。その中でも思っていた以上に相手にペースを握られて、奪い返すのも凄く速いので、いつもみたいにボールを落ち着かせてというのができていなかったですね」。

 少し嫌な雰囲気も漂いかけていた前半18分。チャンスは唐突にやってくる。右サイドから中央へ展開された流れから、MF森駿人(3年)が丁寧に左へ。内川が上げたクロスはDFに跳ね返されたものの、こぼれたボールは自らの目の前に転がってくる。

「自分の中では落ち着いていて、シュートコースは結構見えていたので、『決めてやろう』と思いましたし、ちょっとアウトに掛けて、ファーを狙うという意識で打ったら、うまくゴールに吸い込まれて良かったです」。左足一閃。軌道はDFをわずかにかすめながら、右スミのゴールネットへ突き刺さる。

「コーチから『どんどんオマエの強みのシュートを狙っていけ』と言われていたので、インパクト強く打てました」。先制点を手にすることに成功した市立船橋は、その後にいったん追い付かれたものの、そこから3点を奪い切って快勝。ゲームの流れを考えても、内川の一撃がチームにもたらした勢いは語り落とせない。


 波多秀吾監督も、その“持っている”男ぶりはもちろん認識している。「彼はああいう大事な場面で凄くパンチのあるシュートを決めてきたので、今日もしっかりと決めてくれたのは凄く大きかったと思います」。

 実は今年度のインターハイでも豪快なゴラッソを決めている。2回戦の大津高(熊本)戦。1点をリードされた後半に左足で打ち切ったシュートは、凄まじい弧を描いてゴールネットへ突き刺さった。

 ただ、やはり選手権のゴールは格別のようだ。「圧倒的にインターハイの方がインパクトに残るゴールではあったんですけど、それでもやっぱり選手権は注目のされ方も違いますし、どっちも良いゴールではありながら、今日のゴールは気持ちの入ったゴールの1つだったと思います」。弾けた笑顔が、その1点の価値を如実に現わしている。


 2回戦でチームメイトたちに救われたことは、もちろん忘れていない。帝京長岡高(新潟)と対峙した今大会屈指の好カードは、1-1でPK戦へともつれ込む。先攻の帝京長岡の4人目まで全員が成功させる中、後攻の市立船橋4人目のキッカーとして登場した内川のシュートは、相手GKに弾き出されてしまう。

「思った以上に相手が上手くて強かったので、自分もあまり存在感を出せているわけではなかった中で、あのPKになって、『とにかく強く、角に蹴ろう』と思ったんですけど、キーパーに止められてしまって……」。絶体絶命のピンチ。だが、帝京長岡5人目のキックを、今度は市立船橋のGKギマラエス・ニコラス(2年)がビッグセーブ。チームは守護神の躍動で窮地から生還すると、6人目で勝利を手繰り寄せる。

「外した時点で味方を信用するしかなかったので、もう切り替えようと思ったら、ニコラスが止めてくれて。みんなに後々聞いたら『オマエは外すと思ってたから』と言われました(笑)。でも、自信を持って味方を信じることができているので、そこもこのチームの強みの1つかなと思います」。

 だからこそ、この日の試合には並々ならぬ決意で臨んでいた。「この間は本当に味方に救われたので、『今日は自分が取り返そう』と思って試合に入りましたし、やっぱりイチフナの強みとしては、仲間のために頑張るというところがあるので」。

 ゴールである程度は“取り返した”感覚はあるが、ここからのさらなる活躍がより重要。みんなで掲げた日本一へと辿り着くためには、まだまだこんなパフォーマンスでは物足りない。「今日は攻守にわたってまあまあ悪くなかったかなと思っていますけど、ここからもう一段階活躍できるように頑張っていきたいです」。

 左サイドを駆け上がる市立船橋の青いイナズマ。内川はチームのために、仲間のために、勝利のために、その左足を、何度でも、何度でも、全力で振るい続ける。

(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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