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刈り上げヘアで“全部落とした”DF菅原由勢、苦境でも明るいムードメーカーの矜持「男だけの集団というのもあるんでね(笑)」

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DF菅原由勢(AZ)

 日本代表がアジアカップ決勝トーナメント初戦を2日後に控えるオフ明け、DF菅原由勢(AZ)はサイドの髪をすっきりと刈り上げ、気合の入ったツーブロックスタイルで練習場に姿を見せた。「いらないものは全部落とそうと(笑)。いらないものはパッと捨てて、新しいスタイルで行きます」。そう言って報道陣を笑わせつつも、吹っ切れたような表情には覚悟が宿っていた。

 カタールW杯後の第2次森保ジャパンで台頭した菅原は今大会、初戦ベトナム戦(○4-2)、第2戦イラク戦(●1-2)に先発出場。幅を広く取って攻めてくる相手に対し、数的不利の対応を迫られる場面が相次ぎ、対人対応の後れで複数の失点に絡むなどらしくないパフォーマンスが続いている。その上、第3戦インドネシア戦(○3-1)では代わりに出たDF毎熊晟矢(C大阪)が存在感を発揮。右SBのポジション争いは混沌とし始めている。

 それでも菅原に焦りはなかった。所属先のAZではシーズンを通して主力の座に君臨。弱冠23歳にして、良い時期も悪い時期も乗り越えながらシーズンを戦う術を身につけてきたからだ。

 今回の低調には「まずは個人でできること、自分がやらないといけないこと」に照準を合わせてアプローチ。インドネシア戦から決勝トーナメント初戦バーレーン戦まで中6日の準備期間が設けられている中、「しっかりピッチで起きたこと、自分がどうしてこうなってしまったのかもいろいろと考えられた。いろいろと整理できる時間も十分にあったので、有意義に時間を使えてよかった」と前向きな時間を過ごしてきたようだ。

 またインドネシア戦後にポジション別で行われたミーティングでは、自身の支えとなる実績も確かめることができた。議論の場で共有されたのは強豪国を破った昨年9月のドイツ戦(○4-1)と同10月のチュニジア戦(○2-0)、アジアの中堅国に圧勝した同11月のシリア戦(○5-0)などの映像。シリア戦ではA代表初ゴールも決めた菅原だが、何より大事だったのは良い状態にあった時のチームを再確認できたことだという。

「過去の話ばかりするのは良くないかもしれないけど、でもやっぱり過去に僕たちがやれただけの実績はあると思う。強豪国相手にも自分たちができたことが少なからずあったわけなので、その相手にできて、なぜそれがいまできなくなったのかをDF陣で見返した。コンパクトさだったり、ディフェンス陣から守備のスイッチを入れていくこと。守備のスイッチを入れるのはFWだけど、そういうところをコントロールするのは僕たちDFラインからじゃないといけないという話をした」(菅原)

 第1戦、第2戦では第2次森保ジャパンの好調を牽引していた布陣のコンパクトさが影を潜めていたが、菅原が欠場していた第3戦ではそれが復活した。その改善には右SBの起用以上に、初先発となったDF冨安健洋(アーセナル)が大きな役割を遂行。菅原がピッチに立った場合のパフォーマンス向上にも期待ができる。

 さらにピッチ上ではなかなか本領発揮に至っていない菅原だが、大会中には誕生日を迎えたMF南野拓実(モナコ)やDF板倉滉(ボルシアMG)を報道陣の前でド派手に祝うなど、練習場では底抜けの明るさを見せている。チームの雰囲気は調子の良い選手より、苦しい立場にある選手の振る舞いに大きく影響されるもの。自身のパフォーマンスに葛藤を抱えた若手選手が、それでもなお気落ちしない姿勢を見せていることの価値は大きい。

 菅原はそうした自身の振る舞いには「あくまで自然体でいるのが一番だと思うし、別に盛り上げなきゃいけないとは考えていない」と冷静に捉えている。しかし、これまで世代別代表でもムードメーカーを担ってきた者として、誰かがチームを盛り上げることの重要性は誰よりも深く認識している。

「これだけ遠征も長いと、男だけの集団というのもあるんでね(笑)。いろいろとストレスがあるかもしれないけど、でも楽しくやるべきところは楽しくやるべきだし、そういったところは僕が楽しませてあげられたらなと思っていました。そういうところはうまくメリハリをつけられているかなと思う」

 今後もしポジション争いで苦しい立場になったとしても、その姿勢が変わることはなさそうだ。

「代表というのはおのおの高いレベルがあって、共通認識としてそのポジションを争う立場じゃないといけない。お互いに刺激をし合う存在、言い方を変えればライバルという見方になるかもしれない。でもいまはアジア杯というところで日本代表というチームが一つのチームにならないといけないと感じているし、優勝するためには日本代表が一つになるべきだと思う」

「(盛り上げ役を)僕がやらないといけないわけでもないけど、チームが盛り上がるため、チームの流れを作るためならどんなこともしようと思っている。試合に出る、出ない関係なしにスタッフ、選手も全員で勝ちに来ている大会。僕自身はチームの助けになろうとしているだけ」(菅原)

 そんなムードメーカーとしての矜持が頼もしい菅原だが、もちろん右SBのポジションを譲るつもりは全くない。29日の練習後には居残りでシュートを打ち込むアタッカー陣に向け、鋭いクロスボールを次々に供給。昨年9月のドイツ戦で見せたようなアグレッシブさを取り戻すべくトレーニングに励んでいた。

 オフ明けのこの日は他にも髪型を変えた選手が多く、「朝起きて朝食会場に行ったら似たようなのがいっぱいおるなと思ったんですけど、友達っぽくていいですね」と笑みを見せた菅原だったが、自身のプレーに話が向くと「サッカー選手はピッチ上の出来が全てなので、そこを改善できるようにただやるだけ」ときっぱり。心機一転で迎える一発勝負のトーナメントに向け、輝きを取り戻す準備はできている。

(取材・文 竹内達也)

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竹内達也
Text by 竹内達也

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