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ユーモアと愛にあふれた近江・前田監督、会見でみせた教育者としての本質「過去のことは引きずらず、いまを生きる」

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近江高の前田高孝監督

[1.8 選手権決勝 青森山田3-1近江 国立]

 快進撃を指揮官は「過去」と言い切った。近江高(滋賀)は初の決勝進出も日本一ならず。前田高孝監督は「よくやった面もあれば、あと一歩足りなかった面もある。選手たちには次の目指すべき場所があるので、次の場所で過去を振り返ることなく生きていってほしい」と思いを語った。

 独自スタイルで突き進んだ。積極的なドリブルで突き進み、仲間たちがそれをカバーしながら、波状攻撃を仕掛ける。前田監督が掲げたスローガン「Be Pirates(海賊になれ)」はチームに浸透。県予選を勝ち抜き、2年連続で全国切符を掴む。元野洲高の指揮官、山本佳司氏は「滋賀は互いに自分の特長を出し合う土壌がある」と語る。滋賀の環境が近江の進化を後押しし、3度目の選手権に赴いた。

 2020年度、22年度は2回戦敗退。昨年度を経験した選手も多く残るなか、近江は全国で快進撃を始めた。2回戦でインターハイ4強の日大藤沢高(神奈川)、3回戦でインターハイ王者・明秀日立高(茨城)を撃破。準々決勝では優勝候補の神村学園高(鹿児島)を破ると、準決勝で堅守・堀越高(東京A)から3得点を奪い、初の決勝に勝ち進んだ。

 6日の準決勝を制し、中1日が開いた決勝で青森山田高(青森)と対戦することが決まった。対戦までの2日間で前田監督は青森山田を研究しつくしたという。

「青森山田さんはロングスロー、ロングボールが脅威。だけどあまり注目されていないんですが、前の子たちが上手いんです」。その上手さとは前田監督曰く、「ピッチのなかで最短最速に技術を発揮する」ということ。青森山田がフルピッチでその上手さを発揮する一方、近江はフィールドをコンパクトに考えて局面で勝つことを選択。しかし1-3で敗戦。「少しでも勝率を上げることを意識したが、彼らのがんばりを結果に結び付けられなかった指導者の未熟さが出たゲーム」と悔しさをにじませた。

 ユニークな人柄で注目を浴びた前田監督だが、選手に対する考え方は愛にあふれている。

 プリンスリーグ関西1部を2位で終えた近江は12月、プレミアリーグ参入戦に挑んで2回戦で鹿児島城西高に敗れた。指揮官はそのときの言動に悔いを残す。

「彼らに歴史を変えるぞと、最速でそういう(プレミアリーグという)場所に行ったらかっこいいぞと言っていたが負けちゃって。力を出せなかったということは僕自身申し訳なかった。今いる彼らが歴史を背負う必要はまったくない。今年の近江の色を出せばよかった」

「余計なものを背負わせすぎてガチガチだったので、今回の大会ではめちゃくちゃリラックスさせようと思った。躍動してほしいなと思ったので、意図的にのびのびしてもらいたいと、純粋に向き合えるような環境にしました」

 試合後、記者会見を優先したために、前田監督は選手たちと話さずに会見場に訪れた。記者からどんな言葉をかけるかと質問が飛ぶと、形式にとらわれずに「彼らの顔を見ないとわからない」と語りながら、教育者としての本質を言葉にした。

「一番は、優勝しても準優勝しても、過去のことを引きずるんじゃなくて、いまを生きるということ」

 会見場を笑いの渦に包んだユーモアは健在。選手権の戦いを振り返り、「本当に助けられたのはブラックサンダーとコーヒーとレッドブル。注入してずっとやっていた。無敵なんですよ、眠たくならない」と豪語する。さらに成長した選手とともに、来年度のリベンジへ。去り際には「何十年後かに帰ってこられるように」と冗談めかしていたが、本人の意志は強いはずだ。

(取材・文 石川祐介)

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石川祐介
Text by 石川祐介

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