beacon

進撃の名古屋、勢い止まらず!前回王者・岡山学芸館をPK戦で撃破して新目標の「国立へ戻る」まであと1勝!

このエントリーをはてなブックマークに追加

名古屋高は前回王者を破って全国8強!(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.2 選手権3回戦 岡山学芸館高 1-1(PK5-6) 名古屋高 柏の葉]

 全国で3度も勝利の美酒を味わい、最後の8チームに残ったのだ。もう初出場だとか、進学校だとか、そんな枕詞をわざわざ付ける必要はあるまい。ただ、シンプルに強い。彼らは、間違いなく強い。

「自分たちは攻撃力のある全国の強豪に対しても、全員で戦えば通用するということがわかったので、守備では自信を持ってやれていますし、攻撃でもどれだけ攻められても、セットプレー一発でチャンスになったり、得点できたりしているので、本当にそれを自信に次の試合も戦っていこうと思います」(名古屋高・田中響貴)。

 今大会2度目のPK戦を制して、堂々の全国8強!第102回全国高校サッカー選手権は2日、各地で3回戦を行い、県立柏の葉公園総合競技場の第2試合では快進撃の続く名古屋高(愛知)が、連覇を狙う岡山学芸館高(岡山)をPK戦の末に撃破。4日の準々決勝では市立船橋高(千葉)と対戦する。


 まずはお互いにフィニッシュを取り合う。前半3分は岡山学芸館。左からFW田邉望(3年)が蹴り込んだCKに、ファーで合わせたDF平野大樹(3年)のヘディングは枠の右へ。6分は名古屋。DF太田陸斗(2年)の好フィードに、走ったFW小川怜起(3年)のヘディングはゴール左へ。16分は岡山学芸館。右から田邉が投げ入れたロングスローから、MF山河獅童(3年)が叩いたシュートは枠の上へ。18分は名古屋。DF月岡陸斗(3年)の左ロングスローから、MF川瀬陸(2年)が狙ったミドルはクロスバーを越えたものの、どちらもゴールへの意欲を前面に滲ませる。

 ただ、徐々にペースを引き寄せたのは岡山学芸館。「『縦に速いボールポゼッション』というコンセプト」(高原良明監督)の元に、2トップのFW香西健心(2年)とFW太田修次郎(2年)をシンプルに使いつつ、右の田邉、左のMF木下瑠己(3年)を生かすアタックが機能し始め、攻勢に。

 24分にはGK平塚仁(3年)のフィードからこぼれを田邉が残し、香西が30mミドルを枠へ収めると、ここは名古屋のGK小林航大(3年)がファインセーブで回避。28分にも田邉が蹴った右CKから、フリーで放った太田のシュートは小林の正面。「相手がかなり強かったので、前半は1失点したらまずいなというところで、ゼロで帰ってきてくれたのは良かったですね」と名古屋を率いる山田武久監督が話せば、「前半のところで1点獲れておけばというところもありましたね」とは高原監督。岡山学芸館が押し込んだ前半は、スコアレスで40分間が終了する。


 後半に名古屋が打った“布石”は選手交代。スタートから右ウイングバックにFW齋藤力(2年)を投入。「後半は右サイドに右利きの子を置いたので、右前のスペースにちょっと蹴りやすくなって、それで右サイドでCKが獲れたり、今度は逆サイドも空いてくるので、バランスが良くなったかなというのが戦術的なところです」と山田監督も話したように、前半よりも右の小川、左のFW原康介(3年)の両ウイングを生かしたアタックも増加し、それに比例してセットプレーの数も伸びていく。

 衝撃の先制点は17分。後半は投げる回数も増え、“肩”の温まってきた月岡が右から投げたロングスローは、グングン伸びてGKの頭上を越えると、ファーに潜っていた田中がダイレクトボレーでボールをゴールネットへ流し込む。「今日は試合前から自分に来る気がしていた」というキャプテンの貴重な一撃。名古屋が1点をリードする。

 ビハインドを負った岡山学芸館は「後半の途中からシステムも4枚に変えて、サイドに起点を置きながら、という感じにしました」と高原監督も言及した通り、システムも3-5-2から4-4-2気味に変更する勝負の一手を。28分には木下の左クロスに、FW木村奏人(3年)が合わせたヘディングは枠の右へ逸れたものの、ここから意地の猛攻が幕を開ける。

 29分。田邉の右ロングスローから、こぼれを拾った田口のシュートは太田がブロック。31分。田口が右へ振り分け、田邉が狙ったシュートは名古屋の3バックを中央で束ねるDF井上款斗(2年)がここも身体でブロック。攻める岡山学芸館。守る名古屋。32分。代わったばかりのDF持永イザキ(3年)が右ロングスローを投げ入れ、木下のフィニッシュは小林がファインセーブで仁王立ち。39分。左サイドでマーカーを外した木下のシュートは、ポストを直撃。どうしても1点が奪えない。

 だが、岡山学芸館は倒れず。40分。ピッチ中央から田邉が右へと丁寧に蹴ったFKを、田口が執念で折り返すと、右足で合わせた太田のシュートがゆっくりとゴール左スミへ吸い込まれる。「本当にチームで獲った1点」(田口)で土壇場から蘇った前回王者。準々決勝への進出権はPK戦で争われることになった。

 ともに3人目までは全員が成功。4人目は先攻の岡山学芸館がキックを成功させたものの、後攻の名古屋のキッカーは左ポストにぶつけてしまう。「『ああ、窮地に立たされたなあ』と思いました」(山田監督)。決めれば勝利の岡山学芸館5人目。左スミを狙ったキックは、しかし小林が懸命に触るとポストを叩き、ピッチの中へ戻ってくる。名古屋の5人目は確実に成功。試合はまだ終わらない。

 6人目はどちらも成功。先攻の岡山学芸館7人目。左に打ち込んだキックは、再び小林が横っ飛びで弾き出す。後攻の名古屋7人目は川瀬。左に蹴ったボールは、コースを読んだ平塚の伸ばした手を潜り抜け、ゴールネットへ到達する。

「正直6本目以降のところは未知の状況だったんですけれども、練習の成果が実ったかなと思っております」(山田監督)。まさにチーム一丸で掴んだ“3勝目”。粘るディフェンディングチャンピオンを振り切った名古屋が、全国ベスト8へと勝ち名乗りを上げた。


 開口一番、「年を取ってきて、涙腺が緩くなっておりますので、毎試合泣いております」と赤い目で口にした山田監督の続けた言葉が興味深い。「私はかねてから『1個勝てればいい』と言っておりましたので、選手も『ベスト16』ということを目標として言っていました。ただ、昨日のミーティングで『ここからの目標はなんなんだ?』ということを聞いた時に、それぞれがバラバラで『優勝したい』とか『国立に行きたい』とか、そういう声が上がってきていたので、『ちょっと1個にまとめよう』と」。

 その話を引き取るのは、キャプテンの田中だ。「最初に大会が始まる前はベスト16が目標というところで、それは前回勝ったことで達成できたので、『また次の目標を立てよう』ということで自分たちでミーティングをして、優勝という意見ももちろん多かったんですけど、その過程の中で『まずは国立に戻ろう』ということでまとまりました」。

 再び指揮官の弁に戻る。「それで昨日選手がミーティングをして、『国立に戻る』という目標を決めましたので、『じゃああと2つ勝たないといけないな。それは大変だぞ』と言って、今日のピッチに送り出しました」。このあたりのやり取りにも、チームの良好な雰囲気が垣間見える。

 “あと2つ”は、“あと1つ”になった。それでも良い意味で名古屋の選手たちに気負いはない。準々決勝の市立船橋高戦への意気込みを問われた田中も、実に地に足がついている。

「今回勝ったことで、自分たちが若干ダークホースみたいに持ち上げられるところはあると思うんですけど、そこは気にせずにやりたいですし、相手が完全に格上でも、自分たちもここまで勝ち上がってきたという自信も持って、しっかり勝てるように試合までの間に準備して、挑みたいと思います」

「やっぱりここまで勝ち上がってきたのも、チームの一体感だったり、個に対して組織で守るという意識の元にやっていることが要因なので、次もゴール前で身体を張って守ったりしている姿を見てもらいたいですし、愛知県のチームが全国の強豪に対しても対等にサッカーをやれていることを、愛知県の人たちにも見てほしいと思います」。

 上方修正した2つ目の目標達成までは、「入学した時は考えすら浮かばないぐらいの感じで、考えられないような舞台」(田中)までは、あと1勝。確実に見えてきた、国立競技場の綺麗な芝生のピッチ。進撃の名古屋、全国のステージで絶賛躍動中。

(取材・文 土屋雅史)

土屋雅史
Text by 土屋雅史

TOP