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聖地で高らかに歌い上げた学園歌。陽気と漢気を兼ね備える青森山田DF菅澤凱が「本職のボランチ」で貫いた120パーセントの献身

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本職のボランチで日本一に貢献した青森山田高DF菅澤凱(3年=ガンバ大阪ジュニアユース出身)

[1.8 選手権決勝 青森山田高 3-1 近江高 国立]

 3年間の最後の最後で回ってきた“本職”でのプレー。プレミアリーグと二冠の懸かった選手権だ。やり切らない選択肢なんて、あるはずもない。目の前のやるべきことを120パーセントで、全力を尽くして、自分らしく。

「悔しい想いをしながら耐えた結果として、最後にこうやってボランチでチャンスが巡ってきたのかなって。サイドバックの時期は苦しかったですけど、それが逆に自分の長所にもなったので、本当にサッカー選手としての力を付けられましたし、人間的にも一回り大きくなれたんじゃないかなと思います」。

 国立のピッチを闘犬のごとく駆けまわった、青森山田高(青森)のナンバー6。DF菅澤凱(3年=ガンバ大阪ジュニアユース出身)は望み続けたボランチのポジションで、日本一のメインキャストを逞しく担ってみせた。


 悔しさは昨シーズンから抱えていた。1つ下の後輩にあたるMF谷川勇獅(2年)が、ボランチとしてトップチームでスタメン起用される中、同じポジションを主戦場に置く菅澤はなかなか出場機会を得られない。そんな中で命じられたのは左サイドバックへのコンバートだった。

 自分はボランチの選手だというプライドは、常に持っている。でも、このチームでプレーするのであれば、そんなものは何の意味も持たない。「最初は納得が行かない部分もありましたけど、チームのためにやるべきことをやらないといけないと思って、自分のエゴなんか捨てました」。複雑な想いはいったん捨て置いて、新たなポジションへとチャレンジする。

 負けず嫌いは生来の性格だ。どうせやるなら、とことんやり切ってやる。「サッカー選手としてはプラスになると思いますし、もう高校ではサイドバックをしっかりやり切ると決めているので、やるからには日本一のサイドバックを目指しています」。きっぱり言い切る姿勢が頼もしい。

 今シーズンの公式戦では、ほとんどの試合に左サイドバックで出場していたが、選手権予選のタイミングで谷川が負傷離脱。すると、チームを率いる正木昌宣監督は、その空いたボランチへ菅澤を“再コンバート”する決断を下す。

「やっと胸を張って“自分のポジション”をできるので、逆にいいんじゃないかなって思っています」。もちろんボランチでも、尽くすのは120パーセントの献身。それはどこのポジションであっても、何ひとつ変わらない。

 ただ、サイドバックでプレーした経験は“本職”にも確実に生きていたという。「この1年間はディフェンスラインを経験して、ボランチにどこにいてほしいかということは凄くわかったんです」。自分がいてほしかった場所で、してほしかったプレーを、過不足なく実行していく。気付けばボランチとしてやれることも、以前より間違いなく増えていた。


 それはキックオフの直前だった。日本一を巡る選手権ファイナル。当然のようにボランチのスタメンに指名された菅澤が、5万人を飲み込んだ国立競技場のど真ん中で、学園歌を誰よりも大きな声で歌い上げる姿がオーロラビジョンに映し出される。

「実はメチャクチャ緊張していたんですよ。ホンマに緊張していて、『みんなもっと歌うんかな』と思っていたら全然やったので、『アレ?』と思ったんですけど、隣のヒデ(杉本英誉)がメッチャ笑ってくれて、それで緊張がほぐれたんじゃないかなって(笑)。みんなも笑ってくれましたし、関西人の血が出たところもあるので、『みんな笑ってくれたらいいかな』という感じです」。この人が発するエネルギーは、いつだってチームを明るく照らし続けてきた。

 中盤でコンビを組むMF芝田玲(3年)との連携もバッチリ。「玲は今日も前線でゲームメイクしてくれましたし、攻撃はアイツ中心にやってくれていたので、自分は侵入してきた選手を潰しまくりましたね」。大きな旋風を巻き起こして、ここまで勝ち上がってきた近江高(滋賀)の高い技術を備えた選手たちからも、菅澤は抜群の読みと気合でことごとくボールを絡め取っていく。

 もちろん改めて起用されているボランチの矜持は、自分の軸を貫いている。「去年は本当に悔しい1年間を過ごしましたけど、やっと見返すチャンスが来たというか、『“ボランチの菅澤”も見てほしいな』というのはあったので、そこは見せられたんじゃないかなと思います」。国立のピッチで“ボランチの菅澤”が存分に躍動する。

 その耳に、タイムアップの笛の音が届く。「もうぶっ倒れましたね。この3年間は本当に辛いことばかりだったので、『やっと終わったな』という気持ちと(笑)、『またこのメンバーでサッカーしたいな』という気持ちがあふれ出したので、自然と倒れこんでしまって、一人で感慨に浸っていました。最高の時間でした」。最高のチームメイトと、みんなでようやく辿り着いた日本一は、やはり格別だった。


 試合後の取材エリアで、自ら切り出して発した言葉も、なんともこの人らしい。「この選手権では、ベンチに入れなかった選手も文句1つ言わず自分たちのサポートをしてくれて、選手としては絶対に悔しい気持ちを持っているはずやのに、そういった面でチームのために犠牲心を持ってやってくれている選手が多くいるということと、スタンドの3年生も最後の大会でメンバーに入れなかったのに、ああやって声を枯らして日本一の応援をしてくれているということを忘れてはいけないなって。その中で試合に出させてもらっている自分たちが戦うのは当たり前なので、そういった選手をもっとフォーカスしてほしいなという想いがあります」。

「このメンバーも、正木さんも、コーチ陣も、応援団も、サポートしてくれているベンチに入れない選手も、本当に最高の仲間がいてくれたからこその日本一ですし、本当に最高の選手と最高のスタッフに巡り合えた結果が、こういう舞台に来れた理由だと自分は思っているので、みんなに感謝したいと思います」。

 ユーモアと漢気を兼ね備えた、関西育ちの陽気なボランチ。菅澤が披露してきた周囲を巻き込む明るさと、最適な形で仲間を引っ張ることのできるリーダーシップは、堂々と二冠を達成した今年の青森山田においては、絶対に必要不可欠だった。

(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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