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ゴールだけでは測れないエースの不思議な存在感。堀越FW高谷遼太「最後のPKまで諦めずにチームの一員として戦えた」

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堀越高のエース、FW高谷遼太(3年=VERDY S.S.AJUNTジュニアユース出身)

[1.6 選手権準決勝 近江高 3-1 堀越高 国立]

 ピッチに立った5試合で9度にわたって放ったシュートは、ついにゴールネットへ届かなかった。エースとしての仕事は果たせなかったかもしれないけれど、このチームで、この仲間と、こんな素晴らしいスタジアムで一緒にプレーできたことが、何より最高の宝物だ。

「少ないチャンスの中で決め切るのがエースだと思うんですけど、今回の選手権ではそういう場面で決め切ることができなかったので、こういう舞台でも結果を出せるように、大学でも成長したいと思います」。

 堀越高(東京A)のセンターフォワードを3年間任され続けた、押しも押されもせぬエース。FW高谷遼太(3年=VERDY S.S.AJUNTジュニアユース出身)はやり切った清々しい表情を浮かべながら、高校サッカーに別れを告げた。


 それはエースの仕事だった。修徳高と対戦した選手権予選決勝。1点のビハインドを負ったまま、時計の針は既に後半40分を指していた。おそらくはラストチャンス。ゴール前に入っていた高谷の頭上に、クロスが上がってくる。

「最後にそういうチャンスが回ってきたら、絶対に競り勝ちたいと思っていました」。高い打点で合わせたヘディングは、美しい軌道を描いてゴールネットへ。この得点で追い付いた堀越は、PK戦の末に全国切符を獲得。実はこれが今予選で挙げた初めてのゴールだった高谷が、「初ゴールがここまで遅れたので、チームには申し訳ないと思っていますけど、これを機に全国でも得点したいなと思っています」と苦笑していた姿が印象深い。

 2年ぶりに帰ってきた冬の全国大会。チームが快進撃を続ける中、高谷は前線からのプレスに奔走し、身体を張ってボールを収める献身的なプレーで、勝利には貢献し続けるものの、自分の結果が付いてこない。「なかなか良い形でボールが入ってくることは多くないですけど、その中でもしっかりキープして、攻撃の基点になるようにはずっと心がけてきました」。たとえ点が獲れなくても、高谷がピッチにいる意味はみんながわかっていた。

 迎えた準決勝。会場は言うまでもなく国立競技場だ。「入場した時は自分たちの応援団が一番最初に目に入ってきました」という9番は、思った以上に硬くなっている自分に気付く。「やっぱり特別な場所なので、とても緊張しましたけど、ピッチに入ったからにはやらないといけないので、切り替えはできたと思います」。芝生の上を走っていくうちに、少しずつ緊張がほどけていく。だが、チームは最初の45分間で3失点。「前半は会場の雰囲気に飲まれてしまったのかなと思います」。反撃の糸口すら掴めないまま、ハーフタイムへと突入する。

 吹っ切れた。吹っ切るしかなかった。せっかくの晴れ舞台だ。楽しまない手はない。ちょっとずつ、ちょっとずつ、堀越にも普段らしさが戻ってくる。最後の最後に回ってきたPKは、キャプテンのFW中村健太(3年)がきっちり沈める。「自分も得点は欲しかったですけど、最後のPKまで諦めずにチームの一員として戦えたので、そこは良かったかなと思います」。フル出場した高谷は、ピッチの上でタイムアップのホイッスルを聞いた。


「ここまで来たからにはやり切ると決めていましたし、その中で1点は取り返すことができたので、『やり切ったな』という気持ちが大きかったです。今大会はチームとしてどんどん試合を重ねていくにつれて成長していったので、堀越史上最高のベスト4まで行けたことは良かったですけど、今日みたいに相手の勢いに飲まれてしまわないように、後輩たちもやらなきゃいけないことはあるので、しっかり来年は頑張ってほしいと思います」。試合後。高谷はいつも通り淡々と、終わったばかりの90分間を振り返る。

 そんな素振りは見せずに、いきなり面白いフレーズを挟み込んでくるのも、この人の特徴だ。「選手権の5試合はとても難しい試合ばかりで、その中で4試合はしっかり勝ち切ることができたので、それはチームとして良かったと思うんですけど、やっぱり最後の最後で負けてしまったので、そこは堀越らしいと言えば堀越らしいんですかね(笑)」。こっちも思わずつられて笑ってしまう。

「ゴール、遠かったですね」。もともと中学時代に務めていたのはボランチ。高校入学直後からトライしたフォワードとして出場した1年時も含めて、選手権でのゴールは最後まで生まれなかった。ただ、その悔しさを晴らす舞台は、きっとこれからの高谷に必ず巡ってくる。

「大学でサッカーをやる以上はプロを目指していますし、これからもこういう悔しい経験はあると思うので、今回の経験を生かして、しっかり大学でも頑張っていきたいなと思います」。

 入学当初は想像もしていなかったセンターフォワードを3年間任され続けた、押しも押されもせぬ堀越のエース。ゴールという数字だけでは測れない高谷の不思議な存在感は、国立競技場まで勝ち上がってきたチームの中で、いつだって必要不可欠だったのだ。



(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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