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JFA反町技術委員長、任期満了を前に語った危機感と自負「若い選手がどう出てくるか…」「それが今の日本を強くさせている」

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JFA反町康治技術委員長(写真右)

 日本サッカー協会(JFA)の反町康治技術委員長が29日、任期満了前最後の技術委員会終了後、報道陣の取材に応じ、同職を務めた2020年4月からの4年間を振り返った。

 反町委員長は20年4月、技術委員長に就任。世代別代表の指導に携わるJFAロールモデルコーチを新設し、中村憲剛氏や内田篤人氏らを抜擢したほか、フィジカルフィットネスプロジェクトの創設、セットプレーコーチの招聘、大学院生らを巻き込んだ分析業務のバックアップ体制の構築、GKやFWに特化した強化プロジェクトの推進など、幅広い形で強化・普及の取り組みを進めてきた。

 任期中には21年夏に延期された東京五輪や、22年末のカタールW杯が開催され、世界に挑んだ代表チームをサポート。現在の日本代表について反町委員長は「(W杯では)PK方式による負けで残念ながらラウンド8に行けなかったが、かなり世界のトップレベルには近づいてきているなというイメージはある」と太鼓判を押した。

 その一方で「まだ自分たちの力が完璧であるか、盤石であるか。それは下の年代も含めてだが、フランス、スペイン、アルゼンチンなどに比べると、下の年代のW杯を見てもまだまだ足りない部分があると感じている。いまのSAMURAI BLUEは過去の代を見ても最強と言ってもおかしくないくらいの分厚い層はある。ただ、その下に続いてくるものがもっと分厚くならないといけないのにまだ少し物足りない部分がある」と課題を指摘。「もちろん世界大会に出ているからいいと思われているかもしれないが、世界大会の現場で見た人からするとまだまだ差がある。気付いた時にガタンと落ちないようにするために分厚いピラミッドを作っていかないといけない」とさらなる強化の必要性を強調した。

 26年のW杯に向けて日本代表では“世界一”という目標を掲げていることについて、反町委員長は「選手の言葉で(W杯)優勝狙うくらいの気持ちでいるというのはリスペクトするし、彼らが過信になることはないと思うので、そういう気持ちを自信につなげて次のW杯にやってくれればと思う」と前向きな姿勢。「僕もお金を払って見に行こうかなと思っています。メキシコがいいかな」と冗談も交えた。

 それでも育成の未来については危機感ものぞかせた。

「今後、若い選手がどう出てくるかというのが僕が一番の危惧をしているところ。つまり堂安とか、(久保)建英とか、トミ(冨安健洋)はほとんど16歳、17歳でプロデビューをして、20歳前後でSAMURAI BLUE、つまりフル代表でもデビューしているんですよね。でもいまそういう選手が多いかというと、皆さんも浮かばないでしょ。だからそれをなんとかしたいなというのはずっと考えている。JFAとしては16、17歳でJでデビューして、10代でSAMURAI BLUEの一員になるというのを考えている。ただいまの選手のパスウェイを考えた場合、Jリーグデビューじゃなく海外に行く選手も出てくるとなると、Jリーグも含めて今後の施策を考えていかないといけないと考えている。その一つがシーズン制移行かもしれないし、日本の将来を見据えた上で、いろんなポイントを考えていかないといけない」

 そうした問題意識からJFAは昨年末、Jリーグ特別指定選手制度に「JFA推薦枠」を新設。高校生から大学2年生までの選手を対象に、本来であれば特別指定選手登録に必要な「プロ内定」の手続きを取らなくても、近隣クラブのJリーグ公式戦に出場できるようになった。反町委員長はこうした制度設計について「少なからず日本サッカーの将来にプラスになるようにと考えてきた」と振り返った。

 また反町委員長が就任した20年4月はコロナ禍の真っ最中。当時は世代別代表の活動が一斉にストップし、海外遠征に行けない時期が続いていたが、反町委員長は国の規制緩和が進むにつれて海外遠征の必要性を訴え、積極的な送り出しを進めてきた。

「日本の世界の中の立ち位置は極めて東にある国なので、ある程度投資をしていかないと、自分たちの実力も含め、世界マップのなかでの立ち位置が分からない。投資するというのはヨーロッパ、アメリカ、南米でもいいが、いまは我々に欧州拠点もあるので、いろんなコミュニケーションを取れるので行っている。そこで学んで帰ってくることで、選手の学びもあるし、指導者の学びもある。選手の学びとしては相手と試合をしての学びもあるし、一緒に遠征に行った仲間から刺激を受けてというのもある。そういう気づきの機会を与えることが日本サッカーのレベルを上げていくのは間違いない。特に世界大会につながる世代では、いまちょうどトルコにU-16代表が行っているが、今年に入ってからもう2回行っている。世界のそういうところに追いついて、追い越すため、まずは現在地を知るため、どんどん世界に出ていって経験を積まないといけないと思う」

 反町委員長から名前が挙がった冨安、堂安、久保ら、現在の日本代表の中心を担う東京五輪世代もそうした投資を受けてきた選手たちだ。近年、下の世代からA代表にステップアップするに至っていない要因の一つには、コロナ禍で世代別代表活動がストップしていた影響もあるとみられており、海外に出ていく取り組みは今後も重要になる。

 反町委員長は「いまはFIFAランキングが上がってきていることでヨーロッパの国々も我々を招待してくれる。いい回転になっていると思う」とA代表強化の成果が育成年代にポジティブな影響を与えていることを指摘。「しかも日本で全く大会がないかというとそういうわけではなく、新潟国際、インターナショナルドリームカップなどの下の世代の大会も開催して、しっかりとマネジメントしている」と自国招聘との両輪にも目を向け、「財布事情は厳しいというのは聞いている中でも、やめてしまうとガタッと落ちる。工夫をしながらやっていく必要がある」と力を込めた。

 また反町委員長は現在福島県のJヴィレッジで行われているデンソーカップチャレンジサッカーには大学生に混じり、日本高校選抜も特別参戦していることにも触れ、「高校生が出ているのが入れてやるのがいいか悪いかということを言われるかもしれないが、入れることによって上を目指そうとする選手が出てくるし、強い相手とやることで高校生も学びが出てくる。少し背伸びをするところでチャレンジをしていかないと実力はついてこない」と世代間で交流させる重要性を強調した。

 反町委員長はそうした課題に言及した一方で、日本全体の普及・強化の現場には前向きな言葉を続けた。

「全国技術委員長会議でも言ったけど、こんなに自分たちの国の将来のことを考えて、みんなが集合して、ああでもこうでもないと県の施策や我々の施策に意見を言ってというのをやっているところは世界のどこを見ても他にないかもしれない。たとえばヨーロッパだと、U-16代表がスペインと試合をしても、バルサとかマドリーが半分を占めている。でも日本はFC東京とか鹿島が半分を占めているわけではない。(Jユースだけでなく)高校生もいるし、中学出身者もいる」

「それは全体がこうしてまとまって、オールジャパンとしてワンチームでやらないと難しいという土壌があるからだと思う。大学もあるし、高校もあるし、タウンクラブもある。だから日本人の生真面目さとか、みんなで一生懸命に盛り上げるという力は他国に絶対に負けない自負がある。それが今の日本を強くさせていると思う。そういう生真面目さとか、外から学ぶ向学心、それがある限りは日本はもっともっと上に行くと思うし、そうじゃないといけないなと思います」

(取材・文 竹内達也)
竹内達也
Text by 竹内達也

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