日本代表MF伊東純也(スタッド・ランス)がいよいよ、自身初のワールドカップに臨む。「正直、学生の頃はここまで来られるイメージはわいていなかった」。無名の中学・高校時代に積み重ねてきた努力が大学時代に花開き、プロ入り後は目覚ましいステップアップを遂げてきた29歳。いまや日本の攻撃に欠かせない存在となったウインガーが、ついに夢の大舞台に立つ。

　2020年夏、伊東はプロ入りから5年間でUEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)にたどり着いたキャリアを次のように振り返った。「大学を出たらもう22歳なので、そこで早く活躍しても遅いくらいですよね。順調に来ているとは思いますが、そんなに早くはなかったなと思っています」。中学・高校では全国どころか、関東レベルでの目立った実績もなし。逗葉高から神奈川大には推薦入試で入学したが、当時は「プロはまったく見えていなかった」という。

　それでも大学入学を機に、その才能は花開いた。天賦のスピードが最大の武器ではあったものの、“速いだけじゃない”のが伊東の凄み。「『速いだけで足元がない』って言われるのが本当に嫌だったので、高校の時はスピードを使わずにずっとさばいていた」。そうした地道な積み重ねも実り、3年時には関東大学2部リーグでアシスト王に輝くと、プロの道を切り拓いた。

　そこからは順調だった。プロ入り1年目の2015年に甲府で30試合に出場すると、16年夏にはリオ五輪を目指していたU-22日本代表で初の日の丸を経験。同年に移籍した柏では3年間ほとんどのJ1リーグ戦に出場し、17年にはEAFF E-1選手権の日本代表メンバーに選ばれた。18年夏にはベルギー・ゲンクに移籍し、海外挑戦のチャンスを獲得。19-20シーズンには欧州CLの舞台にまでたどり着いた。

　森保ジャパン発足後は19年3月を除き、フルメンバーで臨んだ全ての活動に招集されてきた。新体制序盤のアジア杯やW杯2次予選ではサブでの出場が続いていたが、代表活動が長らく止まったコロナ禍で序列が一変。所属クラブで結果を残していたMF鎌田大地、MF守田英正とともに出場機会を増やし、21年9月からのW杯最終予選では押しも押されぬ主力となった。

　最終予選では3戦目のサウジアラビア戦(●0-1)こそ出場停止で欠いたが、4-3-3の新システムを導入した第4戦オーストラリア戦(○2-1)からフル稼働。史上最多タイの4試合連続ゴールなどの大活躍を見せ、7大会連続のW杯出場に導く立役者となった。そうしたパフォーマンスへの自負は口ぶりにも表れ、それまで「チームが勝てれば」「チャンスがあれば」と控えめなコメントの多かった伊東から、徐々に「自分が引っ張っていきたい」といった言葉も飛び出すようになっていった。

　9月のドイツ遠征では、カタールW杯を見据えて次のように言い切った。「1対1のところに関しては、研究されても突破しなきゃいけないと思ってますし、そういう場面では自信を持ってやりたい」。グループリーグにドイツ、スペインが同居。欧州CL通算6試合に出場してきた伊東でさえそう対戦機会のない相手が立ちはだかる中でも、日本の攻撃を牽引していく覚悟をにじませた。

　そんな伊東の武器には、ドイツで戦うチームメートも太鼓判を押している。伊東がマッチアップする見込みの左サイドバックにはDFダビド・ラウム(ライプツィヒ)、DFクリスティアン・ギュンター(フライブルク)と攻撃的なタイプが並んでおり、鎌田からは「行けると思うよ」と伝えられた様子。伊東は「アイツはちょっとアレだけど……」と“自信家”の後輩に苦笑いも浮かべていたが、サイドバックのDF酒井宏樹(浦和)らと攻略のイメージを膨らませているようだ。

「酒井くんとかといつも相手がどこまでついてくるか、自分がついてくか、受け渡し、カウンターでどのポジションを取るかを話しているけど、うまくサイドバックの裏を突くことができれば。そこで自分が下がりすぎて行ったら裏のスペースを突くのも時間がかかるし、良い場所取りをしていくかが大事」

　17日に行われたW杯前最終戦となるカナダ戦(●1-2)は所属クラブでの勤続疲労を考慮されてか出場機会はなく、コンディションは万全。「もちろんプロになって代表になってW杯に出てやろうとは思っていたけど、学生の頃はプロになるぞという気持ちだけだった」という立場からのワールドカップへ大舞台でブレイクを遂げる準備はできている。

(取材・文　竹内達也)

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