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『全国優勝した次の代』というプレッシャーと向き合った1年間。岡山学芸館・田口裕真主将「去年優勝してからここまでは、今から振り返れば楽しかった」

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全国連覇に挑んだ岡山学芸館高はPK戦で無念の敗退。(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.2 選手権3回戦 岡山学芸館高 1-1(PK5-6) 名古屋高 柏の葉]

 望むと望まざるにかかわらず、『全国優勝した次の代』という称号が付いて回った1年間。想像を絶するような重圧が掛かっていなかったはずがない。でも、自分たちだけが目指すことを許された全国連覇を追い求める時間は、メチャメチャ苦しかったけど、メチャメチャ楽しかったのだ。

「今年の選手権の結果としてはベスト16というところで、どうしても去年の結果と比べてしまいますけど、自分たちの代で全国大会に出ることができて、このベスト16まで来ることができたこのチームを心から誇りに思いますし、1年間やり続けた成果をこの全国大会で出せたので、本当に良かったなと思います」(岡山学芸館高・田口裕真)。

 前回大会王者として臨んだ岡山学芸館高(岡山)の選手権は、3回戦でその行く手を阻まれたが、みんなで辿り着いた全国16強という成果には、大いに胸を張っていい。


「新チームが始まった当初は、先輩たちが残してくれたものは凄く大きなもので、なかなかチームもうまく行かなかったんです」。FW田邉望(3年)がそう振り返ったように、昨年2月に開催された県新人戦では準決勝で作陽高に、3位決定戦で就実高に続けて敗れ、中国新人大会への進出権も喪失。新チーム最初の公式戦でいきなりつまずいてしまう。

 周囲からはどうしても『日本一のチーム』という目線で見られる中、結果を出せなかったことで、「自分たちの代は、本当に最初の頃は後輩たちにも迷惑を掛けてばっかりで、全国大会にも出られるかわからないぐらいの代でした」とキャプテンのMF田口裕真(3年)はそのころのチームの状態を振り返る。

 ただ、その苦い経験を“良薬”にするだけの力も、今年度の3年生にはあった。インターハイ予選では決勝で作陽にリベンジを果たし、本大会でも1つ勝ってベスト16へ進出。敗退は許されない選手権予選も、準々決勝で就実を撃破すると、ファイナルで新人戦王者の玉野光南高に競り勝って、全国切符を獲得。連覇への可能性を逞しく繋いでみせた。

 チームを率いる高原良明監督も、選手たちが着実に重ねた成長を認めている。「去年の選手権は誰もウチが優勝するとは思っていなかったと思うので、その中で優勝させていただいたことで注目も浴びましたし、そんな中でスタートした新チームが新人戦で転んだりして、うまくスタートを切れなかったところから、インターハイを獲って、選手権を獲りましたし、彼らもいろいろなプレッシャーがある中で、ここまで本当によく成長してくれたなと思います」。


 幕を開けた、2年連続日本一への挑戦。初戦となった2回戦ではいきなり優勝候補の一角と目されていた尚志高(福島)と対峙したが、MF木下瑠己(3年)の2ゴールで鮮やかな逆転勝利。3回戦では今大会の台風の目になりつつあった、初出場校の名古屋高(愛知)と対峙する。

「前半で決め切れなかったところで、この試合もすべてが自分たちのプラン通りということではなかったですね」と田口が話したように、攻勢に出た最初の40分間でゴールを仕留め切れず、逆に後半17分にはロングスローから失点を喫してしまう。

 ビハインドを負った展開の中で、岡山学芸館もアクセルを踏み込んだものの、攻めても、攻めても、ゴールが遠い。それでも歓喜の瞬間は終了間際に訪れる。アディショナルタイムへ突入する直前の40分。田邉が蹴ったFKを田口が執念で繋ぐと、FW太田修次郎(2年)のシュートがゴールネットを揺らす。

「あの得点は本当にチームで獲った1点だと思うので、ああいうところで試合を振り出しに戻せるチーム力は、あのゴールで出せたのかなと思います」(田口)。起死回生。1-1。準々決勝へと勝ち上がる権利はPK戦で争われることになる。

 後攻の名古屋7人目のキックが成功すると、岡山学芸館の選手たちはピッチの上に崩れ落ちる。「本当に諦めずに、最後に点を獲ってくれたことでPKになったので、平塚(仁)が何とか止めてくれるという想いで送り出しましたけどね。相手のキッカーも1人1人集中力を持って決めてきましたので、本当に良いチームだなと思いました」(高原監督)。目指してきた全国連覇の野望は、ベスト16で打ち砕かれた。


「日本一というところに後輩を連れていきたかったですけど、自分たちの力はすべて出したかなって。この前の試合も、今日の試合も、自分たちのサッカーを全国に見せられたと思うので、悔いはないですけど、結果が欲しかったという想いはあります……」。取材エリアに現れた田口は、そう話しながらも涙が止まらない。

 この大会の2試合を経たチームの進化を、指揮官ははっきりと感じていた。「もともとはわがままというか、『自分が、自分が』という選手が多かったんですけど、それがここに来て本当に『チームになった』というか、チームの勝利のために自分がどういうプレーをしないといけないかということがよくわかっていて、チームとしての輪がしっかりとできた大会だったなと思います」。

 少しずつ冷静さを取り戻した田口が、この1年間を改めて振り返る。「想像以上にプレッシャーもありましたし、いろいろな声というのも耳に入ってきましたけど、それを跳ね返そうという気持ちで1年間やってきましたし、尚志の試合はそれを跳ね返して、学芸館のサッカーを見せられたと思うので、この1年間は全国優勝した次の代のキャプテンとして見られてきましたけど、自分としては本当に成長できた1年だったと思います」。

 ちょうど1年前。彼らは『全国優勝した次の代』という宿命を背負った。その中で戦い続けることは、きっと味わった者にしかわからないような、とてつもないプレッシャーと隣り合わせの日々だったに違いない。でも、それは同時に今年度の岡山学芸館だけに許された、成長を遂げるための“おまもり”だったのかもしれない。

『全国優勝した次の代のキャプテン』の重責を果たし切った田口は、最後に少しだけ笑顔を浮かべて、こう言い切った。「自分が思い描いていたような1年ではなかったですけど、最後にベスト16まで来ることはできましたし、この代のキャプテンをやれて良かったです。去年の選手権で優勝してからここまでは、今から振り返れば楽しかったなと思います」。

 全国連覇へ堂々と挑み、1月2日までシーズンを戦い抜いた『全国優勝した次の代』の岡山学芸館の選手たちに、最大限の敬意を。

「全国優勝した次の代のキャプテン」。岡山学芸館高MF田口裕真


(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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