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混乱招いた福岡vs川崎Fの一発レッド…発端は「カード対象の見失い」JFA審判委が説明

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DFドウグラス・グローリの一発退場シーン

 日本サッカー協会(JFA)審判委員会は23日、報道陣向けのレフェリーブリーフィングをオンラインで行い、今月20日に行われたJ1第26節のアビスパ福岡川崎フロンターレ戦のレッドカード事例に言及した。

 問題のシーンは後半23分。福岡のDFドウグラス・グローリが自陣ペナルティエリア内で川崎FのMF遠野大弥を倒し、PKの判定が下された場面だ。清水勇人主審はその時点でカードを出さなかったが、VARとの交信を行った後、グローリに一発レッドカードを提示。もしVARの助言によってカードが出されるのであれば、通常はモニター確認によるオンフィールド・レビューが行われる。だが、今回その手続きが行われなかったため、突然のカード提示にスタジアムは騒然となった。

 審判委員会によると、グローリの行為は相手選手を手や腕で妨害する「ホールディング」の反則にあたるため、主に足を使ったファウルに適用される「三重罰緩和」の要件には該当せず、レッドカードの判定自体は適切だった。その一方、「レッドカードを示されるまでにだいぶ時間がかかっている。われわれとしては改善すべきポイントがある」(Jリーグレフェリーデベロプメントマネージャー・東城穣氏)と総括した。

■混乱の原因は「カード対象の見失い」
 それではなぜ、レッドカードが出されるまでに時間がかかってしまったのか。

 東城氏の説明によると、清水主審はPK判定を下した当初から、福岡の選手に「決定的な得点機会の阻止」(DOGSO)にあたるレッドカード相当の反則があったと認識していた。しかし、判定を抗議する福岡の選手とコミュニケーションを取る間に、懲戒罰対象の選手を見失い、カードを出すことができなくなっていたのだという。(※実際、中継映像にもカードが入ったポケットに手を向ける場面が映し出されていた)

 ピッチ上ではそうした混乱が起きていた一方、VARのオペレーションルームでは通常どおり、PK判定の際に行われるチェック項目が映像で確認されていた。この場面では川崎Fの攻撃が始まって以降、オフサイドの疑いがある場面や、クロスがゴールラインを割った可能性がある場面が続いていたため、チェックに時間がかかったが、最終的には「33番(グローリ)のホールディング」と結論付けられた。

 このVARの結論を受けて、清水主審もカード対象者がグローリだったことを認識。すぐにレッドカードを提示した。

■「主審の判定→VARの助言」が大原則
 こうしてみると一見、主審とVARの協力によって、正しい判定を導くことができた事例のように思われる。しかし、その手続きには大きなイレギュラーがあった。

 VAR制度の原則を踏まえると、本来VARが介入する際には、まず主審が判定を行い、続いてVARが助言を行うというのが大前提。主審が判定を下す前に、VARに意見を聞くことは許されていない。ところがこの場面では、主審の判定が完了するまでの間にVARの助言が行われ、それをもとに主審の最終判定が行われた形となっている。

 東城氏は「大前提だが、主審としては判定をまずすること。懲戒罰も含めて下さないといけないと競技規則にも書いている。それを受けてVARがチェックを始める」と原則論を説明した上で、「レッドカードを示すまでの間、選手に来られてしまったので、一瞬そっちの対応をして目を切ったのもあるかもしれないが、うまく対応できたらよかったのかなと思う」と課題を認めた。

 その一方、VARによる選手の特定が主審の判定につながったことについては「チェックの中で番号を伝えるのは通常の流れ。ただ誰か分からないからポンと伝えるのは違うと思うが、チェックの中で何番にイエローカードでというのは通常やっていること」とし、VARの運用上は「大きな問題はない」という見解を示した。あくまでも今回の助言は、VARチェックという手続きの中での情報伝達であり、判定修正につながる「レビュー」にはあたらないという例外的な考え方だ。

■「人間違い」ではなく「見失い」をどう解決すべき?
 たしかにこうした問題が起きた場合、VAR制度の原則論に基づいて解決するのは非常に難しい。

 VARというシステムでは、カード対象の「人間違い」に介入することは認められている。しかし、それはあくまでも「10番の選手にカードを出したが、本来は33番の選手だった」というケースなど、主審の最終判定が誤っていた場合にのみ認められる手続き。今回のように「そもそも誰がカード対象なのか分からない」という「見失い」の例は制度に定められていない。かといって「誰か分からないから10番にカードを出しておいて、VARの介入を待つ」というやり方も適切とは言えないだろう。

 すなわち、VARの制度上適切な運用であったのかという疑問は依然として残るものの、制度がカバーしきれていないケースの解決策としては理にかなったものであったとも捉えられる。

 さらに東城氏は審判側の視点から「どうやったら皆さんにより納得感を持って事を進められるかが次のポイント」と指摘。選手の混乱を小さなものにすべく、「レッドカードをポケットから出して手に持った状況で、『出したいけど番号がわからない』ということを周りの選手に伝えることが方法としてあった。その上で周りの副審、4thとコミュニケーションを対応できればよかった」とさらなる改善に向けた構えも見せた。

 もっとも、こうした例外的な対応がなされた際には、選手だけでなくファン・サポーターの混乱を招きかねない点も留意しておく必要がある。実際、今回の件では「VARが主審の判断を待たずに介入したのではないか」「主審がイエローかレッドかを迷っていたのではないか」という疑いの声がネット上などで噴出。また判定検証番組『Jリーグジャッジリプレイ』では、主審がインカムでやり取りをしていたのはVARではなく副審なのではないかと結論づけられていた。

 スタジアムやテレビを通じて試合を観戦しているサポーターに対し、VARによる判定の流れをいかにして周知していくかはシステム導入初期からの課題。最近では徐々にルールが周知され、頻出事例では混乱なく受け止められることが多くなっているが、この例外事例はファン・サポーターへの伝達方法の必要性もあらためて感じさせられるものとなった。

(取材・文 竹内達也)
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