beacon

国立競技場に初得点を刻んだ堀越…PK奪取した高木琉世は“ボトムアップ”に夢を見る

このエントリーをはてなブックマークに追加

堀越高FW高木琉世(3年/左)

[1.6 選手権準決勝 近江 3-1 堀越 国立]

 敗戦濃厚も堀越高(東京A)の選手たちは試合終了のホイッスルまであきらめなかった。途中出場のFW高木琉世(3年)は後半アディショナルタイムにPK奪取の活躍。キッカーをキャプテンFW中村健太(3年)に託し、初めて踏みしめた国立競技場に意味ある1得点を刻んだ。

 近江高(滋賀)の猛攻を浴びた。前半11分、13分、22分と連続失点。ベンチで試合を見守っていた高木は「後半に出た場面でどういう対応をするかを考えていました」。前半を0-3で折り返すと、後半16分に高木がピッチへ。「3失点したので攻撃にどんどん圧をかけていかないといけない。点を返すことを考えて入れと指示を受けた」。左サイドから果敢に仕掛ける高木。それでも残り時間は刻々と過ぎていった。

 0-3のまま、90分が経過した。敗戦が脳裏をよぎるなか、後半アディショナルタイムでも高木はゴールを見据える。後半アディショナルタイム2分過ぎ、FW高谷遼太(3年)が敵陣PA左でボールをキープ。ゴール方向にボールが出ると、高木が全力で追いかける。「GKが出てきたのでかわしてシュートを打とうかと思った」。相手GKの手に引っかけられて転倒。PKを獲得し、最後のチャンスを得た。

 おそらく高校サッカーのラストプレーになる。高木は「自分も蹴りたかったんですけど(笑)」と本音をのぞかせながらも、仲間とともに“ボトムアップ方式”で決めた中村にPKを託した。「あの場面でキャプテンが蹴るということはものすごく大事。キャプテンが蹴らないとチームが乗ってこない」。自分たちが貫いてきたやり方を信じる。そして、頼れるキャプテンは価値ある1点を挙げた。

 喜ぶ時間はなかった。得点直後、試合終了のホイッスルが鳴った。

 リーグ戦やインターハイ予選、関東大会予選では出番はあった。だが、高木は高校サッカー最後の舞台で出場機会がほとんどやってこなかった。それでも「いざ出るとなると、緊張したりするので」と試合に出ていたイメージは忘れない。少しでも出られるなら「チームの得点に何かしら関われるようなプレーがしたかったので」と努力は怠らず、堀越の未来につながる国立初得点に結びつけた。

「ベンチで出られないつらさは自分がよくわかっている。スタンドにいる同学年のみんな、後輩、親、いろんな人が応援してくれているなかで、出た場面ではいいプレーをしたかったんです」

 高校サッカーは終わり、高木は3位入賞のメダルをかけながら帰路につこうとしていた。声をかけると「そういう取材は受けたことがないので」と驚きつつ、「悔しいけど、何よりもチームがここまで上がってこれたことはすごくうれしい。後悔はまったくない」と表情は晴れやかだった。

「キャプテン、高谷(遼太)、吉富(柊人)、(吉荒)開仁たちが1年生から出ているなかで、自分たちはずっとBチームで活動してきた。3年生になったばかりのときはあんまり(中村)健太たちに乗っかれなかったけど、どうにか経験している4人に乗っていかないと上は目指せないと思っていた。みんなで固まって健太たちに乗っかって上を目指せました」

 卒業後は大学でサッカーを続ける。しかし、サッカーと同じくらい大切にしている夢がある。将来は体育教師を目指しているという。

「母方の祖父が小学校の校長で、小さいころから人に教えることの楽しさを教えてもらっていました。自分で考えるということが身に付いたので、(ボトムアップ方式の)考えを子どもたちに落とし込みたい。経験を生かしてサッカーの指導や体育の指導をがんばりたいです」。選手主導で学んだかけがえのない経験。それを大切に抱え、青年は新たなステージに向かっていった。

(取材・文 石川祐介)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
石川祐介
Text by 石川祐介

TOP